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4話「勇者」



「すいませんがギルド長がお話があるとのことです。付いてきてください」

「は?」

「拒否権はありません。こちらです」


 俺のギルドカードを持って行き、帰ってきた受付嬢は息を整える時間すら惜しいと、要件を伝えた。

 それに疑問を浮かべる俺だったが、拒否権がないと言われてムッとする。


 なんか相手に命令されるとイライラするなぁ……前の俺が社会の歯車で、上の命令に従ってばかりいた反動か? 

 まあ、そこに甘んじていたのも俺で、自業自得というか……


 ともあれ、この世界について何も知らない内は下手に動けないと悟った俺は、やや不機嫌になりながらも受付嬢についていくことした。


「あいよー、ちゃっちゃと案内してくれ」

「では、こちらです」


 受付嬢がカウンターの一部を開けると、俺をそちらへと手招きする。

 そしてそのまま受付嬢は俺を先導して歩き始めた。


「…………こちらです」


 そしてカウンターの奥にあった階段を二つ登ると、一つの扉の前に立たされる。

 それは特に豪華だったり変な仕掛けがあるようには見えず、ただの扉だった。

 ギルド長っていうくらいだからもっと豪華、もしくは変なカラクリがある部屋にいると思ったのだが……ま、いっか。


「失礼しやーす」


 俺は本当に仕掛けがないか、もう一度サラッと見てから軽く中へと入っていった。

 こんなお偉いさんでも気軽に行く俺マジ無謀。

 俺が中に入ると、後ろに続いて受付嬢が付いてきた。

 そしてそのまま扉を閉めて、立ち塞がるようにそこへ佇む。

 え? まさか俺疑われてる? 何にかは分からんが……


「こんにちわ、さあ立って話すのもなんだ座ってくれ」


 俺が自分の行動を振り返っていると、部屋にいた人物、ギルド長が俺に椅子を勧めてくる。

 俺はそれに、へいへい、と適当に返事をしながら部屋の様相を盗み見る。


 室内には奥に大きなデスク。その手前に向かい合うようにソファらしき長椅子が二つ。

 背もたれが片方が俺の方、もう片方が向こうを向いている。

 左右の壁は、本棚で天井までビッシリと隠れており、なんとなく隠し部屋とかありそうだなと思った。

 なお、窓の類はない。


 続いてギルド長も観察しておく。

 ギルド長は俺の想像していた通りで、つるっぱげ、かつ、ヒゲはあるゴツい顔をしたゴリラだった。

 ただ、喋るし、紳士的な雰囲気から、人間だろうと推測できる。

 …………流石に失礼だな。ごめんちゃい。


「さて、今回ここに君を呼ばせてもらった意味は、分かるよね?」


 俺が心の中でゴリラ長に謝ると、タイミング良くゴリラ長がそう言ってきた。


 …………間違えた、ギルド長だった……もういいや、ゴリラ長でも。どうせ心の中だし。


 俺はギルド長の呼び名を心の中限定でゴリラ長と決定すると、ゴリラ長に返答する。


「はい、もちろん分かってますよゴリラ長」

「ゴリラ、長?」

「ぷっ」


 あかん、言っちゃダメだって思ってたらつい……

 幸いゴリラ長は聞き間違いだと思うことにしたらしく怒るようなことはない。受付嬢は笑ってるけど。

 ゴリラ長は、うん、と頷くと口を開いた。バナナが欲しいのかな? 


