表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PSB-円卓学園-(第二版  作者: 335
1/15

《1》

【ご挨拶&概要など】

 始めましての方は始めまして。335と申します。

 この度はご閲覧、真に有難うございます。

 本作は、某小説大賞に応募を目指して書いていた作品で、小説サイト『エブリスタ』にて掲載している『世界暦構想』シリーズの内の一つに、推敲、加筆、修正を行ったものに成っております。

 ジャンルはロボットバトルを主とするSFファンタジー物を目指しておりますが、果たしてそれにカテゴライズして良い物か…。

 何はともあれ、335作品群『P・S・B‐円卓学園-』をお楽しみ下さい。

 ココでのひと時が、どうぞ有意義でありますように…。

 青天の霹靂(へきれき)

 物事というのはこちらの都合などお構いなしに、いつも唐突にやってくる。

 先輩たちの卒業式を終えて部室に戻るなり、俺は何者かに額をピシャリとひっぱたかれた。

 それと同時に、貼り付けられた紙によって視界を塞がれる。


「何故この僕が直々に来たのか解るか? 朝野(あさの) アルト君?」

 コツコツと、わざとらしい靴音が俺の背後で止った。


「諸先輩方が卒業した今、このサークルは君一人となった訳だ」

 暖簾(のれん)のように垂れ下がる紙を指で持ち上げ、目だけで声の主を確認。

 やはりと言うか何と言うか、生徒会の副会長にして執行部部長。

 唐久多(からくた) 犬介(けんすけ)がそこにはいた。

 主張の強い黒眼鏡に対して、執行部の証である真っ白の学ランに『副会長』と黒地に白で書かれた腕章が良く映えている。

 キッチリと閉められた詰襟には優等生の証であるバッチが傾きなく止まり、背筋を伸ばして後ろ手を組む姿は、見ているだけで肩がこってくる。


「時に、君は学園におけるサークル活動の規約を読んだ事は?」

 ヌッと、肩越しに嫌みったらしい笑顔が並ぶ。

 実にうっとうしい。


 だが俺は、嫌味には嫌味で返す主義だ。


「生憎と俺は、副会長様ほど勉強家じゃないんでな。学生手帳を擦り切れるまで読みふける事も、付箋紙まみれにする趣味もねぇよ」

 顔に張られた紙を引っ剥がして、それを読むフリをしつつ窓際まで逃げる。

 唐久多が何を言いに来たのかなんて百も承知だった。


「だろうな。ならばこれを期に、よく読みこむ事をオススメしよう。学生規約第十一章、サークル活動における規約その一だ。『部活、または同好会などのサークルの結成には最低でも二名以上の所属を必要とする』。‥何を言いたいか、解るだろう?」

