表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

第五話 神

長くなってしまったので、第四話と第五話に分けました……。

 ギルドの中にある食事どころで、エミリアからこの世界についての説明を聞いた。まず、この大陸には4つの大国が存在する。

 その中でも最も大きい国が『セブレイシュタルク』であり、現王が統べる、大きな軍事力を有するそうだ。かつて起こった魔族と人間との大きな戦争。その戦争で唯一生き残った国らしい。まさに俺たちがいるエイレンの町もその国に所属する。 


 また、この世界の人物に対する異世界人の認識についても聞いた。異世界人が、この世界に来ることは稀ではあるが、それほど驚くことでもないとのこと。フィーノは俺が異世界人だと言っても、大して驚くことは無かった。


「へぇ、やはり君は異世界人なのですね。通りで異質なわけだ。でも大丈夫なのですか?

「え? 何が?」


 フィーノの問いかけも話半分に、俺は異世界に来て初めて食べる料理を堪能していた。どうやら肉のようだが……一体なんの肉を使っているのだろうか。


「町に着いた時にも聞こうと思ったのですが、こちらの世界での名はあるのですか?

 異世界人はこちらの世界で名を持たないのですから、こちらに来ても魂は消えてしまうのです。しかし見たところ、君はまだこの世界で名を持っていないような……僕のように【精霊の加護】を持っている者ならともかく、おそらくは他の人間から認識されていませんよ」

「「は?」」


 エミリアと俺の声がハモる。


「……あ」


 そこで俺は、この世界に来た時のエミリアの説明を思い出した。

 そうだった! 元の世界でも、名前を失った俺は存在が幽霊のように、誰にも認識されない見えない状態だったのだ。


「俺! 消えるのか!」

 おい! フィーノ! 両手を合わせるな。「ナムー」じゃない!

「もぐもぐ……ふむ。すっかり忘れていた」

「エミリアてめぇ!」 


 忘れんなよ! 肉を食うのを止めろ!


「確か、精霊なら名づけることができると聞いたことがあるぞ」


 エミリアの言うことにフィーノが頷く。


「そうですね。異世界から来る人間の事例なんて少ないですが、精霊から名を貰うことで、その世界の神から存在を世界から認められる……はずです」

「で! その精霊ってのはどこにいるんだよ!?」

「僕で良ければ、精霊を呼んで名づけて貰うことができますが……」


 なんでもエルフ族と精霊は、種族間の仲がとてもいいそうだ。エルフは生まれた瞬間からこの世界の精霊から加護を受ける。精霊はこの世界を創り上げた神と通じており、名づけの儀式で精霊は神の声をエルフに伝えるパイプ役になるそうだ。俺の魂は今まさに風前の灯。エルフが近くにいること自体がとても幸運だった。


 嫌な奴だとか思ってすまん! フィーノ、やっぱお前はいい奴だ!

ギルドの近くにある宿屋。そこでフィーノが借りていた部屋に移動する。フィーノが何やら唱えると、床から少し浮いた空中に、小さな魔方陣が現れる。さらに、ろうろうと意味不明な言葉を唱える。


「この世界の言葉か?」

「いや、これはエルフ語だ」


 エミリアが呟く。

 魔方陣から人間の手の平ほどの人間……いやおそらくは精霊が飛び出した。何かの葉を何枚も重ねて作られたワンピースに、4枚の羽根が出て魔方陣の上をふわふわと飛んでいる。それに合わせて揺れる、絹糸のような細い金髪が美しい。

 俺は初めて見る精霊に内心驚いたが、今はそんな場合じゃない!


「はーい! 精霊のミントちゃんでーす!」

 はじけるように精霊が言う。この世のものとは思えない美しい声だった。

「僕は召還者のフィーノです。君を呼んだのはこちらの異世界人に名を授けて欲しいのです」


 ミントという精霊が俺の目の前で飛ぶ。


「ふーん。異世界人なんて珍しいわね。……でも、タダではあげられないなー? あんた、私に何かくれる?」

「何かって……?」


 俺は文字通り一文無しである。あげられるものなんて……。


「一体何を……?」

「そうねぇ……あら? あんた、魔力の質がとてもいいのね? その魔力を分けてくれたら、名を授けてあげる!」


 俺……魔力あったのか。少しおしい気もするが、存在が消えるよりましだろう。何でもくれてやる!


「受け取れ! 俺の魔力!」

「契約成立ね!」


 ミントがそう言った途端、俺は全身の力が抜けるような脱力感に襲われた。



 周りの音が急に遠くなる。目の前が真っ暗になり、身体の感覚がなくなる。まるで意識だけでふわふわと漂っているようだ。そんな俺の意識に、声とも音ともいえない何かが響く。

 だが、不思議とそれが俺に伝えていることの意味が分かった。


「……ふむ。異世界人とはまた珍しきこと。おい、人の子よ……私の言っている意味はわかるな?」

「あんた神様?」

「お前……質問に答えろよ。生意気な奴め。その分だと通じているようだな。そうだ。私はこの世界を創りし神」

「ここはどこなんだ?」

「ここは神の住む領域だ。お前は精霊を通じて私と話しておる。で……お前、名が欲しいのだったな」

「そうそう! 俺、まだ死にたくないからさ」

「ふははははは。そうか、死にたくないか!」


 神様は非常に愉快そうに笑った。いや、かなりの爆笑であった。


「ははは、げほっ、げっほげっほ……ふん。まぁいいだろう。お前に、ルエルヴァリスの神から名を授けてやろう。汝の名は……『……』」

「お! それが俺の名か……確かに受け取った!」

「それと、おまけで【精霊の加護】をつけてやる……もう二度と自身の名をなくすでないぞ。よいな」


 二度と……? あぁ、前の世界のことを言っているのか。


「おっけーっす! 神様サンキュー!」


 俺は、床の上で目が覚めた。心配そうな顔をした3人に見下ろされてる。


「お、目が覚めたみたいですね」

「あれ、俺……」

「どうだったのよ! 神様には会えた?」

「あぁ」

「無事名ももらえて、魂も安定したみたいだし。じゃあ、あたしはこれで! 精霊の加護を!」

「おぅ! ミント、ありがとうな!」

「お礼なんていいわよ! いい取引ができたわ!」


 ミントはそう言うと、光を放ち、その場から消えた。


「で、なんて名だ?」

「あぁ。俺の名は……『シオン』」

「シオンか。良い名前ではないか」

「よかったですね。これで一安心です」


 うんうん、と頷くフィーノ。

 こうして俺は、あわやというところで魂の消滅を免れたのだった。


やっと主人公に名前つけることができた……!名前がないといろいろきつかった!(汗)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