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邪暮マーラ!  作者: 練堂きよこ
プロローグ
5/7

0-(4) 日常と非日常。

ある少年は、とても(たの)しかった。

ある少年は、とても(たの)しかった。

ある少年は、とても(たの)しかった。


少女はある少年のために走った。





☆☆





「よぉ、大島ぁ!お前なら逃げて帰ると思ったが……、案外そうでもなかったなぁ。度胸だけは認めてやるよ、大島!」

「おいおい、山田!コイツは度胸もクソもないだろ!冗談キツいぜ?山田!」

「がははは!そうだったなぁ…!」

ガサツに笑うその山田と言われる男は、学校一喧嘩が強いとされる不良生徒だ。

「あの…山田くん……」

「おぉ?なんだよ、大島」

「もう…お金あげるとか、盗みとか……できないよ」

「ああん?手前ぇ今なんつった?」

一瞬にしてガサツな笑顔は(いか)つい恐ろしい顔になった。

「だっだから…っもうこういう事はやめたいって…」

恭平がびくびくしながら、それでも勇気を振り絞って言った最大の言葉だった。

「手前ぇふざけてんのかよ!!?あぁ!?どこのどいつだぁ、俺の下につきたいって言った野郎はよぉ!」

「あっ…あれは……その…」

「んだよ!なんかあるのか?あぁ…って!?」



ガンっ



突然、英和辞典がとんできた。

「えっ?」

そう呟いたのは恭平。

「誰だ!痛ぇな!!!!」

「お…おい山田…。本飛んでくるって…2年の…」



そこに立っていたのは…。


「やぁやぁ、山田君。例え本人の頼みだとしても、いじめ良くないなぁ」

「誰だ手前ぇ?」

「あれ?君、私の事……知るわけないか〜。山田君さぁ、自分が最強だと思ってるから他の情報とかどうでもいいんでしょ?なんて言うの?自意識過剰?」

「山田やべぇよ…こいつ2年の………逢坂茉帆(あいさかまほ)だよ……」



他でもない、大島恭平を助けに走った茉帆だった。

「逢坂って折口(おりぐち)のか…?」

「そうだよ!どうすんだよ、コイツのバックには折口とか幸村とかいるんだぜ!?」



その会話が聞こえない茉帆は頭の上に”?”を浮かべる。


「ちょっと…何こそこそ話してんの」

山田は肩をびくっと上下に動かした。

「な…なんだよ」

「私を無視していいのは、修也(しゅうや)(りょう)だけなんだけど…?あ、ゆりあとあみなもか。まぁ、無視するって事は……」

茉帆は楽しそうに笑う。





「私との喧嘩に勝てるって事だよねぇ?」





それは、とても楽しそうな笑顔だった。

「は………?」

「勝てるんだよねぇ?」

どこから出したのか、分厚い本が茉帆の手にあった。

「さぁ、私を楽しませてくれるかな?」

「…こっの……野郎ッッ!!!!!」

山田は茉帆に殴りにかかった。

「わぉ…。本当に来たし。まぁ2人なら楽勝かな」

山田の拳を最小限の動きでかわす茉帆。


「あんまり、大袈裟(おおげさ)に動くと体力なくなるよ?」

「…っるせ!!!!」

山田の背中に回った茉帆は持っていた本で軽く叩く。



「がッ…!!?」



山田が倒れ、もう1人が逃げて行った。

「ふぅ…なぁんかしょぼい……。この展開は、そう。仲間を呼んで私が逆に追い込まれる……っていうね。いいじゃん、面白いから仲間呼んで欲しいな」

「ばっ…かにしやがって!!」

「あ、気絶してなかった?なかなかやるねぇ、君」

「はっ…後ろを見ろよ、逢坂よぉ。あれ見ても、そんな余裕でいられるのかぁ?」

「は?」






茉帆の後ろには、大量の男がいた。





「ふーん。いいね、こういうの。わくわくするよ!!!楽しいねぇ!!!」

山田は起き上がって、茉帆の前に立つ。

「随分余裕じゃねぇか」

「君もそろそろ余裕がなくなると思ったら、わくわくしちゃって」