「分かってるなら話は早い。アレはどうやって作った」


 俺が心の中でふざけていると、ゴリラ長はそんな態度許さないとばかりにピリピリした空気を作ってそう聞いてきた。

 ゴリラ長というだけあるか、その身に宿る覇気と言うか、野性味というか、なんか凄い。


 ていうか、アレ? 何それ? どれ? ……なんて惚ける気はなく、多分ギルドカードのことだろう。呼ばれる理由とかそれしか思い浮かばな…………他にもあるか。

 俺はこんな偉い人に呼ばれる理由を考えた時、受付嬢に渡したギルドカードの他に、あの教会の事を思い出した。


 あれ、多分異世界召喚した場所だよ、きっと。だからその教会をぶった斬って逃げた俺はおそらく捜索されている。

 そりゃあ、召喚して早々教会ぶった斬るとか完全に敵対行動してるもの。捕まったら隷属とかされちゃうだろうな。


 まあ、つまり、俺はその情報をもらったゴリラ長にまんまと誘い込まれた可能性も無きにしも非ず、というわけだ。

 …………ま、アレとかいうし多分ギルドカードのことだろう。てか教会が俺を探してるなら、さっさと逃げないといけないな……


「……どうしたんだ? 言えない理由でもあるのか?」


 なんて今後のことまで考え始めてしまい、口を開かない俺に業を煮やしたのか、ゴリラ長が威圧をかけながらそう聞いてきた。

 顔は完全に威嚇するゴリラで、あと歯をむき出しにしたら野生でも十分通用するようになるだろう。

 頭の中でまた失礼なことを考え始めた俺は、またも黙り込みそうになり、慌てて弁明する。


「いやいや~、メンゴメンゴ。ちょっと考え事してたからさぁ。えっと、あぁギルドカードの事ね。あれ使えないの?」

「いや、使える」


 俺の言葉にあっさりというゴリラ長。

 その潔さ、やっぱあんたゴリラの頂点狙えるよ。


 ギルドカードが使えるならば何も問題は無いのではないだろうか、と疑問符を浮かべる俺にゴリラ長は少しばかり安堵したような顔をして話し始める。


「むしろ問題はそこだ。ギルドで作られていないギルドカードが存在し、使える。これがどれだけ大変なことなのか、当然分かるよな?」

「あー、なるほど」


 俺はゴリラ長の説明を聞いて納得する。確かにこのギルドカードは元の世界、というかあの仮想現実の中で作られたものだ。ならばこちらで作られたものと違うのは道理。

 てかこっちと向こうのギルドカードが同じ仕組みっていう方にびっくりだわ。スキルの『影踏み』が出来たことからなんとなく似たような世界だとは思ってたけど。


 となると、ゴリラ長はギルドカードの偽造とか、不正なカードの流出を恐れていたわけか。

 カードを作れるってことは、多分偽造するくらい簡単なことに思えるしね。


 てなわけで、それに気付いた俺はこのカードのことをどうやってゴリラ長に話そうか迷うことになる。

 だって、俺は別世界から来たんです~、とか言っても普通信じないだろ。俺だったらむしろ警戒する。

 だからどんな言い訳を考えればいいのか……いや、正直に言えばいっか。なんか面倒だ。


「で、俺を呼んだのは何故?」

「分かっているだろうが、このギルドカードを、いや正確にはギルドカードの製造方法悪用しているのでは、と思っていたのだが……な。俺にはお前がそんなことするような奴には見えない。だから出来れば大人しくそのギルドカードを貰った所を教えて欲しいんだが……」

「あー、成る程ですねー。でも安心して下さい、これの製造方法はこの世界にはありませんよ」

「…………何?」

「実は俺、ついさっきこの世界に召喚された勇者らしいんですよー。でもね、あの教会の奴らの態度っていうか、俺たちを懐柔しようとする雰囲気が気に入らなかったから逃げてきたんすよ」

「…………」


 もう全てをゲロッちゃえ、とばかりに全てを曝け出した俺。いやん、個人情報駄々漏れ。

 ゴリラ長はこの返しは予想外だったのか、ピシッと固まって動かない。俺命名、ゴリラの彫像、なんつって。


 しばらくするとゴリラ長は深々とため息をついて喋り出す。


「はぁぁああ……まさか勇者がこんなところにいるなんて……」

「あ、やっぱ不味い?」

「不味いなんてもんじゃねぇよ……出来れば大人しく捕まってくれたりしてくれると」

「断る」

「……だよなぁ」


 なんか俺につかまってくれと言ったゴリラ長だったが、俺の即答を聞いて諦めてくれた。

 おー、話がわかるゴリラは好きだよ、俺。


 ゴリラ長は一頻りため息をつき、頭を落ち着かせると、よし、と呟いて立ち上がった。

 なんだなんだ、と思うも一瞬、いきなりゴリラ長が俺に殴りかかってきた。


「うぉお! いきなりあぶねぇな!」

「……やはり避けるか。すまんな、俺も勇者を逃したとなれば首が危ういんでね」


 紙一重でゴリラの拳を避けた俺は、悪態をつきながら、素早く部屋の奥へと逃げた。

 だが、部屋の唯一の出入り口は扉のみ。逃げようにも、そちらはもうゴリラと受付嬢に塞がれている。

 さて、俺大ピンチ! と普通はなるわけだ。


「だが、生憎俺は普通じゃないんでね! 【影渡り】!」

「ッ! 後ろか!」


 もうここにはいられそうにないなと結論付けた俺は、愛用しているスキル【影渡り】でゴリラと受付嬢の後ろへと転移する。

 そしてゴリラが振り返る一瞬の間に俺は扉を開けて廊下へと飛び出した。


「くっ、【拘束バインド】!」


 あの受付嬢の声がしたと思った瞬間、俺の身体を締め付けるように何かがまとわりつく。

 しかしそれはすぐさま俺の魔法抵抗にレジストされ、散っていった。

 残念、暗殺者アサシンは拘束系とかにはデタラメなほど強いんだよ! 俺を数秒でも拘束するなら魔攻値九千は必須だぜ!


 そして、俺を縛るものがなくなったところで俺は外へ逃げようとし、


「………………ダメだ」


 今の状況を省みて、立ち止まった。

 木製の廊下は俺の急停止の衝撃を受け、ギィと嫌な音を立てる。

 このまま逃げたらダメだ。今ここでどうにかしないと。


 そう考えている隙にゴリラ達は俺のすぐそこまで来る。


「何が起こったのかわからんが、そのまま大人しくしていてくれるとこちらとしては嬉しいんだがな」


 まーだ言ってら。

 捕まったら最後、死ぬまでこき使われるのになんで捕まるんだよ。

 俺は自分の乱れ始めた心を強くもつため、いつものように軽い調子で話しかけた。


「いーや、それは無理~。だって隷属とかしたくないし」

「大丈夫です、勇者は人類の希望。それを無理矢理動かすなど出来るはずがありません」


 受付嬢がほざく。

 甘い。こいつは何を言っているんだ。

 自由に使えない強力な駒ほど使いたくないものはない。

 いつその矛先が自分たちへ向くか分からないからだ。

 ゴリラはそのことをしっかりと理解しているのか、苦い顔を浮かべる。

 よし、やっぱ賢いゴリラには長という称号を与えよう、ゴリラ長~。


 てか本当に異世界に来てそうそう良いことないな。

 普通に戻ってしまえば俺は国にいいように使われてしまう。

 ここで逃げてしまえば指名手配などでろくに生きていけなくなる。

 最悪の状況じゃねぇか。


 だが、まだ打つ手はある。

 俺はゆっくりと、刺激しないように振り返るとゴリラ長へと提案した。


「なぁ、俺をギルドに登録させてくれよ」









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