死神の証明
いやいや、まだこいつが本当は死神ではなく、ただのイカレジジイと言う可能性はないだろうか。
「…あなた本当に死神なんですか?」
「失敬な! わしは正真正銘の死神じゃ! 何を、何を言うんじゃ。その、あれじゃよ。失礼じゃよ。年寄りは信用するもんじゃよ」
怒っていると言うか慌てている? 逆ギレしているように見える。何か怪しい。
「そうじゃ! 忘れておった。そうそう、わしはれっきとした死神なんじゃよ。これを見るんじゃ」
死神は懐から透明なケースを取り出した。透明なケースは首から下げられるようにストラップが付いており、中にはカードが入っていた。
まさかと思い見てみるとそこには第四死神部案内課第八係と表記されており、老人の顔写真もあった。名前は五平さんらしい。
最近は電気だかガスの検診に来た人も同じようなものを付けていた気がする。でも死神も付けるものなのか? 死神など初めて見るがそんなものか?
「なんじゃ、疑っておるのか?」
「いえ、そう言うわけでは無いんですけど……」
怪しいとはさすがに言いづらい。……だって鎌持ってるし。でも確かに昨日は消えたように見えた。
「それじゃあ死神にしか出来ない事ってありますか?」
「そうじゃな、浮かぶ事は出来るぞ」
死神は空中であぐらをかく。床から一メートル位の所にふわりと浮いた。
「それに物をすり抜ける事も出来るの」
死神は浮いたまま壁を体半分すり抜けた。
「それに魂を刈ることが出来るぞ」
死神は壁のこちら側に戻ってくると持っていた鎌を掲げた。
「分かりました、分かりました。危ないんでそれはしまってください」
「なんじゃ、こわがりじゃのう。これは魂を刈るものじゃから危なくないぞ」
「本当ですか?」
「疑り深いのう。研修の時に『人を切るものではない』と言っておったぞ」
「そうなんですか?」浩二はホッと胸をなで下ろす。
「そうじゃ、正確には『人を切る為のものではない』だったかの? ほれ、ちゃんと覚えておるじゃろ?」
それだと切れるけど切っちゃ駄目ですよって意味じゃないのか?
切れた蛍光灯の紐が浩二の足元に転がっている。こんな奴に持たせちゃ駄目だろ!
だが取りあえずこいつが死神であるのは不本意ながら認めざるを得ないのか……。
しかし認めたくない。自分の生き死にがかかっているし、こんな奴が死神だなんて思いたくない。嫌だ、死にたくない。後一ヶ月だと? ふざけるな。
「今日は良い天気じゃから、どこか出掛けないのかのぉ?」
ギロリと思いっきり睨んでやるが死神は全く意に介さずへらへら笑っている。良くこの状況でそんな事言えるな。
「一人で行ってろ!」
浩二は思いっきり枕を投げつけるがすり抜けてしまう。そのまま枕はテレビに激突し、台の上からテレビを落下させた。俺のテレビが!
「危ないのう。びっくりして心臓が止まるかと思ったわい」
止まるのは俺の心臓なんだろうが! なんて空気の読めない奴だ。
なんでこんな死神に憑りつかれなければならないんだ。浩二は頭を抱えていると携帯が鳴った。会社からだった。
時計を見ると起きてから二時間以上経過していた。電話には出ずにそのまま携帯の電源を落とす。
会社には申し訳無いが自分の生き死にがかかっている時に働いてなどいられるか。
こんな奴が来なければ今頃いつもと同じ様に出社していたのに。別に仕事が楽しいとかやり甲斐を感じているわけではない。
普通に仕事に行って普通にこなしているだけだ。が、それでも昨日までの生活に戻りたいと心の底から思う。
そのまま布団へ顔をうずめる。このまま眠ってしまいたいが枕を投げつけたのが悔やまれる。枕が無いと眠れない。それに何となく枕を取りに行くのも恰好悪くてヤダ……。
なかなか寝付けないので浩二は色々考えてしまう。……後一ヶ月というのが嫌だ。一ヶ月間、死の恐怖に怯えなければならないと思うと堪えられない。