第六話 ギルド
俺たちはそのまま宿を借り、そこで一夜すごした。俺は疲れていたのか眠りに落ちるのにそれほど時間はかからなかった。
そして、朝はやってくる。
「起きろ! 朝だぞ!」
エミリアはいつまでも寝ている俺を叩き起こす。眠い目をこすりながら、宿で朝食をとり、再びギルドに向かった。フィーノはすでにギルドの前で待ていた。
「おはようございます」
「おー! おはよう、フィーノ!」
俺たちはあいさつもそこそこに、ギルドに登録するため、2階の受付に向かった。
「あら、フィーノさん! おかえりなさい!」
きゃーきゃーと受付で黄色い歓声があがる。ファンクラブでもできそうな勢いの人気である。
受付にいたのは金髪で白い肌をした女性だった。その長い金髪は、耳の横で三つ編みにして邪魔にならないようにしてある。
「あら、後ろの方々は?」
「新しいパーティーメンバーのシオンとエミリアです。この二人にギルドの登録をお願いします」
ん? どっかで舌打ちした声が……「フィーノ様のパーティーに女が……」、「ちっ。何よあの女……」、「パーティーならあたしが組んだのに」……えーと……聞こえなかったことにしよう。
エミリアの様子をうかがったが、相変わらず無表情のままだった。
「ごめんなさいね、エミリアさん。フィーノさんってここの娘達に人気なのよ」
申し訳なさそうに金髪の女の人が言う。たしかにギルドの受付は、女性が多い。
「大丈夫だ。気にするな」
エミリアは、そんなことどうでもいい、という風にひらひらと手を振った。
この世界の冒険者はなにかしらのギルドに所属する。討伐対象の魔物を持ってくるとここで金に交換できるらしい。魔物はA、B、C、D、S~ランクに分けられ、それに合わせて冒険者のランクも位置づけられている。
エミリアと俺を見ながら受付のお姉さんは言う。
「あなたたちの実力はわからないけど、そうねぇ、初心者はDランクの魔物から討伐できるけど、どうする?」
「……俺は当然Dランクからだよな」
バリバリの初心者ですから、ええ。
「ふむ。では私もDランクから頼む」
いや、あんた絶対Dランクじゃない気がするぞ。
「分かったわ。登録完了よ。回復薬はある程度ならタダで支給できるから、いつでも言ってね」
この辺でDランクの魔物が出現するのは、町から西に行ったところの、【魔物の森】だそうだ。この町に来るのに、通ってきた森とは別にもう一つあるらしい。D~Bの魔物はそこで討伐できる。討伐した魔物の角や毛皮は換金対象であった。
「ところで、あなた達……そんな恰好で行くの?」
お姉さんが怪訝な顔で、俺とエミリアの着ている制服を眺める。
「確かに……装備を整えた方がいいかもなー」
「ふむ。そうするか」
というわけでギルド支給の、動きやすい装備に着替えることにした。支給されるとは言っても、しっかり代金は発生する。俺とエミリアは着ていた制服をギルドで売り、金をつくった。
エミリアは、本人の希望で動きやすい革製の黒いワンピースに同じく革の黒いブーツ。腰のベルトに鉄の剣。剣士のいでたちと言ったところか。俺も同じく動きやすい革の装備にした。革装備の防御力は、装備の中で最も低いそうだが、金が足りなかったためやむをえなかった。
「武器は……」
大剣は振り回せる気がしないし、弓は接近戦になった時は不利だしなぁ。やっぱり無難に鉄の剣か。
「フィーノは武器は何を使ってるんだ?」
俺ははためしに聞いてみた。
「僕は短剣です」
涼しい顔でフィーノが答える。
「えらく頼りない武器だな」
「エルフは魔術に特化した種族だからな。武器はあまり必要ないのだ」
「エミリアの言う通りですね」
ふーん。俺もエミリアに比べたら驚く程体力ないからな……魔術師の方が向いてる気がする。
というわけで、フィーノの案内の元、俺たちは徒歩で魔物の森にたどり着いた。ここでの討伐対象は、Dランクのゴブリン種とウルフ種か。あとはあまり換金できない魔物がうようよ出て来るそうな。特に森の中にある洞窟が特にD,Cランクの魔物の巣窟になっているらしい。
「僕は、今回は戦闘に参加するのはやめておきます」
「ん? なんで?」
唐突に、フィーノがしれっとこんなことを言い出した。
「魔力がまだ完全に回復してないので」
ええ! 何のために来たんだよ!
「そういうことならしかたないな。シオン、行くぞ! 金が私たちを待っている!」
「お、おう!」
金に貪欲なのを丸出しだぞ。エミリア。「僕は、洞窟の入り口で待ってますからー」とフィーノに見送られて、洞窟に入る。
俺は正直緊張していた。なにせ初戦闘。無傷で帰れるとは思っていない。
「なぁ、俺も魔法が使えるのか?」
「精霊が魔力を持っていると言っていたしな。使えるはずだ」
異世界に来たらやっぱ魔法は使いたいよな。
「お?」
そんな会話をしていると魔物が現れた。
それは二匹のゴブリンだった。
次回、戦闘(?)です!