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7話「育成ゲーム」




 最強の暗殺者アサシンだなんて恥ずかしい名乗りを終えた俺は、ポカンとしていた少年を連れてその場を後にした。

 だって周りの人の痛々しいものを見る目に耐えられなかったんだもの…………あれ以上あそこにいたら全員記憶がなくなるように頑張ってたかもしれない。


 そんな大問題を起こすことなんて出来るはずもなく、現在俺たちは薄暗くて汚い、裏道らしきところを歩いている。

 前を歩くのはスリの少年。

 俺は少年が小さな集団を作っていると予想し、そこへ案内してもらっているのだ。

 弱き者が強き者に抵抗するにはやはり数が必要だからな。

 時々行く手を塞ぐ輩が出てくるが、そのときは俺がサッと前に出て適当に転がしている。

 しばらく転がし続けているとぱったり前を防ぐ輩は消えたが。


「…………何が目的?」


 そして、ぱったり襲撃がなくなり暇を持て余し始めた頃、少年が前を向きながら話しかけてきた。

 どうせ暇なことには変わりないので返事をする。むしろ俺から話しかけていこう。


「いーや、大したことないぜ~。それよりお前の仲間ってどれくらいいる?」

「…………二十人」

「おぉ、数が数えられるのか! 偉いぞ!」

「…………馬鹿にすんな。それより目的は? ボクには聞く権利があるはずだ」


 少年は一度立ち止まると、振り返る。

 俺を見つめる視線は研ぎ澄まされた刃のごとく鋭い。

 嘘は許さないと目が雄弁に語っていた。

 だが、俺はそのような視線を気にしたことが今まで一度もない。

 故に、今回もいつも通りその目を見ることなく軽薄に返してやる。


「いーや、ないね。弱者はいつだって強者に権利を奪われるものだから~」

「…………」

「ま、別に隠すようなことじゃないし、教えてやるよ」


 そう言うと俺は少年に前を向かせて背を突っつく。

 再び歩き出した俺たち。

 そして、しばらくしたところで俺は話し始めた。


「目的は単純明快、お前らを救ってやるためだ」


 今回の俺の遊び(・・)の内容を。


「……え?」


 少年は俺の言葉が理解できなかったのか、立ち止まってこちらを向こうとした。

 だが俺はそれを許さない。

 頭をガシッと掴んで前を向かせて歩かせ続けた。

 振り向かせない理由は特にない。

 強いて言うならば、振り向かせないことにより少年の心を揺さぶり、その反応を楽しむため、かな。

 そして俺のそのねらいは上手くいったようで、少年はぶるっと肩を震わせた。


「…………救う? ボクたちを?」

「おう、お前らを俺の気まぐれで救ってやるって言ってんだ。俺の気が変わらないうちに案内しやがれ~」


 気の抜けた命令を言った俺は少年の頭から手を離す。

 しかし、俺の意と反して少年は足を止めた。

 一体何事かと見てみれば、少年は下を向いて拳を固く握りしめていた。

 それを見て俺は気づく。


 ――あ~、これ信用できないとかめんどくさいパターンのやつだ……


 俺は、うわぁと思いながら立ち止まる少年に声をかける。


「おい? 歩かないの――」

「――うるさい! 黙れ! またそうやって俺たちをだますつもりなんだろ!」


 はい、めんどくさいパターン決定~。

 俺を憎しみのこもった目で睨みつけながら叫んだ少年を見て、俺は内心そう思った。

 そりゃそうだよな、スラムにいるような子供が救うなんて言葉を鵜呑みに出来るはずもないよな。

 俺はおでこの生え際の当たりをカリカリと掻きながら失敗したな~と反省する。

 だが…………


「……大丈夫だ、俺はそんな奴らと一緒なんかじゃない」


 所詮は子供。多少の話術で簡単に懐へ入り込むことは出来る。話術で信じさせるまで至るのは俺じゃ無理だが。


 俺の言葉に少年は表情を変えずに続きを促す。

 おそらくこういうことを言う奴は他にもいたんだろう。

 しかし裏切られた。

 なら俺は『こいつは裏切らない』という可能性を与えてやればいいわけだ。

 俺は両手の平を上に向けて少年の前に出す。


「いいか、よく見とけ」


 そして、受付嬢に見せたように両手の平から金貨を溢れ出させる。

 驚愕して目を見開いたまま固まる少年。

 俺はどんどんと地面にこぼれ落ちる金貨を見ずに少年へと喋りかける。


「この通り、俺は金には困っていない」


 まずこれで子供たちをどうにかして金を稼ごうとしているとは思わないだろう。

 そのとき、俺は背後から何者かが迫ってくるのを感じた。

 いや、正確にはずっと感じていた。

 ただ今までは尾行してくるだけだったので放っておいたのだ。

 全く、ちょうどいいタイミングで来てくれた。


「あっ!」


 それに気づき声を上げる少年。

 しかしその声は遅く、既に俺の後ろからきた人物は手に持った得物で俺へと殴りかかろうと振りかぶって――


「そして俺はものすごく強い」

「…………」


 ――足を払われ、顎を砕かれ、地面へと崩れ落ちた。

 一瞬の攻撃。

 ステータスに任せて高速で足を優しく払って、ついでに顎を砕いただけなんだが。

 少年は俺が何をしたのか分からなかったようで、ポカンと口を開けたまま俺の後ろをずっと見ている。


 俺はもういいだろうと金貨を出すのをやめ、地面に山となった金貨に足を触れさせる。

 吸い込まれるように消えていく金貨。

 ほんの数瞬でその場は一つの汚いゴミが増えた以外、先ほどと同じ薄暗く、汚い裏道へと戻ってしまった。


「…………あ、あなたは……」


 ようやく我を取り戻した少年が怯えた声音で尋ねてくる。

 そこに先ほどまでの猫に噛みつく鼠の強さはない。

 あるのは狼に怯える兎のような恐怖だけ。


 よし、これでやりやすくなった。

 俺は内心そう呟き、少年の質問に答えてやった。


「俺はアイン。お前らを気まぐれに救ってやる者だよ」


 これで育成ゲームがやりやすくなった、と思いながら。










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