21話「宣言」
「…………今度はどんな厄介ごとだ?」
子供たちが殺しの童貞を捨てた数日後、俺はギルド長であるガルドの執務室に来ていた。
立ち位置は扉に背を向けたソファに俺、向かい合ったソファの向こう側にある執務机にガルドだ。
俺は頭を抱えるガルドを楽しそうに見つめながら、相も変わらず尊大な態度でソファにもたれ掛かる。
「いやだなぁ、その言い方だと俺がここに来るたび厄介ごとを持ち込んでるみたいじゃないか」
「事実そうだろうが……」
ま、その通りなんだけど。
いつもの俺ならこのままもう少しガルドをおちょくってから本題に入るのだが、本題の内容がアレなだけに今回はすぐさま本題に入った。
「んで、本題はというと……………………」
「…………なんだ?」
無駄に溜めを作る俺に若干キレながらガルドは言う。
そんな慌てなくてもちゃんと言いますってば~。
心の内でそんなことを呟きつつ、俺はニヤッと笑ってガルドに言った。
「…………なんと! 今日そこの教会という名の大きな城に侵入して俺を召喚した人物を暗殺してきま~す! イエーイ!」
パチパチ~と言いながら――手も全身を包む黒い布に包まれており音がしないため――手を叩く俺とは対照的にガルドは微動だにしない。
特徴的なつるっぱげを抱えて俺を睨みつけた姿勢のまま変わらない。
フォンフォン手を叩く俺と時が止まったように動かないガルド。
……………………ちょっと気まずい。
「………………どういうこと、だ?」
俺が徐々に気まずくなってきた空気を壊そうと思い始めた時、ガルドはやっとこさ声を出した。
しかし内容は俺にさっきのことを説明しろとのこと。
説明も何もそのままなんだけどな。
「俺、暗殺者。弟子、暗殺者。俺を呼んだ奴、悪い。だから、殺す。オーケー?」
というわけで、そのまま伝えてみました!
明らかな言葉不足だったり、なかった情報があるが、それはガルドをおちょくるのが目的と言うことで気にしない。
俺の言った言葉がだんだんと理解できてきたのか、ガルドの顔が徐々に青く、そして白くなっていく。
俺の言ったことが行われ、それによって被る被害を考えてしまったのだろう。
しかもそれはおそらく氷山の一角程度のこととも感じている、と。
ぶっちゃけ俺みたいな一般市民には被害なんて想像も出来ない。
異世界をつなぐような重要人物が暗殺されて及ぼされる様々な被害。
………………んー、別に市井への被害はなさそうだな。
お偉いさん方がギャーギャー騒ぐだけで一般市民の方々にはなんの影響もなさそう。
もしかしたらその重要人物がこの町を取り仕切ってるとか、資金提供してるとか、はたまたその人の損害を取り戻すとかなんとかで税金を徴収させられるかもしれないけど、まぁそんなことないだろうし。
……いやここは中世とかいう理不尽だらけの世界だから十分あり得るのか……? てかよく考えたら日本でも選挙で結構な金使うしなぁ……
ま、よく分からんことは考えても仕方ない。
なお、ガルドはその被害を受ける少ないお偉いさんとのこと。
御愁傷様です。
「…………それは止められないのか?」
心の中でガルドに合掌していると、ガルドは縋るようにそう言ってきた。
言われてガルドの目を見てみれば、やはりというかガルドの目は半分以上諦めている目だった。
向こうも諦めてることだしこちらも遠慮はいらないな。
俺はスッキリした気持ちで爽やかな笑みを浮かべて言い放つ。
「無理っ!」
「…………そんな笑顔で言わなくても良いだろうに……分かった、どうせ俺には止められないことだし、見逃す」
「見逃さざるを得ない、だろ?」
「…………わざわざ指摘するなんて良い性格してるなぁ」
「よく言われる~」
もちろん言われたのはゲームの中の俺だけである。
むしろ、現実の俺は普通過ぎて周りに認識されていなかったように思える。
悲しみ。
ともあれ、これでガルドへの用件は終わったことになる。
というわけで、今夜に向けてサッサと帰りましょうかね~。
