いつ死ぬか
「それじゃあまた来月来るかのう。夜分遅くすまんかった」と老人は窓の方へ歩き出す。
「ちょっと待って下さい!」
浩二は呼び止めた。やっぱりこのまま終わりに出来るわけがない。
「来月、僕は死ぬんですか?」
「な、ななな何を言っとるのじゃ? 健康そのもの、元気一杯ではないか」
ホホホッとわざとらしく笑って見せる。
「さっき八月二十三日に死ぬって言ったじゃないですか」
「何を言ってるんじゃ? 悪い夢でも見ていたんじゃろう。驚かすんではない」
「いやいや、あなたさっき言いましたよね? 八月二十三日に…」
「しーっ、声が大きいんじゃ」と老人は辺りを見回す。
つられて辺りを見回すが特に誰も居ない。それもそのはず。ここには浩二一人で住んでいるのだ。
「でも確かに言いましたよね?」
「良いか。大事な事はいつ死ぬかではなくどう生きるかではないかの?」
まぁ、確かにそうだけど……。今あんたが言う事じゃないだろ。
「それではのう」と老人は窓の方へスキップするようにジャンプする。窓もカーテンも閉まっている。カーテンがわずかに揺れたかと思うと老人は吸い込まれるように消えていった。
浩二は急いでカーテンを開けてみるがやっぱり窓は閉まっている。窓の外を見るが何かが動いている気配は無い。
浩二は呆然としながらカーテンを閉めた。そのままカーテンを凝視するも何も変化はない。ピチョン、ピチョンと水の落ちる音にハッとする。
そのまま水道の水をコップに汲むと今度はきっちりと閉めた。浩二はそれを一気に飲みほした。ぬるいが一息つく事は出来た。
さっきのは何だったのだろうか。整理しようとするがどう受け取っていいのか分からない。
あの老人の格好、話した内容を考えれば死神が死の宣告へやって来たと考えるべきだろうか。しかしそれはあまりにも現実離れし過ぎている。
浩二はちょっと寝ぼけていただけだと自分に言い聞かせ布団へ戻った。時計を見たらまだ零時を少し過ぎた位だった。
ふと冷蔵庫にミネラルウォーターが有ったのを思い出し、そっちを飲めば良かったと後悔した。浩二は今度こそ眠りに落ちていく。