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第八話 能力

「ここには俺らの宝が入っていたはず……なぜこんな物に変わっているんだ……」


 突然出てきた魔物の幼体に、ゴブリン弟は困惑している。聞くところによると、宝箱にゴブリン兄弟で人間から巻き上げた金品を入れていたそうだ。


「先に来た他の冒険者が、宝だけ持って行ったんじゃないか? で、代わりに『これ』を入れておいたとか?」


 俺は適当な憶測を言った。腕に抱えたそれの、ふわふわと絹糸のように細く黒い毛が心地いい。なぜ、中身がすり変わっていたのか、謎が解けぬまま、半泣きの弟ゴブリンと、エミリアに負傷させられた兄ゴブリンの元に戻った。


「「なんでも言うことは聞きますから! どうか! 命だけは!」」


 ははーっと土下座するゴブリン二匹。


「いいって。もう」


 エミリアが言う。


「おい、シオン、討伐魔物のランクを上げないか? Dランクの魔物は弱すぎだ」

「……俺、ゴブリンに勝ってないんだけど」


 ぶっちゃけ、生きて行く金を稼ぐだけなら、魔物は弱い方がいいのだが。

 俺の言葉を聞いて、ビクッとゴブリン二匹が身体を震わせる。


「いえ! あなた様には傷一つけることができませんでした。相当な魔術師とお見受けします! この洞窟は場違いかと!」


 ゴブリン、必死だな。


「そういうことだ。行くぞシオン。洞窟から出よう」


 討伐する魔物のランクをどうするかは、あとでエミリアと話し合うとして……。俺はエミリアの後に続いて仕方なく、洞窟を出ることにした。


「あ、もう終わったんですか? ……シオン、なんですか、それ」


 洞窟の外で待っていたフィーノが、俺の腕に抱かれた黒い塊を指さして言った。


「きゅ?」

「魔物の幼体らしい。この洞窟の、一番奥にある宝箱に入っていた」


 俺は説明する。


「そいつを売れば金になるんじゃないか?」


 エミリアが目を細めながら、俺の腕の中にある幼体を指さす。


「きゅ……!」

「エミリア、 涙目になってるだろ!」

「でも、飼うのですか? それ」

「おう!」


 俺は黒い毛玉の頭らしきところを撫でる。


「なんの魔物かも分からないんだぞ。危険だ」

「では、シオンの召喚獣として契約させるのはどうでしょう」


 エミリアの反対にフィーノが提案する。


「それなら……術者の命令は絶対だからな。それなら成長した魔物といえども、暴れて制御できないということは無いだろう」

「え? なんだその召喚獣って」

「魔物と契約して、術者に使役させるのです。魔物は契約魔獣に変わり、術者と意思の疎通も可能になります」

「へー。なんか凄そうだな」

「しかし、その代わり、餌として自分の魔力を与え続けなければなりません。それだけ、魔力の浪費が多くなるので決断は慎重に」

「そういえば、あのミントとかいう精霊は俺に魔力があると言っていたな」

「『名』をつけるのも大量の魔量を消費するのです。精霊がシオンから魔力を持って行ったあとも、君は平気みたいでしたし……魔物を使役するのに必要な魔力の量はそれに比べたら微々たるものですよ」


 俺はフィーノの助言を聞いて、この魔物を契約魔獣にすることにした。


「よし、それじゃあ契約だ!」

「きゅ!」


 その一鳴きが同意を現していたのか、魔物は光を放ち消えた。俺の中で何かが変化する。同時に、魔力が減ったのだろう、身体が一気に疲れたような気だるさに襲われる。


『よろしく! シオン!』


 頭の中で女とも男ともいえない声が響く。


「おおおお! 喋った!」

「術者と魔物間の同意で契約成立になると言おうとしたんですけど……成功したみたいですね。契約魔獣を外へ出したい時は強く念じれば外界に出すことができます」

「便利な能力だな」


 こうして、仲間(ペット)が一人増えたのだった。洞窟を往復するだけで大量の時間を使ってしまい、魔物討伐の第一日目は、魔物の幼体を手に入れただけで終わってしまった。しかたなく、宿屋に戻ることにする。エミリアが俺の部屋にやってきて、今日の戦闘について話し合うことになる。


「さっきの戦闘を見てて思ったんだが……」

「そうだ! なんでゴブリンの攻撃が効かなかったんだ?」

「あれは、一種の結界だ。お前の魔力が身体からあふれ出て、結界のような物を作っている」


 そう言うと、おもむろに机に置いてあった俺の鉄の剣を持ち俺に向かって振りかぶる。


「は? 何やっての、お前」

「シオン、そこを動くなよ」


 エミリアが振り下ろした剣はうなりをあげて、俺の頭に振り下ろされた。


「……あれ?」


 だが、それは俺に当たることなく、眼前で静止していた。


「ほら。これはお前の特殊能力。お前は【絶対結界(ガード)】の能力(スキル)を持っている」

絶対結界(ガード)?」

「大抵の攻撃はお前には通じないだろう。術者が自分の魔力をコントロールし、意図的に結界を作ることはあるが、お前はそれが無意識にできる。どんな攻撃も無詠唱で弾き返す能力(スキル)だ。お前の魔力の質の良さも手伝って、物理攻撃だけじゃなく魔法攻撃にも、ある程度は耐えることができるはずだ」

「おおお! 俺にも能力(スキル)があったんだな!」


 まぁ、攻撃の能力(スキル)の方が良かったのだが……贅沢は言わない。魔法も魔力があるなら、ある程度使えるようになるかもしれないし!


「ん? というか、この能力がなかったら俺、ゴブリンに殺されてたんじゃ……」

「こ、細かいことは気にするな!」


 ん? なんだ、この反応……。


「エミリア、なんか隠してないか?」

「な、何も隠してなどいないぞ」


 ……絶対なんか隠してるな。エミリアは以外にも嘘がヘタらしい。まぁ、いいか。エミリアがいなかったらゴブリン兄弟に殺されてたかもしれないし。


「エミリア、明日は魔法を教えてくれよ」


 明日、エミリアに魔法を教わる約束を取り付けた。魔法が使えないと、戦闘になった時にやはり不便だ。ろくに剣を使えない俺が戦闘で魔物に勝つのは難しいからだ。


 エミリアが部屋から出て行ったあとで、俺は、先ほど契約した魔物の幼体を念じて部屋に召喚する。なぜ、あの宝箱に入っていたのか聞いてみたくなった。


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