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旅行二日目~山歩き

 旅行二日目。浩二は朝から温泉に浸かり、朝食を済ませて浴衣から着替えると売店でスポーツドリンクを買った。鍵を受付に預け、旅館を出ると雲一つ無く晴れ渡っていた。


 今日はまずは滝に向かい、それから池を見に行く予定だ。スマートフォンで調べると滝までは直線距離で昨日行った公園の四倍位だろうか。時間として一時間位か。


 山の中で交通機関も限られてしまう。どうせ今日も時間を持て余しているのだからと歩いて行くことにした。


 実際に歩き出して浩二はある事に気が付いた。宿から直線距離を歩くわけではない事、実際の道は曲がりくねっている為その倍の距離は歩くハメになる事を。


 道は森の中へと続いている。森の入口に木製の看板があり、滝までの道が記されていた。ここまででかれこれ二時間近く歩いている。スポーツドリンクも既に空、足は棒の様だ。


 ここからの道は舗装されておらず、砂利道が続くようだ。その先に滝があり、そこから更に進むと池がある。少し休もうかとも思ったが看板を見た限りではすぐ着きそうだ。


 折角ここまで来たんだし取りあえず滝まで行こう。だがその考えも甘かった。


 浩二は帰りにもう一度看板を見てみたが距離の記載は一切なかった。この看板を書いた人間は歩いてこんな所まで来るとは思っていなかったんだろう。そこから三十分はまた歩かされた。


 そこまでして見に来た滝はただの滝だった。


 何処からともなく滝の音が聞こえた時には心踊って走り出してしまった。到着した時は達成感もあったし、滝もそれなりに立派だった。


 しかし浩二は今まで自然を楽しむ事なんかしてこなかった。花見にだって行った事が無い。滝を眺めてもどうしたら良いか分からなかった。


「これはこれは。立派な滝じゃのう」


 死神は滝の近くまで文字通り飛んで行った。浩二ももっと近くで眺めたかったが崖になっていてこれ以上近付けない。


 浩二は滝を遠くから眺めながら帰り道の事を考えていた。今まで歩いた距離をもう一度歩くのかと思うと気が重くなる。ここから池まで歩くのはもう論外だった。


 浩二が溜め息をついていると死神がふわふわ飛んで戻ってきた。


「中々迫力のある眺めじゃったわ」


 それはそんな近くで見られれば迫力もあるだろうさ。死神には歩く必要ないのだと思うと余計に腹が立つ。


「昨日までは田舎は嫌だと散々言ってたくせに、何だよ」

「わしが生きてた頃は寂れた農村に住んでおったからの。滝なんぞ見た事無かったんじゃ」


 そこから死神の思い出話が始まり、帰り道は更に憂鬱なものになった。宿に着いたのはかなり日が傾いてからだった。


 朝からずっと歩いてきたのでもう限界だ。


 宿に戻ると温泉でその疲れを癒す。部屋に戻って夕食を一気に平らげると浩二はやっと人心地がついた。


 食後のお茶でも飲もうかと思った時、死神がまだ身の上話をしているのに気が付いた。


 ずっと話していたのだろうか。完全に無視していたし、脳も雑音として処理していたんだろう。良くやった俺の脳みそ。


 疲労と満腹感で少し眠くなってきた。浩二は少し横になるつもりで座布団を枕にするとあっという間に眠りに落ちた。


「あら、お客様。そんな所で寝たら風邪引きますよ」


 浩二は慌てて起きると旅館の中居さんが入ってくるところだった。


「今お布団敷きますからちょっとお待ち下さい」


 中居はフフフッと笑うと奥の部屋で布団を手際良く敷き始めた。


「はい、出来ましたよ。お疲れのようでしたらこちらでゆっくりお休み下さい」

「ありがとうございます」


 浩二が頭を下げると中居はお辞儀を一つして出て行った。


 時間を見ると二時間位は寝ていただろうか。もう一度温泉にでも浸かろうかと浩二が立ち上がろうとすると体が悲鳴をあげた。


 足と腰がピキピキと痛み、上手く力が入らない。助けを求めて周りを見渡すも死神がブツブツ言っているだけだった。


 取りあえず温泉で体をほぐそう。浩二はヨロヨロとした足取りで温泉へ向かった。


 夕食前に入った時もそうだったが、温泉は昨日より身体に染み渡るように感じた。さすがの死神も語り疲れたのか口数も少ない。


 そうなれば周りの老人達とさほど変わらないように見える。空中に鎌を持って座っている所以外は。


 温泉からあがると足腰の痛みも大分良くなり、浩二は温泉のありがたさを改めて噛み締めた。


 部屋に戻ってテレビを見ていると死神がその間に立ち塞がる。


 しかめっ面をしている死神を見てまた面倒くさい事になりそうだと浩二は思った。

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