あの日の誓い
学校が変わった。
どいつもこいつもバカみたいな顔をしていた。ああ、みんな俺より頭悪いんだろうなって思いながら、教室に立った。
「風間辰人です。よろしく」
かっこいい。頭良さそう。
小学生らしい感想をあげるやつらの中で、一人笑顔で俺を見るやつがいた。
それが、時神鈴だった。
時神鈴は、バカだった。テストの点は悪いし、授業だってまともにわからない。ああ確かにバカだったけれど、その無邪気な笑顔と誰にも優しい性格が、みんなの心を掴んで離さない。
あいつはどこか抜けているし、正直に言うと天然ってやつだ。けれど誰かに一生懸命になるその姿を見ると、あの時助けられたから今度は自分が助けようって思うんだろうな。常に誰かに助けられている、情けない奴だった。
俺は一人でいい。誰にも頼らない。高校を出たら一人で暮らすし、一人で社会へ出る。あんな奴みたいにはならない、すべて一人でこなして見せる。
そう思い込んでいたのは、父の仕事の都合で転校の多かった低学年時代の影響だろうか。
友達が出来ず、けれど勉強だけが取柄で、周りを勉強ができないバカだと見下すことで、俺より能力の低いやつと関わることに意味がないと思い込むことで、友達がいない自分に言い訳を作っていた。
けれど言い訳だなんて認めたくないから、俺は周りを排斥した。友達なんていらない、俺は一人でいい。次第に皆は、俺に壁を作るようになった。
けれど、アイツは違った。
俺はバカだから、勉強教えてくれよ。
お前すげーな。こんな事もわかるのか。
何度あしらってもついて来た、何度無視しても話しかけてきた。本当にバカなのかと思って、「俺はお前が嫌いだ」と面と向かって言っても話しかけてきた。
なんでそこまで自分に話しかけるのかと問うと、「お前の笑顔がみたいからな」と鈴はいった。あわよくば友達に、とも言っていたか。お前では無理だと俺はその時言ったが、ある日無理やり遊びに連れ出されたとき、俺は友達を遊ぶという楽しさを何年振りかに思い出した。
気付けば、アイツの友達になっていた。
いつも一緒に遊んだ。いつもバカやって、ふざけて、くだらないと知っているけれど、そのくだらない日々が何より幸せで、確かに存在していた幸福な日々。
気付けば俺の怖いイメージはなくなって、自然と周りの奴らも寄ってきた。初めは離れていった奴らも、鈴と共に笑う俺を見て、自然と仲良くなっていった。
そんなある日だった。
鈴の家に飾ってある家族写真を見つけた。
後ろには、鈴の父親らしき人物が、もう一人の男の肩に腕を回している。鈴の父親らしき人物の隣には、鈴の母親が腕を回して抱き付いており、反対側には男の妻らしき女性が小さな少女を、写真の正面で笑顔を向けている鈴に抱き付けるよう、後ろから押していた。
辰人は、その小さな少女を見つめた。
――一目惚れだった。
誰なのかと問うと、鈴は不登校のクラスメイトだと言った。偶然にも同じクラスだったらしい。ならばと俺は、鈴にこの女の子を不登校から学校に来させないかと提案した。
下心丸出しの俺だったが、鈴は前から彼女の不登校について思うところがあったのだろう、それに気付くこともなく、鈴は笑顔でこう言った。
お前と出会えてよかった。友達になれてよかったと。
俺が彼女を不登校から救おうとあらゆる作戦を模索しているうち、とある事件が起きる。
それは大人たちから見たら小さな事件かも知れないが、俺や鈴、そして彼女からしてみれば大事件だった。
公園での、集団虐めである。
結果だけいえば、あの事件があったおかげで彼女は学校へ来れるようになった。
そして、俺の作戦と時神鈴の働きにより、虐めはなくなる。
その時に、俺と鈴は誓いを交わした。
「もう二度と、飛鳥は泣かせない」
「もう二度と、飛鳥を苛めさせない」
彼女を笑顔にしよう。彼女を幸せにしよう。
「俺が頭。お前が身体。俺たちが揃えば、できないことは何もない。なぁ、鈴。俺たちが守っていこう。助けてくれない大人たちの代わりに、俺たちが飛鳥を助けていこう。だから、なぁ……俺に付いてきて、くれるか」
「何言ってんだ。それこそ、ぐもん、ってやつだろ」
そう、俺たち龍神兄弟が、いつまでも守っていこうと誓った。
「……そうだな。愚問だったな」
親友と呼べるほど信頼できる彼と、鈴はこのとき約束した。互いに誓い合った。
俺たち二人で、飛鳥の笑顔を守っていこうと。




