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第二話 異世界に到着

そんなこんなで異世界です。

「おい! 起きろ!」


 ぼんやりと意識が戻って来た。俺はうっすらと目を開ける。どうやら、仰向けで倒れているらしい。目の前では、先ほどのクラスメートが艶やかな黒髪を片耳にかけ、俺の顔を覗き込んでいた。


「う……」

「お、やっと起きたか」


 黒髪がふわりと揺れて、クラスメートの顔がさらに迫る。整った顔に小さく薄い赤い唇。漆黒の黒髪に白い肌が余計に映えて見えた。


「って近い近い!」


 慌てて上体を起こす。辺りを見回すと、どうやら森の中のようだった。空気が驚く程澄んでいる。俺たちが立っているところを中心にして、開けた円形の広場のようになっていた。それを取り囲むように、装飾が施された巨大な石柱が4本立っている。何年ここに立っているのか分からないが、風化してところどころ崩れている。

 そんな、太陽の光で周りより一際明るい草むらに、俺たちは立っていた。


「なんか、頬が痛いんですけど……」

「お前がさっさと起きないからだ。2、3発、叩かせてもらった」

「な!?」

「先に言っておくが、私の名前はエミリアだ。二度と忘れるな」


 エミリア……。

 俺は不敵に笑うエミリアの後を、痛みでじんとする頬をさすりながらついていく。


「暴力女……」

「うん?なんか言ったか?」


 エミリアがちらりとこちらを向く。切れ長の目に射すくめられ、その鋭い眼光に思わず緊張する。


「……なんでもない」

「ふん。ならよい」


 俺はもう何がなんだか、クラスメートは恐いし……それに一体ここはどこなんだ……。本当にこいつの言う異世界なのか?今、時間は……教室にいた時は夕方だったはずだが、太陽が高く上っている。昼ごろか。

 都会育ちの俺は、森に来ること自体初めてだった。エミリアはセーラー服のスカートを風に靡かせながら広場を後にして、不安定な地面を歩く。


「なーエミリア。ここはどこなんだ?」

「ここは【ルエルヴァリス】と呼ばれる異世界だ。さっきまで私たちの居た世界とは、全く別次元に存在する」

「……本気で言っているのか?」


 思わず、「証拠は?」と聞きそうになる。異世界だの魔法だの言うのは、人が作った架空の存在だ。それを信じろと言われても……。


「おい、ところでお前。自分の名前は思い出せるか」


 何かに気付いたように、不意にエミリアが立ち止まった。


「え? 俺の名前……?」


 そこまで言って言葉に詰まってしまった。

 ……ちょっと待て……あれ……?


「分からない……俺の名前」


 エミリアが舌打ちする音が聞こえた。


「エミリアは俺の名前知ってるだろ。俺、記憶喪失なんだって」

「……悪いが、私にも分からないのだ」

「え?」

「この石は魔導具と呼ばれているものだ。これを使った者の記憶を吸収し、「保存」しておく目的で使われる。ただ、その者に関する他人の記憶も奪ってしまうのだ。記憶範囲は……そうだな。魔導具の性能にもよるがこれは特にその範囲が大きい。その世界に生きるすべての人間に、同等の効果を発揮するだろう」


 エミリアが立ち止まって、無表情で淡々と説明する。


「それってどういう……」


 何だ……その威力!


「周りの人間も同じように『お前に関する記憶』のみ存在しなくなっているのだ」

「え……それじゃあまるで」

「結論を言えば、現時点でお前はあの世界に初めから、いなかったことになっている」

「……仮にそうだとして……なんでお前は俺のこと覚えてるんだよ」

「私はそんな魔具ごときに記憶を左右されるような人間ではないのだ」


 エミリアが口調を強くした。


「だが、私でさえ、お前の名前だけは思い出せない。相当、強力な魔導具なのだろう」


 ちょ、ちょっと待てよ。頭が追い付かない。何を言ってるんだこいつは!


「とにかく、『名』はあの世界に存在し続けるには不可欠だ。お前が生まれた時に魂に刻まれていた名前だからな。そう代わりがきくものではない。名を持たないお前が、あの世界にいても誰にも認識されることはないだろう。あのまま、あの世界に居続ければ、お前の魂自体が消滅する」


 そこから会話が途切れた。重い沈黙が二人を包む。俺はやっと自分が置かれている状況が分かった。が、あまりに異常な事態に混乱していた。にわかには信じられない。しかし自分の脳からいくら記憶を引き出そうとしても何も思い出せないのが何よりの証拠だった。


「まぁ、そう気を落とすな。解決策がないわけではない」

「あるのか!?」

「要はこの石に取り込まれたお前の名前、記憶云々をもう一度お前に戻せばいい」


 俺はすがるような気持ちでエミリアを見た。


「頼む! 俺はあの世界に戻りたいんだ!」

「まぁ、そのためにこの世界に来たのだからな。まずこれを作った『魔術師』に会いに行く」


 急に聞き慣れない単語に拍子抜けした。


「これほど強力な魔具を作れるのは一人しかいない。『魔術師ハデス』」

「じゃあそのなんとかってやつのとこに行けば俺の記憶とか元通りになるんだな?」

「まぁな」


 ん……? なんだ結構簡単に片付きそうじゃないか? 

 その魔具師を見つけて、石から記憶を引き出す方法を聞き出せばいいんだろ。

 ……なんだエミリアが深刻そうに言うからこっちまで深刻に悩んじゃったじゃんよ!


「そうと決まれば行くぞエミリア!」

「お前、結構ポジティブなんだな」

ポジティブ主人公と委員長体質のヒロインです。

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