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死神の受難

 週末には高校の同級生六人程が集まり小さな同窓会のようになった。


 その日は女の子も来てくれたので浩二のみならず死神もテンションが上がっていた。


「やはりおなごが居ないと始まらんのう」


 いや、始まらなくて良いから。今まで静かだったのは女の子が居なかったからなのか? なんて世俗的な奴だ!


 だがこれまででも一番の盛り上がりなのは確かだ。そうなるとどうしても昔話に花が咲く。


「竹中さん、実は浩二は竹中さんの事昔好きだったんだぜ」


 いきなり友人の一人が言い出した。やっぱりそうなるか! 浩二は竹中さんが来ると聞いてイヤな予感がしていた。


「ええ〜。そうなの? ゴメン。もう結婚しちゃった」


 竹中さんは薬指の指輪を見せてくれた。浩二も気にはなっていた。


「子供なんか来年には幼稚園に入るんだから」


 流石にそんな大きな子供がいるとは驚きだ。竹中さんの子供なら可愛いだろう。


「お前が中々帰ってこないからだぞ」


 友人が浩二の肩を叩く。皆が笑っているため浩二も頑張って笑顔を見せた。


 浩二は本当にもっと帰ってきておけば良かったと思った。


 ここには懐かしさと温かさがある。竹中さんの事だけではなくみんな幸せそうだ。


 死神も一緒になって笑っている事にはイラッとする。


 その日を境に浩二は次第に引きこもる事が増えていった。


 自分が死ぬ事を考えてしまい一緒に笑えなくなってしまった。みんなの笑顔が辛い。


 どんどん日にちが過ぎていく事が怖くなってきて、食事が喉を通らなくなってしまった。親も心配し始めたようだが親は何も聞かなかった。


 それでも何気なく話しかけてくれたり気を使ってくれている。


 でも浩二にはそれが辛かった。親に優しくされればされるほど悲しみが、死への恐怖が増していく。


 何度か今の状況を伝えようと思ったがどうしても言い出せなかった。


 誰が面と向かって自分が死ぬ事を親へ伝えられるだろうか。


 そもそも何て言えば良いのか。死神が来て死の宣告をしたと言うのか?そんな事誰も信じるわけがない。


 浩二は悩んだ果てに一つの解決法を思い付いた。


 今回の経緯について書き残せば良いと。


 面と向かって言えなければ文章で伝えれば良い。何と伝えれば良いか分からなければ一から伝えれば良い。


 信じて貰えなくても何もしないよりはマシだ。


 浩二は早速コンビニでノートを買ってきた。真新しいノートを開いた時、とても懐かしい気持ちが込み上げてくる。


 こうしてノートを開くのなんて何年振りだろうか。


 今までの事を書き始めると気持ちも落ち着いてきた。食欲も出てきて親とも楽しく話せるようになった。


 ただ友人の誘いだけは断わった。書き始めて気付いたのだが文章を書くのは難しい。確か子供の頃から作文は苦手だったっけ。


 書いたは良いが時間がなくて中途半端、なんて事は避けたい。


 なんとか運命の日の前日、八月二十二日には書き終える事が出来た。


 浩二はペラペラと見返して見ると一つの短編小説にも見える。


 それならタイトルでもつけてみようか。浩二は思い付いたものを表紙に書き付けた。


『死神の受難』


 これでは死神が被害者みたいかな? まぁ良いか。


 浩二が立ち上がると死神が近付いてきた。


「おおっ、とうとう書き終えたか」


 死神がふわりと浮かんでノートに手を伸ばした。浩二はピシャリとノートを押さえた。


「お前に見せる為なんじゃ無いからな。見るんじゃねえぞ」


「良いではないか。わしの事も書いてあるんじゃろ?」

「そりゃあ書くよ! お前が原因でこんな事になってんだろ?」

「それならわしの所だけで良いから。なっ?良いじゃろ?」

「う、うるさい! 恥ずかしいんだよ……」

「そんな恥ずかしがって可愛いのう。もしかしてエッチな事でも書いてあるのか?」

「書いてあるわけないだろ! お前が来てからエロの要素なんかゼロだったじゃねえか! いいか、絶対に見るんじゃねえぞ!」


 浩二はノートを引き出しにしまった。それから布団に入るが中々寝付けなかった。


「なぁ、俺は明日のいつ頃死ぬんだ?」

「それは分からんのじゃ。ただ零時から明日の二十三時五十九分までの間である事は間違いない。だから死神は早目に来て見守っておくのじゃよ」

「そうか。でも一ヶ月前は早過ぎだろ」

「お陰で十分楽しめたわい」


 浩二は鼻で笑う。そして気が付けばそのまま眠りについていた。

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