俺はスッと立ち上がると、自然すぎる故に消えたように人には見える歩き方で扉まで行き、ガルドへと振り返って手を振る。
「そんじゃ、またね~」
「用件はそれだけなのか? これだと俺が教会にこのことを伝えて終わるが?」
「おう、それが狙いだからいいよ! さっきも言った通り今回の暗殺は俺じゃなくて弟子みたいな子たちがやるんだよ。ちょっとくらい難易度を上げとかないとね~」
「…………」
「んじゃ、今度こそバイバーイ」
俺の言葉を受けて考え始めたガルドにそう言って、俺は本当に執務室を出ていくのだった。
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最後までとんでもない情報を落としていった問題児――アインが出て行き、ガルドは深く息を吐く。
「…………ったく、全部力で解決してたあの頃が懐かしいぜ……」
そう言った数秒後、扉がノックされていつも通り秘書が入ってくる。
「失礼します。書類を……どうしたんですか?」
しかし入って早々ギルド長の心底疲れたような表情を見て声をかけた。
ガルドはそれに不可解なことを感じて返答する。
「どうしたも……そこで会わなかったのか?」
「受付からここまで来るのに誰にも会っていませんが」
「…………さっき、ほんの数秒前までアインがここに居たんだよ」
ガルドの言葉に秘書は僅かに眉をピクリと動かす。
彼女は執務室に来るまで誰にも会わなかった。
にも拘らずガルドは数秒前までここにあのアインが居たという。
と言うことは彼は転移をしたか、もしくはよほど高度な隠密スキルを使いつつ秘書の目を欺いたか…………
しかし今必要な情報はそんなことではない。
「…………で、用件はなんだったのですか?」
故に秘書は再び感情を心の奥にしまうと単刀直入に聞く。
その対応にガルドは相変わらず立ち直りも早いなと思いながら答えた。
「今夜、あいつはあいつが育てた弟子たちに魔導師様を暗殺させるらしい」
「はっ?!」
「…………久しぶりに見たな、お前のそんな顔」
ガルドの言葉に秘書は大きく開けた口を慌てて閉じる。
しかし若干赤みがさした頬はすぐには戻らなかった。
ガルドはそんな秘書を尻目に、執務机の引き出しの一つを開ける。
そして取り出すのは一つの鏡のようなもの。
秘書はすぐさま立ち直りそれを使う意味を悟ると、部屋にいくつかの魔法を施していくため部屋のあちこちから道具を取り出していく。
防音の魔道具、対盗聴の魔道具、魔力線保護の魔道具、など全てガルドの持つ魔道具専用に造られたものばかり。
魔王のやってくるという魔の森に一番近い大都市と言うだけあってギルドも惜しみなく貴重な品を送っているようだ。
やがて全ての魔道具を発動させ終えた秘書はガルドに向かって神妙な顔で頷く。
それを確認したガルドは手元の鏡のような魔道具に魔力を流していき、この町最大の教会へとパスを繋いだ。
数秒の沈黙。
「――う。――願う。応答願う」
雑音混じりに聞こえてきた向こうの声。
それがしっかりとした言葉になったところでガルドは鏡に向かって喋りかけた。
「こちら冒険者ギルド、ギルド長のガルド。緊急連絡故、すぐさま魔導師様にお繋ぎいただきたい」
「魔導師様は現在会議に参加しておられております故、私が代わりに――――」
「――――これは危険度一級の問題。かつその問題は魔導師様の命にかかわること。会議を抜け出してでもお伝えしなければいけないことだ。至急、魔導師様をお呼びしてくれ」
ガルドの有無を言わせない物言い、そして危険度一級という言葉。
向こうは一瞬ガルドの言葉を一蹴しようとしたが、相手の立場及び危険度一級という言葉の重みを考え、即座に了承の返事をする。
「……分かりました。至急魔導師様にお繋ぎいたします。しばらくお待ちください」
「頼む」
ガルドはそう言うと一度大きく息を吐く。
これから起こる出来事、そして今から自分が話す内容を信じてくれるかどうか不安に思いながら。




