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夏の日の出来事 番外  作者: 夕部空波 
1 メリークリスマス
5/14

5

「真希、あのね…………お父さんとお母さん、最近仲悪いんだ。お父さんはいつまでたっても帰ってこないし、お母さんもなんだかずっとイライラしてるし、わたしに対する態度がかなり変わったんだ。なんか離婚の話も出てるけどわたし、ずっと二人でいてほしいんだ、あの二人には。

 で、この前わたしが帰ってもお母さんいないの。いつも、どんなに遅くても待っていてくれたのに。だからどこかにいるかなって家じゅう探したんだけど、どこにもいなかったの。次の日の朝ふらって帰って来て、そしたらお酒のにおいがして、なんかもう、ぐちゃぐちゃで。どうしたらいいのかわかんなくて。

 今日、ここに来る時もお母さんどこにもいなかったの。ホントに。

 真希、わたし、どうしたらいいと思う?」


この話を聞いて、真希は家を伊達からの実幸の様子に納得した。


『うらやましし』


 そんなのどこが、って笑いたかったけど、そうもいかない。実幸は本当にうらやましかったんだ。いつまでも笑っている、わたしの家族が。その気持ちを聞けただけでも、ためらっていることが聞けただけでもよかった。今迄張っていた肩が緩むのを感じる。


「わかんないよ、実幸。わたし、そんなこと考えられるほど大人じゃないから」


率直に思ったことを述べる。だってそうだよ。わたし、そんなことわからないもん。そう言った。


「何でよ!」


えっ?


 眉を寄せ、驚く。なぜ、怒られなければならないのだろうか。


「真希だから話したのに!! 今まで誰にもこんなこと、話したことなかったのに!!」


そこそこ多い通行人の視線を一斉に集めた。真希は実幸の手を取り、近くの公園まで引っ張っていった。


「実幸、ホントに9時に帰らなきゃだめなの?」

「別に。家に誰もいないから」


なぜか態度の違う実幸を見て真希は肩をすくめた。こうなったらもう、全部聞くまでは帰れない。


*****


「こんなとこに来ても、わかんないんでしょ」

「うん、わかんない」

「じゃあ帰らせて!! ……友達に相談したのが間違えだったのよ」

「実幸……?」


あからさまな態度豹変の実幸に真希はずっと眉間に皺を寄せている。

 

しかし、実幸から見た真希はそういう風に映ってはいない。


 自分の弱みを唯一さらけ出した人物。


 真希からしたら自分が一番最初に実幸の悩んでいることを聞いた、なんて言ったら喜ぶのだろう。そういう性格だと知っているから。

 

 実幸が一人でいたときに考えていた友達像。まさに真希なのだ。温かくて優しくてそれでいて自分を受け止めてくれる人物。嬉しかった。でも、一人でいたときに友達を欲しいと思いながらその関係をバカにしていたのも事実なのだ。


 汚い人間の馴れ合い。


 一時だけそういう考えに思い至ったことが有る。汚い人間の馴れ合い、と。欲に満ちいつ人を裏切るか常に自分のことを一番にそして悠里に立てるかを考える。それが人。だからそんなやつらの馴れ合いは見ているだけで汚く見える。


 そんな考えにさえ至ったのだ。

 

 その時の実幸は本当に冷たい人間だった。心の奥底に頑丈に何重にもかけて閉じた温かな気持ち。


 その気持ちを実幸は再び感じることができた。変わったのだ。真希に出会って。

 友達の大切さをし、友達がいることの精神的支えも知ってきた。しかしそれと同時に、友達に裏切られる、忘れられているのでは。そんな不安も味わってきた。


 今の実幸は情緒不安定。友達の言うこと言うことその一言が、実幸の心に、昔の感情を取り戻させる。


 汚い人間の馴れ合いだ、と。


 それはあながち間違っていないのかもしれない。でも、それ以上に人の友情はきれいだということも実幸は知っていたのだ。


 真希に出会ってとろけていったあの冷たい感情。

 今までとは逆に冷たい感情を頑丈に何重にもかけて閉じた。しかしそれがまた、過去の実幸と同じような形――心の奥底に頑丈に何重にもかけて閉じた温かな気持ち――になろうとしている。


 実幸はそれほどまでに親の離れてしまった距離はつらかったのだ。



 真希にその気持ちは分からない。


 友達が絶えたことがないから。親がケンカしたことが有っても、あからさまなものではないだろうから。


 今の実幸には友達がいる。でも、その子たちにはいまだに心のすべては開いていない。一歩手前のところで踏みとどまっている。


 真希ならわかるかも知れない、真希なら一緒に考えてくれるかもしれない。


 前者は外れだが後者は当たりだった。それだけでも、実幸には嬉しいこと。なのに、


『他人に自分の弱みを見せてはいけない。強みだけを見せていきなさい』


母と父に言われた言葉が実幸を支配していくのだ。


「実幸、あのね、わたし、実幸が何にそんなに怒ってるのか分からないんだけどね」


真希が急に声をかけてきた。驚いて俯いていた顔を上にあげる。


「えっ?」

「でもね、実幸がね、ずっと悩んでいたっていうことは分かったよ」


真希の声が優しく実幸に中に流れ込んでいった。閉じられかけていた温かな気持ちが再び実幸の身体を巡ろうとしている。


「ごめんね、一緒に考えられなくて。2年間の間に連絡を全然入れなくて。不安にさせたかもしれないし、実幸を傷つけたかもしれない。ごめんね、実幸。ごめんね」


そう言って真希が頭を下げる。不意に実幸に目から流れるものがあった。

 涙だ。


「実幸」


真希がそう呟くと、実幸はくるりと後ろを向いた。人前で泣いたことがなかったため、急に気恥ずかしくなったのだ。

 実幸の中の鍵のかかった感情が緩やかに溶かされていく。

 そして、反省をした。自分の勝手な考えで真希に強く当たってしまったこと。あと感謝もした。こんな自分を見捨てないで最後までここに居てくれたこと。実幸の気持ちを汲み取ろうと頑張ってくれたことに。


「真希」

「何?」


「メリークリスマス」


なんだか、メリークリスマスじゃないような(作者が言うな)


そして終わりました。(年内に間に合ってよかった-)

若干無理やりなのは私の力不足です……。


今回は2000文字突破。通常の連載だと一話4000文字から5000文字なのでそんなにすごいことと感じられないのですが。


誤字脱字感想等お待ちしております。

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