雷天高校の日常を、貴方も覗いてみませんか?
私立雷天高校。
後に神々の間でその名が恐れられる事になるとは、誰も知らない。
もちろん私も知らない。
その日私は神の権限を使っていつものように異世界を覗いていた。
そして偶然、この高校の職員室にチャンネルがあったのだ。
職員室は学校の二階にある。
春の穏やかな光が流れ込む部屋で、一人の女性教諭がデスクに突っ伏していた。
後ろから小学生おぼしき男の子が舌足らずな声で語りかける。
「山田ちゃん、どうしたの? いつものぱわーがないよ?」
山田と呼ばれた女性教諭は、けだるげに起き上がって妖しい色気を放ちつつ振り返る。
小学生がこの場に居る事に疑問を持つ様子も無く山田は口を尖らせた。
「もぅ! お昼寝してたのに邪魔しないで下さいよぅ〜!!」
彼女のぶりっ子によって、妖しい気配は一瞬で雲散した。
猫撫で声のまま山田は言った。
「子ども先生ひどいですぅ、せっかく気持ちよく寝てたのにぃ」
「山田ちゃんごめんね?」
上目遣いで謝る小学生、もとい子ども先生。
この身長130代の子どもが教師だと!?
この世界には小人族は居ないはずなのだが……
私が悩んでいる間に話は進んで行く。
子ども先生を抱きしめる山田。
「ぐはぁっ、許しますぅ!! 可愛いは正義です!!」
「山田ちゃん!!」
「お前ら……」
少し屈んで職員室に来た強面の男がため息を吐く。
こいつ教師……だよな?
服の上からでも分かる鍛え抜かれた体、百戦錬磨の鋭い眼光、そしてこの場所に不釣り合いな木刀って木刀ぅぅ!??
なに、この世界体罰有りっだった? 教師として限りなくアウトだよね!! この世界では有りなの!??
「ああっ! 僕、轟ちゃんの次がじゅぎょうだっ」
男の顔を見た子ども先生が慌てて職員室から出て行く。
「轟せんせ、お疲れさまですぅ!」
甘えるような声で山田が男にすり寄る。
「寄るな。後、名字で呼べ」
じろりと山田を睨みつける轟。
「だぁってぇ〜、先生の名前って 轟轟(とどろきごう)じゃないですかぁ〜。どっちも『轟』なんで変わりませんよぉ」
轟 轟で、とどろき ごう……親は何故こんな名前をつけたのだ。
のび○び太レベルじゃないか、いやむしろ超えている!!
「俺のは轟だ」
「はぁ~い」
更に睨みつけ地獄の底から聞こえるような低音で言う轟へ山田は適当に返事をして自分の椅子に座り仕事を始める。
パナい、パナいっす!!
神に死の恐怖を感じさせた轟も凄いが、それを平然といなしている山田も凄い。
俺は轟の怒気で震え上がったのに!
そうか! 山田は自分の危機を感じない馬鹿なだけか!
轟は木刀をデスクに置き椅子に座ってから深くため息を吐いた。
隣の男性教師はそんな轟に「お疲れさまです」と声を掛ける。
あるうぇ? 誰も突っ込まないってことは、その木刀はデフォルメなんですね。
教師が木刀持っていいっぽい?
そんな中、職員室の扉ががらっと開いて一人の青年が入って来た。
「如月(きさらぎ)せんせ、お疲れさまですぅ!」
早速山田が椅子から立ち上がりすり寄って行く。
男だったらなんでもいいんかい。
あきれる俺。
「ああ、山田先生。そこまでお疲れさまでもないですよ」
イケメン如月は柔らかく微笑みながら山田を避け、滑るように椅子に座った。
そしてパソコンを開く。
なるほど、『僕は今から仕事するから喋りかけるのは遠慮してね』と言う事か。
こやつ出来る!
そしてマトモだっ!!
山田は顔を引きつらせ、自分の場所へすごすご帰って行った。
教師がどんな仕事をしているか気になり如月の手元を覗いてみると……
○月△日
山田由美子 罪、星三つ 追加星二つ
と見えたので、急いで画面をずらす。
っちょ、如月おまっ。
見た目は爽やか優男なのに、見てはいけない闇がぁぁぁ!!
散々人間見て来たけど、本人がすぐ側に居るのに微笑みを崩さずこんな事やってる奴は初めてだよ!
ブラッキーだよぉ! ほれっ、バレたらどうする!
急いで如月の周りを伺うと山田がそれをがっつり見ていた。
どうなんの、これどうなんの!!!?????
俺が身を乗り出した瞬間、画面に浮かんだ言葉は、
<本日のサービスは終了しました>だった。
ちくしょぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!
次の日新しい面白教師が出て来て……俺は観察対象を『雷天高校』一択に決めた。
(神の俺から見ても)例を見ない雷天高校、貴方も一度覗いてみたら?