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PSB-円卓学園-(第二版  作者: 335
3/15

《3》

 今でこそ異星人の存在や、惑星間の貿易は当たり前の時代となり、観光目的で地球を訪れる異星人の年間人数は、ついに二千万人を突破。

 移民数も年々増え、世界人口の五%に迫る勢いとなった。

 しかし今からさかのぼる事、()()()()()

 宇宙の彼方からこの星に交流を求める最初のメッセージがもたらされた時、地球の人々が真っ先に危惧したのは、異星人たちによる侵略行為だった。

 なにせ地球は、水産物が採れる常時液体の海と真水、石油、天然ガス、鉱物資源の埋没する陸地で構成された惑星。

 それに豊富な有機物を含み、植物が育つことの出来る土地や、程よいサイクルで巡る四季、人が生きていく事のできる気温、etc……。

 兎に角、上げていけばキリが無いほど恵まれた、言わば『資源の塊』だ。

 地球の内ですら資源を巡って小競り合いが起きるというのに、外から自分たちと同じか、それ以上の科学水準を持った知的生命体がやって来てくるとなれば、それらが狙われないとも限らない。

 奇しくもこの事態に、群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)としていた主要各国、小国までもが結束。

『連邦政府』が発足された。

 そして表向きには、融和と良好な関係を築きたいというメッセージを返信するその一方で、地球を護る為の他国籍軍『地球防衛軍』を創設。

 国防費を投じて世界各国に、軍事拠点を建設していった。

 そうした中で、拠点施設の防衛と国防を目的に生み出されたのが戦闘用パワード・スーツ、俺たちが言うところの『P・S』だ。

 機体の手足を自在に動かせるよう、ダイレクトな手動操作に加えて、脳から発せられる電気信号を感知する脳波感知センサー、さらにサポートとなるAI制御を併用した『トライ(T)マニピュレーション(M)システム(S)』を搭載。

 脚部足底部に取り付けられたローラーによる素早いスケート走行は、最高時速一五〇キロ前後は出す事が可能とされている。

『星を護る決戦兵器』と謳われたP・Sの製造には、莫大な助成金と優遇措置がなされるとあり、政府お抱えの世界的大手から民間の零細、更にはそれまでスーツ開発にまったく関わった事のない企業に至るまで、様々な業種、業界までもがP・S開発に参入を果たしていった。

 そのお陰で製造業関連の雇用も生まれ、経済が潤うなど、宇宙から第一次の使節団が地球に到着した頃には、ある種の『バブル景気』を迎えていた。


 ところがだった。

 攻撃を警戒しつついざ交流が始まってみると、一向に惑星規模で攻撃を仕掛けてくるような民族も組織もまったく現れない。


 これは後に解った事だが、当時の彼らないし彼女ら曰く。

《地球は、大変恵まれた惑星ではあるが、宇宙全体で見れば太陽系宇宙は辺境の田舎と言わざるを得ない。確かに『メイド・イン・ブルーアース』の資源、物品は高品質で魅力的ではある。しかしながら、質の高い資源が溢れる惑星は地球以外にも、それこそ星の数ほど存在し、コストから見ても、わざわざ侵攻してまで奪うメリットは無い》

 という見解だったらしい。

 もちろん交流が深まり、地球の知名度が上がるに従って、宇宙をまたに駆ける宇宙海賊や宇宙犯罪者、怪物が襲来することもゼロではなくなった。

 しかし、知的生命体が暮らす惑星群による同盟組織『銀河連合安全保障理事会』。

 通称『G・U・S・C』に地球が加盟したこと事により、宇宙規模での取り締まりが始まったこと。

 何よりそれらの事象に対して、意外にも地球の既存兵器で対処できてしまった為、P・Sが出動を要する事態にまで発展する事がなかった。

 これは百年経った現代においても変わっていない。


「……と、こんな所か?」

 我ながら、よく憶えていた物だと感心する。

 妖子は「アルト、凄いじゃないか!」と驚きの声を上げた。

 世間一般に『秀才』と評される妖子から、まさか拍手までされるとは予想してなかったので、なんとも照れくさい。


「フッ…、その回答では満点とは言い難いな。せいぜい『及第点』が良いところだろう」

 人がせっかく良い気分に浸っているというのに、何時の間にか立ち上がっていた唐久多が水を差す。


「何だよ、いちゃもんつける気か?」

「君の話した内容自体に間違いはない。そこは素直に認めよう。しかしそれでは説明不足だ。今の解説では、P・Sが生み出された背景が解っただけで、現代において地球防衛軍が解体されている理由や、バブル崩壊の経緯が説明されていない」

