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PSB-円卓学園-(第二版  作者: 335
2/15

《2》

 窓を開けた瞬間、金属の物体同士が激しくかち合う音に思わず全身の毛が逆立った。

 空気がビリビリと振動し、窓が枠ごとガタガタ震える。


 探索部の部室は、普段授業などを行う本校舎とは別棟の『サークル棟』三階にある。

 そこから斜め下方向に見える、今時にしては珍しい土のグラウンド。

 石灰パウダーで引かれたランニングコースに沿って、円形の人だかりが出来ていた。

 皆、円の中央で行われている卒業式最後にして最大のイベントに一喜一憂の声を上げている。


 傾きかけた太陽に照らされてた、組み合う二つのシルエット。

 しかしその姿()()、そして()()()は人にあらず。

 全長10メートル弱、大型のトラックに手足を引っ付けて、そのまま立ち上がらせたかの如くずんぐりとした巨体。

 動くたびに夕日を反射させる、陶器よろしくツルンとした光沢のあるボディ。

 巨大な二体のロボットが、比喩ではなく本当に火花を散らし戦っているのだ。

 一機は、片刃タイプの大剣を振り回す剣士型のロボット。

 その攻撃を防いでいるのは、両腕にトンファーのような武器を取り付けられた格闘型のロボット。


 試合はどうやら、格闘型が劣勢のようだ。


「押されているか…。流石は卒業生チーム」

 いつの間にか、俺の隣に唐久多が立っていた。

 直前まで俺を馬鹿にしていた男と同一人物とは思えない真剣な眼差しで、防戦一方の格闘型を見つめている。


「おい妖子? 在校生チーム、結構ピンチっぽいぞ」

「え、ホント? どれどれ?」

 妖子は油で汚れた手袋をポケットにねじ込むと、何故か俺の背後に立つ。


「アルト、背中を借りるよ?」

「ぁ? ッグェ⁈」

 言うが早いか、妖子は行き成り俺の背中に飛びつき、首に両腕を回した。


「ゲホッゲホッ⁈ 何時も言ってけっど、行き成りおぶさんのやめろって⁉ 殺す気か、この子泣き爺‼」

「アルトも唐久多君も、ボクより頭一つ分は背が高いから、こうでもしないと見えないんだよ。それとボクは女の子だから、例えるなら『爺』じゃなくて『婆』だよ」

「どうでも良いわ! ‥ほら、退いてやっから早く降りろ」

「まぁまぁ良いじゃないか。女の子を背負うなんて男冥利に尽きるだろ?」

「油臭くなければな」

「そのうち慣れるよ。それはさておき、っと……。ウン、思った通りここは特等席だね。わざわざサークル棟までダッシュして来た甲斐があった」

 文句も抗議もどこ吹く風。

 妖子は俺の肩越しにそのまま試合観戦を始める。

 ここで体を挟む彼女の両足を、大人しく支えてしまうのが俺の駄目な所だ。

 一瞬こちらを見た唐久多が顔をこわばらせて何か言ようとしたが、耳をつんざくような金属音が響き、直ぐに目線を試合へ戻した。

 見ると、物凄い土煙が上がっており、格闘方の姿が見えなくなっていた。

 格闘型が倒されたのだろうか?


「白井会ちょ、‥いえ部長…」

「うん、ココが正念場だね」

 それまで妖子を『会長』と呼んでいた唐久多は、彼女を『部長』と改めた。

 何を隠そうこの二人、生徒会の会長、副会長であると同時に、あの格闘型を整備したサークル『P・S部』の部長、副部長の関係でもあるのだ。


 剣士型が剣を上段に構え、土煙の方へと歩み寄っていく。

 どうやらトドメに入るつもりらしい。


「うぅ~ん…。やっぱり、リーチ差がネックだね」

「と言うより、剣士型に対して格闘型で『P・S・B』は無謀だろ。向こうは距離を一定に保って戦えるけど、格闘型は間合いまで近付けなきゃ文字通り手も足も出せんのだし」

「まったく、解ってないなぁアルトは。そういうハンデをひっくり返して勝つからこそP・S・B…『パワード(P)スーツ(S)バトル(B)』はロマンがあって良いんじゃないか!」

