旅行最終日〜帰宅
「おぬし、全くわしの話聞いておらんな」
「……何の話だよ」
浩二は聞くわけ無いだろと思ったが、一応どの話の事を言っているのか確認してやろうと思った。
「なんと白々しい! わしが散々思い出話を語ったとゆうのになんという事じゃ!」
なるほど、口数が少なかったのはただ単にスねていただけだったか。なんて面倒臭い奴なんだ。
「良いか。もう一度最初から話すからしっかりと聞いとるんじゃぞ!」
「いや、興味無いから良い」
浩二が即答すると死神は驚きの表情を見せた。死神が聞いて貰えると思っていた事にビックリするわ。
「その……、なんじゃ。わしの生きておった時の話なんじゃがな……」
「いやいや、本当に興味無いから。悪いけどあんたに付きまとわれているだけで迷惑してんのに、その上昔話にまで付き合いきれるか」
浩二はハッキリ言ってやると気分がすっきりした。死神のショックを受けた顔も見ていて痛快だ。
「酷い! わしはお主の為に折角来てやっているのに……。お主の気持ちはようく解ったわい。死んでから後悔してもわしは知らんからの」
死神はそう言うと壁をすり抜け消えていった。
まさか出て行くとは嬉しい誤算。こんな事ならもっと早くにガツンと言ってやれば良かった。何が後悔するなだ。するわけがない。例え死んだって…。
浩二は大事な事を忘れていた。あいつは死神で俺を成仏させる為にとかで来ていたんだった。
他の死神が代わりに来ないだろうか。いや、確か自分の担当があいつだと言っていたし、一人一人死神が決まってるのか? それじゃあやっぱりマズいか? そもそも成仏しなきゃいけないのか?
……分からないけどやっぱりヤバそうだよな。くそっ、何であんなのが死神なんだ。
一度は布団に入ろうと思ったがどうしても気になってしまう。部屋をうろうろしたが結局、浩二はテレビの前に腰を下ろした。テレビをつけても全く内容が頭に入ってこない。
本当に死んでから後悔する事になるのか……。浩二は答えの出ない自問自答を繰り返しながらうとうとし始めた。
ふと浩二が目を覚ますともう明るくなっていた。この季節には珍しく肌寒い朝であり、しかも浴衣一枚で寝てしまっていた。浩二はぶるりと震える。
これもあいつが居なくなったせいだ。ここは今日でチェックアウトしなければならないがどうしたら良いのか。
このまま死神を放って帰って本当に良いのか。浩二が顔を上げるとつけっ放しだったテレビの前に死神が陣取っていた。
普通に居んじゃん! 昨日悩んだのはなんだったのかと思いながらも、ちょっと安心している自分が嫌になる。
浩二は死神をチラチラと横目で見ながらチェックアウトの準備をする。死神は相も変わらずテレビを見詰めている。
「……おい、どっか行くんじゃなかったのかよ」
「ホッホッホッ。わしはいつまでもクヨクヨ悩まないのが良い所なんじゃよ」
「そうかよ」浩二は頭が痛くなってきた。
だが家へ帰る途中、寒気がして鼻水が止まらないし何だか熱っぽい。頭が痛いのもどうやら風邪が原因みたいだ。もう絶対にあいつとは旅行に行かないと心に固く誓った。
家に着くととても懐かしく感じた。まるで何年も帰っていなかったみたいだ。
「やはり我が家が一番だのう」
死神は早速漫画本に手を伸ばす。勝手に我が家にすんなと言いたかったが最早そんな元気も浩二には無かった。荷ほどきもそこそこに布団に潜り込む。
もう死神を見ているだけで症状が悪化しそうだ。
あぁ、こんなヤツではなくもっと役に立つ死神だったら……。看病してくれたり、家事でもしてくれれば。メイドや家政婦とか、そう言うのじゃなくて良いんだ。今欲しいのはそう、例えば……。そこで浩二はふと気が付いた。
そうだ、親だ!




