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旅行初日

 浩二は夕食の時間まで旅館の周りを少し散歩する事にした。


 旅館から出て少し歩くと看板があった。この辺りの地図が描かれている。地図を見ると温泉街の中心にはちょっとした公園があるらしい。


 浩二の宿泊している旅館からは距離があったが特に予定はないしブラリとするには丁度良い。


 実際に着いてみると中々の公園だ。緑が多く、小川や小さな滝もあり静かで良い場所だ。その中で橋や足湯が自然にマッチする造りになっている。


 まるで日本庭園のような風情がある作りだ。温泉街の宿泊客だろうか、足湯に浸かる人やベビーカーを押している人も居る。気が付くと死神は足湯に浸かっている人達の間をフワフワしていた。


「これ、ちょっと見てみんしゃい。こんな所で足を洗っとるぞ」

「それは足湯だよ。足だけ温泉に浸けてるんだよ」

「何故足だけなんじゃ? 怪我でもしておるのか?」


 浩二も実際に足湯を見るのは初めてで、何故と言われても分からなかった。


「え~っと、……疲れてんだよ。多分」

「足だけ疲れておるのか ?何じゃ。旅の途中か?」

「あ~、そうだね……。山を越えてきたんだよ、うん。みんなここで休んで行くんだ」浩二は考えるのが面倒臭くなり、適当に答え始めた。


「そうなのか。なるほどのう……。もしや電車にみんな乗りに行くのかのう?」

「そうそう、電車ね。みんな電車好きだから」

「なるほどのう、だからみんなスシ詰めになっても乗るんじゃのう」

「そうそう、スシ詰めなんて気にしない気にしない。電車好きだから。今回も俺のおかげで電車乗れたんだからな。感謝すれよ」

「そうだったのか。わしの初仕事がお主で良かった。この者達はまだ電車に乗った事が無いとはのう。ぶひゅ! わしが生きておればじっくり電車の素晴らしさを語ってやるのにのう。ホッホッホッ」


 適当に答えていると何やらおかしな方向へ向かっている。今日初めて電車乗った奴が得意げにしているのは何かシャクに障る。


 浩二はそんな死神を見ていてある事に気が付いた。


「……死神。お前、鎌どうしたんだ?」


 死神は自分の両手を見る。もちろん何も持って居ない。


「しまった! 宿に忘れて来てしもうた。……でも安心せい。すぐ呼び出せるのじゃ」


 死神が上に手を伸ばすと何処からともなく鎌が現れる。


「どうじゃ、いつでも簡単に出し入れ出来るのじゃよ」

「だったらそんな物騒なもんはしまっておけよ」

「何を言う! 鎌は死神のあいでんててぃなんじゃぞ! 手放せる訳が無いじゃろう」


 たった今まで手放していた奴がよく言う。


 浩二の旅行初日は素晴らしいものになった。公園を満喫し、美味しい料理を食べて、温泉に入って浩二は十二分に満足していた。だが死神は違った。


 死神はずっと漫画が読みたいだのテレビが見たいから早く部屋に戻れだのグチグチと言い続けてる。だったら温泉にまでついて来なければ良いのに。


 確かに料理も食えず、温泉にも浸かれなかった死神にとってはつまらないだろうから浩二は黙って言わせておいた。


 せめてテレビ位はと思い死神に好きな番組を見せてやった。死神の後頭部越しにテレビを見ていると浩二は溜め息が出てしまう。


 俺はこんな所まで来て何しているのだろう。これでは家で過ごしているのと変わらないじゃないか。


 浩二は明日何をするか考えた。旅行に行けば楽しいものと旅行初心者の浩二は思っていた。だから何も下調べせずに来た。そして困っていた。


 はたしてこの土地では何が有名なのかさっぱり思い付かない。そこでスマートフォンを取り出して色々検索してみると自然が見所らしい。


 浩二は聞いた事無かったが滝やら池があるらしい。他にもこの季節には海水浴客で海も賑わっているようだ。確かにタクシーで来る途中も温泉街の周りを歩いた時も自然豊か…、というか自然しかなかった気がする。


 取りあえず明日は自然を散策することにした。選択肢としては山か海になるが男一人で夏真っ盛りの海に行く勇気は無い。いや、死神ももれなくついて来るか。


 明日は死神が文句を言っても出来るだけ気にせずに楽しもうと浩二は心に決めた。


 そうと決まれば後はのんびり過ごせば良い。浩二は近くにあった座布団を丸めてごろりと横になるとスマートフォンで最近ハマっているゲームを始めた。

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