「はぁ?なに言ってんだ手前」

「さぁ、そろそろヒーローになる時間だ。女の子を助けるのは……」

修也はニヤリと笑い





「この俺だ」





そう言うと、修也は制服のポケットから携帯をとりだし

「あ、(りょう)?今、茉帆が大変なんだけどちょっと手伝いに行ってくれないかな?…あぁ、大丈夫。大方、茉帆が片付けてくれるから。うん、よろしく」

修也は電話をきって、そして。


「君はただの、茉帆のアシスタントにすぎないんだよ。ヒーローは、この俺だからね。俺は間近で見学でもしよう」

修也は中庭の方へ、足を進めた。





☆☆



「はぁ…はぁっ…。流石に多すぎでしょ…。一体何人いんの」

「茉帆っ…!!!!」

「あ、燎。どしたの?」

「修也に頼まれたから、ここに来たんだよ!つか、これどうしたんだ!?」

「あぁ、これ?………巻き添えくらった」

「はぁ!?ま、とりあえず手伝ってやるから、もうちょい頑張れよ」

「………修也はどうした?」

「アイツ?知らねぇ。ここに来てねえのか?」

「いない。アイツ…、無視きめこみやがって」



この会話の瞬間にも、茉帆と燎は次々と男達を殴り倒していた。




「なんだよコイツらっ…!!気味悪ぃ!」

「コイツ、幸村燎…っ!」

「幸村…!?こんなのに敵いっこねぇよ!!逃げるぞ!!」



次々に逃げて行く男達。

その姿を見て、あっけに思う茉帆と燎。

「なにあれ…」

「さぁ…。まぁ、良かったんじゃねぇか?大島も無事だし」




「だよね〜。俺ほんと見てるだけで良かった」




「修也!?お前っ今までどこにいたんだよ!!」

「え?そこにいたけど」

修也が指をさすのは、中庭にかかっている渡り廊下。


「そんな身近にいるんなら、助けろよ」

「えーこれ以上怪我はしたくないよね」

「それで、俺がかり出されたわけか…」

「ご名答♪」



「あ……あの!」

話を盛り上げる3人を止めようと、恭平が声をかける。


「あ…ありがとうございました」

「いやぁ、お礼言われる程の事してないし……」

「人の好意は受け入れないと、あとで後悔するよ?茉帆?」

「黙れ」

「痛っ」

さっき使っていた本を投げる茉帆。

それにあっさり、直撃する修也。



「それで、その…お礼…をしたいんですけど」

「あーそんなのいらないから」

茉帆がさらっと言う。

「え?」

不安そうな顔をした恭平を察したかのように、燎が慌ててフォローする。

「いやっ、あの茉帆はただなっ!今回の事は、自分の鬱憤晴(うっぷんば)らしって思ってるからさ……お礼を貰うのはおかしいって思ってるだけでな?悪意があったわけじゃないんだよ」

ごめんな、と燎は最後に言った。

恭平はホッとしたような顔をして、言葉を紡いだ。

「とにかく、今回の件はお礼をさせてください。でないと、僕の気が済まないっていうか……」

恭平はあははと笑った。




「そこまでいうなら…そうだな………」

「君についての情報を頂戴よ」

茉帆が悩んでいる横で、修也が首を出した。

「え?情報…ですか?」

「ちょ、修也。それはやめて、お願いだから」

「え〜?俺にとっては、それがお礼になるのだけど?」

「お前はなにもしてないでしょ」

その何気ない茉帆の一言に修也は反応した。

燎は焦った。


「俺が何もしてない?燎をここに呼んだのは俺なのに?」

「え?そうなの?あーなんかごめん」

「なんかあっさりすぎて、いやなんだけど」

「じゃあ、なにをしろと?」

「それは今度の仕事の時に言うよ」



恭平はある言葉にひっかかった。

(……仕事?)







日常はふとしたときに非日常になる。

それが面白いのではないだろうか……。




逢坂茉帆はおもう。





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