 さも得意げに唐久多は言うが、そんな事はわざわざ学生手帳を読まなくても、サークルに所属する学生なら誰でも知っている。


「‥クソッ…」

 尤も知っているからこそ、俺は口から漏れる悪態を止められない。

 案の定、紙に書かれたその文面は、部室の返還と廃部を勧告する(むね)だった。


 先ほど唐久多が言った通り、うちの学園は二人以上のメンバーが居れば『同好会』として認められ、申請が通れば活動の拠点となる『部室』を持つ事が出来る。

 更に部員数が五人以上になれば『部』に昇格。

 活動資金となる『部費』が、生徒会を通して支給されるようになる。


 だがそれは裏を返すと、部員数が五名以下になった時点で部費は打ち切り。

 同好会への降格を意味する。

 まして先輩たちが卒業して部員が俺一人となったこのサークルは、学園のルール上、同好会としてすら維持できなくなる。

 勿論この状態が続けば部室から追い出される事や、最悪の場合、廃部勧告も覚悟はしていた。

 しかし、先輩達が抜けた当日に来るとは予想外だ。


「いやちょっと待てよ副会長。先輩たちが卒業したのは今日、それも一時間ちょっと前だぞ? 夏頃まで猶予すんのが普通だろ」

「それは普通に活動している()()()()()()()()に許された執行猶予だ。『学園お散歩部』などという、ふざけたサークルにそんな権利はない」

「うちは『学園探索部』だよ‼ 何だよその気の抜ける名前は!」

 怒るドサクサついでに、廃部勧告を握り潰してゴミ箱に投げ捨てる。

 対して唐久多は「似たようなものだろ」と鼻で笑い、部室中心に置かれた長テーブルに腰を下ろした。


「良いかな朝野君? 生徒会には設立したにも関わらず、スペースの都合で部室を持つ事ができないサークルからの上申書がひっきりなしに届いている。むしろここ数年、大した実績を出せていないにも拘らずに部費ばかりを無心するサークルの存続を許して来た、生徒会の対応に感謝してもらいたいくらいだ」

「実績が芳しくないのは他のサークルにだって言えんだろ! って言うか『実績を出せ』って言うなら、執行部も邪魔すんじゃねぇよ! 毎月の活動報告出すのに、どれだけ苦労して来た思ってる!」

「『邪魔』とは心外だな。我々執行部は、立ち入り禁止区画にばかり()()()()()()()()、素行の悪い生徒を諭しているに過ぎない。君も知っての通り、我らが学び舎『円卓学園』は元々『地球防衛軍』の軍事施設を改修、修繕した建物だ。学園として活用されている区画は施設全体の六五%ほどで、まだ多くの部分は当時のまま放置されている。生徒会は勿論、教師陣ですら把握できていない場所も少なくは無い」

「だったら尚更、その解らない部分を調査して活用できる区画を開拓する探索部の存在は重要な筈だろ‼ 開放区画が増えれば学園にとってプラスになるし、それこそ部室不足の問題だって解決、」

「ならば、仮にだ」

 俺の言葉を遮ると、唐久多は胸ポケットから畳まれた紙を一枚取り出して立ち上がる。


 広げられたそれは、先程俺が捨てたのと全く同じ廃部勧告書。

 俺が一枚目を捨てると見越して、ご丁寧に複数印刷して来たという訳か?


「新たな区画を確保できたとして、その区画整備にどれだけの労力と時間を要すると思っている? それに費用もだ。総額を考えれば、このサークルにこれまで支払ってきた部費の何倍、いや何十倍にも膨れ上がるだろう。新たな区画開放する事と、実績の乏しいサークルを減らして部室を確保する事。どちらが効率的で有益かなど、比べるまでも無い」

「でもだからって、」

「部員に関してもそうだ。夏までの猶予を持ち出したあたり、春休み開けに入ってくる新入生の加入を期待しているようだが、確実に部員数が増えるという保証は?」

「ッ…」

 唐久多の矢継ぎ早な言葉は、俺に反論のスキを与えない。

 流石、嫌な奴だが相手は腐っても副会長様。

 普段から舌戦を生業とする相手に、一学生の言葉などまるで歯が立たない。


 尤も『指摘がもっとも過ぎて反論できない』っていうのが、正直なところではある。

 現に卒業した先輩たちも、俺しか勧誘出来なかったが故に今の事態に陥っている訳だ。

 だけどどんなにニッチなサークルにだって、入部希望者の一人は居るかもしれない。

 勧誘方法を工夫すれば、最悪でも幽霊部員の一人でも確保できる筈だ。


(となると一番の問題は、現状の打開。執行猶予期間を認めさせる方法だな…)

 せめて二日ないし三日もあれば、取り敢えずの成果を出す()()もなくはない。

 しかし唐久多の性格を考えるに、何かしらのアクションを起こした所で、俺一人が出した成果を『サークル活動』とは認めない可能性がある。


「フッ…『返す言葉も無し』と言った所か? 君も悪足掻きせずに現実を見ることだな」

 唐久多は勝ち誇った表情で、廃部勧告を突き出す。

 逃げたいが、窓際に居るのでこれ以上は下がれない。

 脇をすり抜けるにも、積まれているダンボールや備品が邪魔だ。


(チッ…、万事休すってか? 畜生め…。せめてもう一人、部員が居てくれれば…)


「話は聞かせて貰ったーッ!」

 その時だ。

 突如、結構な勢いで部室の引き戸が開いた。


 同時に強烈な機械油と、燃料の香りが室内に充満していく。


(ヴッ! この臭いは…)

