18話「ギルド登録」
「今度は何をしたんだ…………」
俺たちが自己紹介をしてから数ヶ月、子供達も結構強くなってきた頃、俺は子供達をギルドに登録させるためにギルドへと訪れていた。
しかし何をまかり間違ったのか、俺たちは今ギルド長室でギルド長であるガルドの前に並べられている。
本当はさっさと受付で終わらせたかったんだけどなぁ…………
ギルドに顔を出すなり受付嬢は走って報告に行くし、ギルド内は水を打ったように静かになるし……俺が何をしたっていうんだよ…………ちょっと調子に乗って俺を潰しにきたバカを半殺しにしただけじゃん…………
そんで案の定ギルド長に呼ばれて渋々ついて行ってやった結果、出会い頭に今さっき言われた言葉が『今度は何をしたんだ』だ。
今まで俺がしたことと言えば、脱走したのと、俺に突っかかってきた冒険者を森の奥深くに連れて行って置いてけぼりにしたのと、上から目線で配下になれって言ってきた裏組織的な何かを壊滅させたことくらいだ。
ちなみに森に置いていった冒険者は半殺しにしたのとは別のやつだ。
………………うん、何も問題はないな。
「首から上は飾りなのかな? ただでさえ見てくれが悪いのに」
てなわけで俺は腹いせに煽ってやった。
あいつの呆れたような目もかなり苛ついたし。
そして、俺がギルド長――ガルドを煽った瞬間、あいつは素早い踏み込みで俺に殴りかかってきた。
踏み込む寸前に魔力で足場を強化するなど、一応建物には気を使っているらしい。
素早い踏み込み、虚を打つ瞬発力、十分力が乗った拳。
それらは中級レベルの魔物に匹敵する攻撃だ。
しかし俺にとっては回避しやすいただのパンチでしかなく。
「どうしたん? 虫でもいた?」
「うぜぇ…………殺してぇ…………」
ススッと避けてそう言うと、ガルドはハゲ頭に血管を浮かべながら俺を睨みつけてきた。
何もしてないのに無駄な時間を取らせた対価と割り切ってくれ。
俺は呆れ半分、気だるさ半分といった風にススッとソファまで歩くと、両手を背もたれにひっかけてソファに座り込み、ガルドに声をかけた。
ちなみに立ち位置は扉近くに子供達、その前に怒り心頭なガルド、さらにその前にソファを挟んで俺が座っている。
「で、用件は? まさか寂しかった?」
「っ! っ! …………ふぅ」
ソファで尊大な態度をとる俺にガルドは何度か殴りかかろうと魔力を増大させていたが、なんとか押さえて息を吐く。
そしてツカツカと俺の向かいのソファに歩いていくと、ドカッと座り込んだ。
ガルドは俺の、脚を組んで背もたれに両手を広げてもたれている姿――尊大で苛つく姿――を見ないために目を瞑ったまま本題に入った。
「用件はどうしてその子達を冒険者登録するのかということ。別に規則的には問題はない。しかしこの場での問題は子供達を連れてきたのがお前という点だ」
「なら問題はないな。登録よろ!」
「お前、人の話を聞いてたか?」
「とりあえずガルドが寂しがり屋ということは理解した」
「【風の刃】
本音を言ったら無数の鎌鼬が俺を襲ってきた。
だってことあるごとに俺を呼んで話し相手になってもらうとか寂しがり屋以外の何だって言うんだよ。
今回だって特に問題はないといいながら俺を呼んでるし。
俺が連れてきたとしてもそんなに大変なことでもないだろうに。
だいぶ鬱陶しいよ。
俺はそんな考えを持ちつつ次々襲いかかってくる鎌鼬をぬるぬるした動きで受け流していく。
ぬるぬるぬるぬる、軟体動物みたいに動いて。
「……なに?」
ガルドは俺が行っている動きによってもたらされる結果を感じ取り、驚愕に顔を歪めた。
まさかこの変な動きで攻撃を無効化されるとは思っていなかったのだろう。
そして、結果的にガルドの攻撃は高級そうなソファをボロボロにしただけで終わった。
「………………続けよう」
やせ我慢なのか、ガルドは振り絞るように声を出した。
気になるなら最初から攻撃なんてしなければいいのに。
俺が言うなってか。
「お前に問題がなくても俺たちには問題があるということだ。今までの問題行動からしてお前がただ子供達をギルドに登録させるだけで終わるはずがない。だからお前には子供達を使って何をなすのか、それを教えてもらわなければならない。もちろんギルドは不用意な詮索を行わないと公言している。しかしもう既にこちらはお前を詮索するに足る出来事が山ほどあるんだ」
ガルドはそこまで言い終えるとさてどうするとでも言うような視線を投げかけてきた。
そこには懇願も、諦観もない。
ただ俺にどちらを取るのか問いかけてきている。
俺はそんな視線を避け、上を見上げながら考える。
おそらくガルドは既に国と話を付けているのだろう。
故に俺がどっちの選択肢をとっても行動できるようになった。
断れば全力で俺を捕らえに、もしくは殺しにかかる。
了承すればこのままの関係を続ける。
全く持って面倒なことだ。いっそのこと教皇を殺してやろうか。
まあ、そんなことをしたら他国からも指名手配とか受けそうだけどな。教皇をも殺す極悪人、的な感じで。
俺は一息つくと視線を前に戻す。
しかし焦点はガルドのさらに向こう側。
そして俺はガルドに返答する。
「…………んー、本当に対したことじゃないんだけどなぁ。暇つぶしにこいつらを鍛えてるんだよ。んで、魔物と戦わせようと思ってて、ならついでに冒険者になって金を稼がせようって思ったわけ。これでいい?」
「……………………本当だと信じよう。今まで無駄な嘘は吐いてこなかったことだしな」
「それって俺が必要な嘘なら吐くって言ってるようなものじゃん」
