訪れる死
浩二は次の日も目を覚ました。死神は相変わらず漫画を読んでいる。
「おい、俺はまだ生きてるよな」
「そうじゃのう。まだ生きておるの」
「生きてて残念だったな」
「いやいや、わしはこの世の方が面白いんでゆっくりして良いぞ」
「そいつはどうも」
浩二は朝食をとりながら親との会話を楽しんだ。出来るだけ自然に振る舞うように努めながら。
浩二は自分の食器を下げながら母親にありがとうと伝えた。父親が仕事に行く時には頑張ってとだけ伝えた。
それ以上の事はノートの最後に書いてある。それで十分。出来れば今は自分の真意を知らずに居て欲しい。決心が鈍るから。
浩二は選びに選んだ服を来て出掛けた。ブラブラと近所を歩いていると死神が話しかけてくる。
「今日ぐらい家に居ても良いんじゃないかのう」
「家に居ると怯えてるみたいで嫌なんだ。それに新鮮な空気も吸いたいじゃないか」
「わしは昼ドラを最後に見たかったのう」
「俺はそんな最後、絶対嫌だ」
死神はしょぼんとしていたが浩二は清々しい気分だった。
公園の近くを通りかかった時にニャーニャーと猫の鳴き声が聞こえてきた。公園の中を覗いてみると木の上に子猫が居り、その下で女の子が降りてくるように呼び掛けていた。小さな公園だしまだ朝早いため他には誰も居ない。
「どうしたの?」
浩二が女の子に尋ねると降りて来なくなっちゃたのと女の子は心配そうに言った。
そんな事が本当にあるのかと浩二は笑ってしまった。少女はムッと浩二をニラミつけた。何で笑うの!と抗議しているようだ。浩二はちょっとバツが悪くなった。
「それじゃあ、お兄ちゃんが連れてきてあげるよ」
「本当?」
少女の顔から不安の色が消えて浩二は嬉しくなった。
「ああ、ちょっと待ってて」
浩二は木を登り始める。木を登りながら昔この木に登っていた事を思い出した。子猫は浩二が上ってきても浩二を見つめながら泣いているだけだった。怖くて動けないらしい。
そっと猫を抱きかかえた時、浩二は枝から滑り落ちてしまった。猫をかばう様に背中から落ち、目の前に火花が散った。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。それより猫ちゃんは……」
子猫も無事らしく浩二の腕から飛び出して行った。そのまま子猫は公園の外まで走って行く。
「ミーちゃん待って! お兄ちゃんありがと」
「良かった。気を付けてね」
「うん、じゃあね」
少女は子猫の後を追いかけていくのを浩二は笑顔で見送った。良かった、こんな日に誰かの役に立てて。
浩二は立ち上がろうとしたが体に力が入らなかった。目と鼻の奥が熱い。浩二は鼻に手をやると鼻血が出ている。そのまま目の前が真っ暗になる。まさか……。