 こんな臭いを漂わせる人物を、俺は一人しか知らない。


 はたしてそこに居たのは、学園でその名を知らない者はいない銀髪の少女。

 油汚れの目立つ緑色のツナギに身を包み、首からゴーグルを下げた白井(しらい) 妖子(ようこ)だった。


「し、白井会長⁈」

 唐久多は現れた妖子を見るなり姿勢を正し、折り目正しく頭を下げる。

 それもその筈。

 彼女が有名なのは、何もこの油臭さと少々変わった身なり故ではない。

 学園の入学試験において、前代未聞の全科目オール九十点台をたたき出し、学年成績では常にトップ三圏内。

 更に、弱冠一回生にして上級生候補者を破り、圧倒的な支持率のもと誕生した全生徒の頂点。

 ()()()()()、その人だからだ。


「部員数が足らないなら、ボクがこの部に入るよ。うちの学園、兼部は禁止じゃないからね」

 妖子は無骨な作業用ブーツでズカズカと部室に入ってくると、俺と唐久多の間に割って入った。

 彼女の様に唐久多は目を見開き「ま、待って頂きたい白井会長!」と異議を唱える。


「正当な活動を行わないサークルを、事もあろうに会長自ら容認するなど、他の生徒会メンバーやサークルにも示しが、」

「探索部の活動報告書ならボクも読んだよ? 行動が制限されていた割には良くまとめられているし、提出期限もちゃんと護っているじゃないか」

「お言葉ですが、適当な嘘を並べ立てて、嘘の報告書を書き上げた可能性も…」

「大丈夫、比較的安全な場所に入って裏をとって来た。書かれている内容は全部事実だったよ。まぁ確かに? 立ち入り禁止区域に無許可で出入りする事は看過できないけど、それならそれで執行部の誰かが同行するとか、監督者になる先生を誰か紹介して調査させてあげれば良かったんだよ。生徒会は生徒の皆が、明るく楽しく愉快に学園生活送れるように手助けをする為の組織だよ? 意地悪しないで活動を続けられる方法や、存続を手助けする事こそが、ボクたち生徒会の役目であり存在意義じゃないかな? あぁ、でも存続の件はボクが入部すれば『同好会』として維持できるし、そこは問題解決だね?」

「グッ…、うぅ…」

 流石は会長職を務めているだけの事はあって、頭は切れるし舌が回る回る。

 それに唐久多よりもずっと上手だ。


「さぁアルト? そういう訳だからこれから宜しく! ボクと一緒に、学園の全貌を解き明かして行こうじゃないか!」

 身体を俺の方に捻り、妖子はドヤ顔で親指を立てた。


「はぁ~…。妖子さぁ、頼むからココに来る時は着替えてからにしてくれよ。汗と機械油でひどい臭いだぞ…」

「え? そ、そうかな? ボクはこの臭い、結構好きなんだけど…」

 妖子はツナギの襟に鼻を近づけ、スンスンと臭いを嗅ぎ首をかしげる。


「朝野君! いくら白井会長と()()()()()()とはいえ、女性に対して体臭の話とは失礼にも程がある!」

 そう言っている唐久多も、しっかりハンカチで口と鼻を押えていたりする。


「‥そんな事より副会長、天下の白井会長がこう言ってんだ。廃部の件は保留で頼むぞ?」

「クッ! い、良いだろう…。会長に免じて、この場での廃部勧告は、見送る」

 唐久多は苦虫を噛み潰したかの如く表情を歪ませ、廃部勧告を自ら握り潰した。


 ココで丸めた紙を探索部の使っているゴミ箱ではなく、自らの懐に収めたのは唐久多なりのプライドなのだろう。


「しかし…、しかしだ! 今月中に何かしらの結果を出し、報告書を提出できなければ廃部を勧告する事に変わりはない! これは探索部に限った事ではなく、学園の全サークルに課せられた義務だ。嫌とは言わせないぞ!」

「へいへい、解ってるっての…」

 指を突きつけてギャーギャーと怒鳴る唐久多をあしらい、俺は鬱陶しい空気を入れ替えようと窓を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