「……人の揚げ足ばかりとりおって……」
そう言ってガルドはため息を吐いた。
そして手元にあるベルを鳴らすと数秒後に扉が開く。
どうやら話は終わりらしい。
秘書さんが扉を開けて待っている。
「どーもどーも、それじゃー」
俺は、いつの間にか武器に手を添え殺気立っていた子供たちに落ち着くよう声をかけながら部屋を出ていく。
しかし子供たちは落ち着かないのか、ずっとガルドと秘書さんを警戒しながら部屋を出ていった。
そしてギルドの廊下。
そこで俺は大きく息を吐く。
結局俺が呼ばれた理由は子供たちになにをさせようとしているのか、ということだけだった。
しょうがないと思いつつも、そんなことの為だけに呼ばれるのは面白くないし、俺の理性ではなく感情の部分で納得いかない。
俺は現実と違うこの世界で大きく理性と感情のバランスが崩れるのを感じていた。
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「お前はアレをどう思った?」
黒ずくめの暗殺者――アインが出て行った室内でギルド長のガルドは部屋に入ってきた秘書にそう問うた。
スラッとした体型の秘書は数十枚の書類を胸に抱え、質問に答えずガルドに近づく。
そしてガルドを抜き去り、大きな執務用の机に書類をドスンと置くと無表情のまま答えた。
「凄まじい力を感じました。アインについている点よりおそらく孤児だと思われますが、それがここまで大きな力を手にするとは。それとこの書類、片づけて置いてくださいね」
「むぅ…………となると『エグ・マリン』の言葉も信憑性を得てくるな。まさか魔の森の奥深くで子供たちがサバイバルとは信じ難いものだったが……」
ガルドは秘書の最後の言葉は聞こえていないように振る舞い、ソファの上で思案に暮れる。
しかし秘書はそれを許さない。
「【電撃】」
「うぐっ!」
秘書がガルドの肩に手を置いて魔法名を唱えるとガルドの体がビクッと震える。
手先が痺れる感覚を味わいながらガルドは情けない顔で振り返った。
「書類、お願いしますね」
しかしそこで待っていたのは無表情でガルドを見下ろす秘書の顔。
ガルドは渋々執務机に移り、書類に目を通していく。
秘書はガルドを監視できるよう入口に近い方のソファに座ると手帳を取りだしなにやらメモを書き出した。
「………………」
「……………………なあ、あいつは何をすると思う?」
黙々とお互いに作業を続けていく中、不意にガルドが口を開く。
秘書はチラッとガルドに視線を向けるが、ガルドがちゃんと書類を片づけながら喋っていることを確認すると自分も再びメモを取りながら返答した。
「わかりません。あの人は私たちとは何もかも違う。性格も、考えも、人生も、力も……人間性も。だから私には分かりません」
「だな。俺もあいつがわからねぇ。そもそもあいつは人間なのか。被ってるのは布のくせに欠片も肌を見せやがらねぇ。見えるのはあいつのどこを見ているのか分からない目だけだ」
そう吐き捨てたガルドは手を止める。
それを感じ取った秘書は顔を上げて眉をひそめるが、ガルドが譲らない姿勢をとったので仕方なくメモを取りながら話を聞いた。
「お前も子供たちのことを凄まじいと感じたよな。だが最初あいつらを見たとき俺は全くそんな気配感じなかった。凄まじい気配は俺がアインを攻撃したときに感じた。つまりあいつらは俺の目を欺いていたわけだ」
「…………なるほど。しかもアインを攻撃したときということは少なからず子供たちはアインのことを思っていると」
秘書は顔を上げずに答えた。
ガルドはそんな秘書に構わず続ける。
「あぁ、そうだ。それと退室の時。あいつらが部屋を出るとき、いや入ってくるときも俺は一切の音を感じ取れなかった」
「それに加えてあの身のこなしと警戒の仕方。これらから導き出される答えは…………暗殺者」
ポツリと呟かれた言葉とともに秘書の手が止まる。
そして秘書は顔を上げると結論を述べた。
「つまり、彼は暗殺者の育成をしている、と」
「あぁ、しかもただ敵に近づいて殺すだけの暗殺者としてはかなりの手練れだ。闇討ちされたらたまったもんじゃない」
そういうガルドだが、その顔にはまだ焦りはない。
たとえ闇討ちされても今の子供たち程度なら返り討ちにする自信と実績があるのだろう。
それは秘書も知っているのか、特に心配することなく続ける。
「それではどうしましょうか?」
「様子見しかないよなぁ……変に強制するとものすごい反発がきそうだ…………なんでけた違いの強者ってのは人のいうことを聞かないのか………………」
「ギルド長も同じようなものだったじゃないですか。あのときの自分を思いだしてみれば彼らの気持ちも分かるんじゃないんですか?」
秘書の言葉にガルドは苦虫を噛み潰したような表情になるが、すぐに昔の自分を思いだして納得してしまう。
「…………確かに俺も同じだったな。強すぎるから止められるものがいなかったんだ。あいつも同じ状況ってことか」
「とにかく、アインに関しては今まで通り監視につとめることでよろしいでしょうか?」
「あぁ、そうしてくれ。もっとも、あいつは最初からそれに気づいていたようだがな。『エグ・マリン』の斥候が泣いていたよ」
そういったガルドは苦笑いを浮かべ、肩を落とす。
国とギルドの板挟みで早くもガルドは疲れ切っているようだ。
しかしそんなガルドであっても仕事はなくならないし、減らない。
数秒で心を少しだけ持ち直したガルドは泣く泣く仕事に戻るのだった。




