帰郷
一日休むと熱は下がった。だが鼻水は止まらず、体のだるさも残っている。
それでも頭は回るようになった。これから死ぬかもしれないのに親に挨拶もしなかったら絶対に後悔する事になるだろう。その為のプランはもう閃いている。
先ずは会社に連絡する。音信不通が続けば場合によっては実家に連絡がいくかもしれない。そうなると面倒臭くなってしまう。
もう一週間ほど会社に連絡していないので緊張する。出来れば直属の上司じゃなければ良いんだけれど……。その方があまり追及されないかもしれない。
だが電話に出たのは浩二の所属する係長だ。鼻をグズグズさせながらも何とか説明する。
「すいません。グスッ。親が急に倒れて、色々忙しくて……。グスッ。それでチョット連絡出来なかったんです。すいません……。グスッ、出来ればこの後も看病の為、一月程休ませて欲しいんですけど……」
浩二はドキドキしながら伝えた。ありきたりな理由だけど信じてもらえるか……。係長に何て言われるか心配だったが係長は快諾してくれた。
「きっと良くなる。あまりメソメソしていないで元気出せよ」
係長は最後に言ってくれた。なるほど、風邪気味だったのが良かったのか。鼻をすすっているのは泣いているからだと思ったのだろう。
よし、次は親だ。こっちは全く問題なし。有給休暇消化の為と言ったら全然疑わなかった。
かれこれ五年位は帰ってないだろうか。五年あれば有給休暇も沢山たまると思っているのだろう。実際にはほとんど残っていないのに。
次の日、荷ほどきしなかった鞄をそのまま持って実家に向かった。
実家までは電車で四時間、駅から車で一時間弱かかる。
「なんじゃ。また電車か。わし、飛行機と言うのに乗りたかったのう」
「うるさい! こっちの方が安いんだよ」
浩二の声に気付いたようで周りの人達がチラリと浩二の方を見る。浩二は咳払いをして誤魔化す。
「飛行機は空を飛ぶんじゃろう? 良いのう。飛んでみたいのう」
いつもフワフワ飛んでるくせに何を言ってんだ。
「やれやれ。のんびり周りの景色でも楽しむかのう」死神はまた電車の天井に頭を突っ込む。
何か悔しい。電車乗るのは今日が三回目のくせに言い方がムカつく。
駅には母親が迎えに来てくれる事になっていた。浩二が改札をくぐると母親が手を振っているのに気が付いた。浩二は自分が子供に戻ったようで照れくさかった。
「あんた、やっと帰って来たね。元気そうで良かった」
「仕事が忙しくてさ。母さんこそ元気そうだね」
「元気、元気! 父さんも元気だよ。荷物持ってやるかい?」
「良いよ。父さんも元気なら良かった」
久し振りの故郷は大分開発が進んでいる。見慣れた町にチェーン店やコンビニが増えていた。何より実家の車がエコカーになって、最新のパソコンを使っている事に驚いた。
実家に着くと父親は仕事からまだ帰ってきていない。まず浩二は自分の部屋へ荷物を運ぶ。
「ここがおぬしの部屋かの」
死神はおもむろにベッドの下を覗いた。
「おい!いきなり何してんだよ」
「ホッホッホッ。今時の若者は大事な本をベッドの下に隠すと聞いてのう」
「そんなもん無いわ」
独り暮らしを始める前に処分しておいて良かった。
「なんじゃ、つまらんのう……」
死神は実家に置いてあった漫画を読み始める。くつろぐの早いだろ。浩二は面倒臭いので放っておく事にして地元の友人達へ戻ってきた事を連絡した。
早速その日から酒を飲みに行こうと街へ繰り出した。久し振りに会う友人達と思い出話に花を咲かせて盛り上がる。
それから友人達と毎晩遊び回った。相変わらず死神は何処へでもついてくるが静かなもんで浩二も思いっきり羽を伸ばせた。