 舞い上がる土煙の中から『ゴォッ』という轟音を立てて、格闘型の腕が現れる。

 土煙は、奇襲のための目くらましだったようだ。


 しかし予測していたとばかりに、剣士型はバックスウェイ。

 格闘型の拳が、あと一歩届かない。


「チッ、惜しいな。今年も卒業生チームの勝ち逃げか?」

「いや、まだだよ!」

 そう言うと妖子は、ツナギのポケットからタブレット端末を取り出すなり「先輩、今だ!」と叫んだ。

 すると次の瞬間、格闘型が装備していたトンファーの先端部分が、大砲のような音を発して突出。

 金属の巨大な杭となって、剣士型に襲い掛かったのだ。

 これに関しては予想外だったらしく、剣士型はボティを捻って回避行動をとる。

 が、それよりも杭が伸びるスピードの方がはるかに速い。

 杭によって左肩を貫かれた剣士型は、胴体との接合部をやられたらしく、左腕がもげ落ちる。

 破壊された腕が校庭に転がると、観衆が一斉に歓声を上げた。


「あちゃ~…。残念、決め切れなかったかぁ…」

「クッ…、申し訳ありません部長。作戦の見通しが、甘かったようです」

 ところが妖子と唐久多は、揃って悔しそうな声を漏らし眉をひそめている。


「なに言ってんだ? 片腕もいだんだ、破損率的にレフェリーストップでこっちの勝ちだろ?」

「フッ…、やれやれだよ朝野君…。学園の生徒でありながら、君は学園行事の内容も知らないとは…。卒業生との送別試合は毎年、公式の国際ルールに則り行われているんだよ」

 唐久多はさも呆れたようにかぶりを振る。


「アルト、最近のP・S・B公式ルールは知ってる?」

「いんや、もう何年もテレビ中継は見てないし。授業とかでやる時のルールとは違うのか?」

「ボクたちが普段の運動科目や個人で楽しむレベルでのルールはローカルだよ。ここ数年のルール改正で、破損率での勝敗判定は撤廃。今は勝つために『相手を戦闘不能にする』か『装備武器を破壊する』必要があるんだよ。あと機体が無事でも『武器を手放したらその時点で負け』だね」

「徹底的だなぁ。今でこそ娯楽スポーツだけど、そういう容赦のないルール聞くと、元は『兵器』だったって思い知らされる」

「良いじゃないか。()()()()()にあまり攻撃的な民族がいなかったお陰で、P・Sが戦争に使われることも無く、こうして平和的利用で人々を楽しませてくれているんだから。そもそも『パワード・スーツ』の起源は『兵器』としてじゃなくて…」

 いかん、妖子の『熱弁エンジン』に火が着き始めたぞ?

 ことP・Sの話となれば、長期戦の危険性がある。


「解説よりも先に…、そろそろ降りてくれ。主に膝と腰がヤバくなってきた」

「情けないなぁ。ボクはアルトを、そんな貧弱に育てた覚えはないよ?」

「育ててもらった覚えはねぇよ」

 俺の体が小刻みに震え始めたので、妖子は「しょうがないなぁ」としぶしぶといった感じで背から降りた。


「白井部長! 宜しければこの僕、唐久多 犬介が背中をお貸ししますが?」

 唐久多は素早くその場に跪き、受け入れ態勢を整えて妖子を振り返る。


「パワード・スーツは元々、人の身体機能を補助、増強化する事を目的に『服のように着用する』というコンセプトで研究が始まった機械装置の総称なんだよ」

 しかし妖子は唐久多をスルーして説明を始める。

 諦めろ副会長、妖子はこういう奴だ。


「主に体が不自由な人たちや、それを介護よる側の人たちの負担軽減、災害時の救助活動といった人命に関わる補助器具として開発されたのさ」

「災害時は解るけど、介護にあんなデカいロボは要らんだろ。大きすぎて普通の家や病院には入らんだろうし」

「あっはっはっ! 全部が全部、あの大きさな訳ないじゃないか」

「まったく、少し考えれば解りそうな物だろ? 君は実に馬鹿だな」

 唐久多は跪いたままの体勢で俺を馬鹿にする。

 本当に言動がいちいち腹立つ奴だ。

 でもな副会長、今のお前の姿のほうがよっぽど馬鹿らしくて、見ていて痛々しいぞ?


「消防隊の人たちが着てる防護服や、病院で使われてる介護用サポートスーツ。あれも分類的にはパワード・スーツの仲間に入るんだ。でも確かにアルトの言う通り、P・S・Bで使われるような大型の戦闘用機体なんかは、地球外文明からの脅威、要するに『宇宙からの侵略』に対抗する手段として開発された物だね」

「その辺の事情なら流石に俺でも解る。再来週からの学年末試験だから、一昨日の世界史の授業で嫌と言うほど総復習したしな」

 うちの学園は春休み直前に学年末試験があり、ここ数日はあらゆる科目の授業が試験対策の特別編成となっている。

 近代史の試験範囲は、P・S発祥の歴史にも関わりが深い。


「おぉ⁉ 勉強嫌いのアルトが、特に苦手な歴史科目を真面目に勉強しているなんて関心関心。近々隕石群でも降ってくるのかな?」

 目に見えて面白半分の妖子にイラッとして「喧しい」と返す。


「折角の長期休みだってのに、補習と追試のコンボはもう懲り懲りなんだよ」

「うんうん。夏と冬の中間試験で二回も追試を受けただけの事はあるね。良い心がけだ。でもアルト?『勉強』は、学んだ事が身に付いてこそ意味があるんだからね?」

「言われなくても解ってるっつーの! 一年の最後くらいは一発で合格してやる」

「お、自分からハードル上げるねぇ。ならちゃんと内容を憶えているか、ボクがテストしてあげるよ。『惑星間交流の始まりとパワード・スーツ産業による好景気』について説明してみて?」

「えぇ…、それは勘弁してくれ。せっかく蓄えた知識を今ココで放出すると、本番で忘れそうな気がすんだよ…」

「これもアルトの為、いわゆる『愛の鞭』って奴さ。ほら、制限時間は三分! あ、因みにタイムアップした場合は今度『スウィーツキングダム』で『デラックス・アルティメット・スウィーツパフェ』奢って貰うから悪しからず」

「はぁ! ちょ、待っ!」

「はいはい残り、二分四五秒」

 本当に、妖子は昔から何事においても唐突な奴だ。

 まぁ、妖子らしいと言えば妖子らしいが。

 しかしながら、財布の中身が大ピンチの今月、()()()()()もするパフェを奢らされるのは明日以降の昼食事情に関わって来る。

 ココは何としても答えなければ。

 目を閉じて記憶の引き出しを総動員し、憶えている限りの事を披露することにした。

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