第四話 町へ
日が沈みかけ、何もかもがオレンジ色に染まった夕暮れ時。俺たち3人は、エイレンの町に到着する。異世界で初めて目の当たりにするそ町は、まるで中世の街並みに似ていた。きちんと整備され、綺麗な円形に並んだ石畳を歩く。大勢の人が行き交う、にぎやかな大通りには、左右ともに様々な店がひしめき合っていた。
また、大通りを歩く者の多くは人間のようだが……なにしろ髪、肌、目の色がとにかく多様である。そんな中、ちらほら魔物のような種族も見える。元いた世界とは明らかに違うであろうその光景に、俺は正直舌を巻いた。
「ところでエミリア様、こちらの者は一体……」
町に入ってすぐ、フィーノが怪訝な顔で俺を見ながらそんなことを言い出した。
「ん? 俺がどうかしたのか?」
「その……君。まるで、存在が消えかかっているような……」
「……余計なお世話だ」
さっき会ったばかりのエルフにそんなことを言われる筋合いないわ! こいつ、俺の影が薄いって言いたいのか! まったく……エルフだからって調子に乗るなよ!
「いえ……そうではなくて……」
俺の思っていることが通じたのか、フィーノが苦笑する。
「そんなことより、フィーノ、この町のギルドはどこにあるのだ」
エミリアのこの問いかけによって、俺とフィーノの会話はそこで途切れた。
「それなら、この通りをまっすぐに行き、見えてくる噴水を右へと曲がった所にありますよ。エミリア様」
「そうか。ギルドに登録しておくと、町と町を移動するのに便利だからな。そこへ向かうぞ」
「では、よろしければ私が、ギルドまで案内いたしましょう」
フィーノが爽やかな笑顔で申し出る。
「頼む」
まぁ、エミリアに命を助けられ恩を感じているのだろう。エミリアもそれを感じてなのか……ただ自力で行くのが面倒だったのか分からないが、その申し出を断らずに、フィーノの後に続いた。
それにしても、さすがはエルフというべきなのか……フィーノは道行く人々からの熱い視線を一身に浴びている。まぁ一部を除いて、多くが女なのだが。それに対して、エミリアはエミリアで艶やかな黒髪をなびかせ、颯爽と歩く姿は堂々たるものである。さっきから男衆の目が釘付けだ。一見すると可憐な乙女に見えるのだろうな。
……って俺! 本当に空気じゃないか!!
そんなこんなで、ギルドの前にたどり着いた。
「ここがギルドか。小さな町にしてはなかなか立派ではないか。フィーノ、お前はこれからどうするのだ」
ギルドに着くとエミリアがフィーノの方へ向き直る。
「そうですね……一人だとまた魔力切れを起こした時大変ですからね。僕を入れてくれそうなパーティーを探すことにします」
そこでエミリアの赤い唇が笑みを作る。
こいつ、何か企んでやがる……。
「そうか……それならば、私達と一緒にこないか? ちょうど私たちも仲間を探していたところだ」
「よろしいのですか? 僕にとっては願ってもみないことですが」
フィーノは俺に同意を求めてきた。その時、エミリアの意味ありげなまなざしが突き刺さる。
「ん。俺はべつにいいぞ」
まぁ。エミリアもエルフを仲間にしたいのだろう。俺としても断る理由なんかないしな。町に入った時の失言と、イケメンなのが少々気に食わないが……魔物がさっきみたいに出てくるなら、少しでも人数が多い方がいいだろう。
「あらためて、よろしく」
フィーノのあいさつはどこまでも爽やかである。
「うむ。あと……エミリア『様』はやめろ。エミリアで十分だ」
エミリアの白い肌がほんの少しだが赤らんで……?
「分かりました。エミリア」
「ぷっ。お前、実は恥ずかしかったとか?」
「なっ! ……貴様、断じて違うぞ!」
ムキになるあたりどうやら図星らしい。