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「じゃあ、わたし帰るね」
唐突に放たれたその言葉に、一同は時計を見上げる。時計の針はちょうど7時だということを告げていた。
「時間って経つの早いよね……」
真希がそう呟いてプレゼントのふくろを置きダッフルコートを着る。
「うん。実幸、送ってくね」
真希が少し悲しそうに笑っているのは勘違いではないのだろう。
家の玄関に行くと真理と真也も来た。駅までの道のりは、二人きりにしてくれるらしい。
「お邪魔しました」
「いえいえ、こちらこそ。こんなにいいプレゼントをもらって。また来てね、実幸ちゃん」
「はい! 暇ができれば来たいと思います!」
「あ、あの、本当にプレゼントありがとうございます。おかげで受験も頑張れる気がします!」
「うん! 頑張ってね、真也くん」
実幸に名前を呼ばれただけで赤くなるのはもう面倒くさいものだ。
実幸の少し吹っ切れた感じの言葉を聞き、じゃあ、と真希が切り出す。
「駅まで送ってくるね、お母さん」
「はい、いってらっしゃい。実幸ちゃんも、また来てね」
「はい!!」
玄関の扉がバタンとしまった。実幸は暖かい視線で真希の家を見詰めている。
「行こっか、実幸」
「うん」
マンションである真希の家は4階だ。階段よりも、エレベーターが速いのだが、真希はあえて階段を選んだ。実幸と話したいことがまだあるからだ。
「実幸、学校楽しい?」
不意にそう聞き少し驚いたような顔をした実幸は少し俯いて答えた。
「うん、楽しいよ」
「ホントに?」
「うん。……友達もできたし、学校に行っている間は本当に楽しい。友達と話をするのって、こんなに楽しかったんだ! ってぐらいに。でも家に帰るとそうでもない」
「何で?」
「……真希がうらやましいな」
真希の問いに応えになっていない答えを返す実幸に真希は眉を吊り上げた。
自分の家はごく普通の家庭。裕福でもなく、しかし、それほどの貧乏でもない。やりたいことができればやらしてくれるし、時々ぶつかることもあるけど、弟だってかわいい。親だって優しいし、何より自分たちを育てるために働いているのだから、刃向う必要などどこにもない。
「そう? そんなにうらやましいと思われる要素って、無いと思うんだけどな」
「なんで! あんなにやさしいお母さんが居て、あんなにかわいい弟が居て、あんなにみんなの笑顔が絶えないなんて……。ホント、うらやましい」
「でも実幸のお父さんも実幸のお母さんも優しいん、でしょ?」
「そうだね」
それっきり黙りきった実幸を見て、真希は訝しく思う。
何をためらっているのだろうか。
率直な感想を述べるとなるとそうなる。友達に、親友にためらう必要があるのかないのか。真希の持論だと、『友達とは助け合うべき存在。自分の長けていないところを長けているものに補ってもらう』そのための友達だし、そのためにその意見を聞き、それを実行に移すべきものが現れる。そういう風に考えている。
だから真希にとって、こういう風にためらっている実幸が嫌で嫌でたまらないのだ。自分がそこまでの存在になれていないのではないかと、そういう風にも考えたがそうとも言えない。実幸は真希の一番の親友。胸を張ってこちらがそう言えることは、相手もそう思っていると考えていい。
話してほしい。そう思っても、それを口には出せない。まだ俯いている実幸を見て真希は口を開けない。言葉を発せない。今、この瞬間、実幸が自分の中で言うべきか否かを葛藤しているのなら、それを黙って見守るのも、友達というものなのではないか。そう思ったのだ。
しばらく二人は沈黙を続けた。夜7時、しかも冬の、というのだから当たりますでに真っ暗だ。上を見ても星は見えない。ここは都会なのだから、周りの外套の明かりで夜だというのは感じさせない。それほど明るいのだ。
もうすぐ駅だというところで実幸が真希の方を向いた。
「真希、あのね」
真希はやっと話すことを決心してくれた実幸を優しい目で見つめていた。
昨日更新できなかった~(なんせ9時から4時まで妹にパソコンを取られていました。くっ、アニメを見やがって)
この話次話と一つだったんですが思いのほか長くなってしまい、切らせていただきます。
誤字・脱字・感想などお待ちしております。