「‥あッ⁉」

 唐久多の指摘にハッとする。

 確かにコレでは、P・Sが格闘スポーツに使われる様になった肝心の理由も解らないではないか。

 褒められて悦に入っていた自分の滑稽さに、顔の温度が急上昇していく。


「白井部長も、お気づきだった筈です。何故ご指摘なさらないのですか」

「‥おい、妖子?」

 恨めしさを含んだ俺の睨みに、妖子は困り顔で「あっはっはっ…」と笑う。


「いやね? 折角アルトがやる気を出してるのに、揚げ足を取るのもどうかなぁ、と…。ほら、ボクって褒めて伸ばすタイプだから」

「こういう場合はむしろ、早い段階で言ってくれ…。完全に赤っ恥じゃんか」

「ごめんごめん。お詫びに試験勉強、協力するから許してよ?」

「勉強見てもらってんのは何時もと一緒だろうが‼ それにお前の教え方、一度の情報量が多すぎて頭に入らんから、あんま役に立たねぇし‼」

「大丈夫! アルトでも飲み込めるように、流動食並に細かぁ~く教えて上げるからさ。手始めに、さっきの説明に唐久多君の指摘した点の補足ね!」


 妖子大先生の、と~っても解りやすい(と自負する)解説によると、異星人が人類にとっての脅威とは成り得ない事が確実になって、地球には大きな課題が残されたという。

 それは存在価値の無くなった地球防衛軍と、量産されたP・Sの扱いだ。

『星を護る為』というお題目で湯水の如く使われてきた国防費は、元を正せば国民から徴収された税金で賄われていた。

 予想外の事だったとはいえ、それが全くの無駄になった訳だ。

 増税や新たな税徴収に目をつむってきた大衆の不満は爆発し、連邦政府を痛烈に批判するデモが世界中で多発する事と成った。

 結果、当時の政府関係者は総辞職に追い込まれ、地球防衛軍は早々に解散させられる運びとなった。

 ところが組織自体が無くなっても、世界中には円卓学園の元となった施設を含めて未だ、()()()()()が別の用途で再利用される形で残されたままとなっている。

 その理由は主に二つ。

 一つは単純に、建物の強度が頑丈過ぎて簡単には取り壊せなかったから。

 伊達に金を注ぎ込まれただけの事はあり、戦車砲弾を打ち込んでも壁にヒビ一つ入らないらしい。

 ただそのお陰で、災害時の避難所としては打ってつけとの事。

 二つ目の理由はとしては、一部の人々から『やはり念の為に残しておいた方が良い』という意見が上がった為だ。

 地球人は、基本的には異星人たちを信じてはいる。

 しかし、感情がある以上『万が一、もしかして』という疑念や畏怖を捨てきる事はできないらしい。


 因みに、円卓学園の元となった施設が、()()()()()()()()()()()()()()()だったのは世界的にも有名に話だ。


 さて、建物という物は正直、他の使い道を探せば何とでもなった。

 だがP・Sはそうは行かなかった。

 転用しようにも、各分野には既に、それに対応したパワード・スーツが山のように存在している。

 それに巨大で無骨な上に、パワーも強すぎて出来る事が限られてしまう。

 また施設程ではない物の、こちらも漏れなく頑丈だ。

 解体するとなれば、またそれ相応の費用がかかる。

 何よりの問題は、P・S産業が既に世界経済において、大きなウェイトを占めるマーケットに成長してしまっていた事だ。

 新政権がP・Sの新規生産を禁止した事でバブルが崩壊していく状態で、パーツ等の製造までを完全にストップしてしまっては、地球経済その物の破綻に直結してしまう。

 かといって供給ばかりが成されたところで、消費されなければ何れはそれら製造業の維持にも限界が来る。

 世界は何としても、P・Sに対しての『需要』を考え出さなければならなかった。


 真っ先に提案されたのが、戦闘用らしく戦争兵器への利用だった。

 しかし『戦争』と言うものは、それ相応の『動機』があってこそ勃発する物。

 世界が連邦政府、G・U・S・Cの二本柱によって統制され、宇宙の科学力を取り入れることによる新技術により、化石燃料を初めとするエネルギー資源の問題が解決していく中で、争いが起こる理由が存在しなかった。

 いよいよもって、P・Sは『無用の長物』になろうとしていた。


 だがP・Sの活用法を見出したのは、なんとも皮肉な事に異星人サイドの人々だった。

 惑星間の交流が始まって彼らが真っ先に関心を示したのは、地球のサブカルチャー。

 特にオタク文化の、ロボットや宇宙戦艦などの出てくるバトル漫画やアニメ作品だった。

 実に意外な話だが、宇宙には地球との交流が始まるまで『大型の戦闘ロボット』や『宇宙戦艦』などが登場する空想作品は存在しなかったらしい。

 地球を訪れた異星人観光客が『戦うロボットを見たい、宇宙戦艦はどこか?』と聞くのも珍しい話ではなかったそうだ(感覚的には、この国に来た外国人が『侍や忍者はどこにいる?』と聞くような物だ)。

 そこで政府は観光収入を見込み、物は試しにとP・S同士を用いたバトルショーを観光客向けに企画、実施してみた。

 するとこれが異星人のみならず、地球人にも大うけ。

 最初こそ不定期開催のショービジネスであったが、その人気はたちまち宇宙全土に波及していき『自分も操縦してみたい、戦ってみたい』という人々が地球内外に続出した。

 P・Sの需要はV字回復し、程なくして、P・Sを用いた格闘スポーツ、『P・S・B』のプロリーグが発足。

 連邦政府、G・U・S・Cにも公認され、オリンピック種目になるまでの昇華を果たした。

 これが俗に言う、P・S・B誕生の歴史である。

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