0-(3) 日常と非日常。
それは、放課後の事だったー。
茉帆は1人、下校するために歩いていた。
「あー…、1人は寂しい……。今日に限って燎は委員会だし、修也はどっか消えるし……」
茉帆にも決して、女友達がいない事もないが、その子達は皆”彼氏と帰る”と言って、ことごとく断られてしまった。
「なんで皆彼氏とかいんのよぉ…。いやっ羨ましいとかじゃなくてね…寂しいっていうか………って何1人で喋ってるんだろ、私」
茉帆は俯きながらぶつぶつと呟いている。
「わぁっ!!!?」
「え?」
茉帆が顔をあげた瞬間だった。
誰かとぶつかった。
その拍子に茉帆とぶつかった相手が盛大にこけた。
「痛ったぁ……。あ、大丈夫?えっと…大島君」
茉帆は立ち上がって、ぶつかった相手・大島恭平に手を差し伸べる。
「ぇ…あ…。ごっ…ごめんなさい…。ぼ、僕急いでるんで失礼しますっ。本当にごめんなさい」
恭平は、急いで立ち上がり走ってその場を去った。
「…ん?なんだったんだろ?」
茉帆が再び足を進めて、角を曲がろうとした瞬間
また誰かとぶつかった。
そしてこけてしまった。
「またかよ…誰…って修也。あんた今までどこにいたの?」
そこにはニコニコとした表情で立っている、修也の姿が。
「やぁ、茉帆。今といいさっきといい、随分盛大にこけるね。何?誘ってる?」
「んなわけないでしょっ!!!」
茉帆は顔を真っ赤にしながら、叫ぶ。
「冗談だよ。ほら」
珍しく手を差し伸べてきた修也に、少し戸惑いながらその手をとって立ち上がった。
「あ…ありがと…?」
「なんで疑問系なの?」
「だって…修也らしくない…」
「なにそれ。それ、ヒドくない?あ、そうだ」
修也は珍しく、ふんわりとした笑顔を見せた。
あまりにも珍しかったので、不覚にもドキリと心臓が鳴ってしまった。
本当に不覚!!そんなつもりじゃないんだよ!
自分の心臓が鳴った事に、とてつもない後悔を覚える。
「今、絶対失礼な事考えてるよね君」
「で?なんなの?」
「あ、そうそう。茉帆の気にかけていた大島恭平くん。大変な事になってるよ、今頃」
一瞬固まった。
柔らかな笑顔を見せていた顔が、一瞬にして怪しげな笑顔に変わった。
「え?大変な事?ってなんなの」
「大島恭平は自ら死にに行ったようなものだ。早く止めないと、本当に死んじゃうんじゃない?」
修也は心底楽しそうに言う。
「喧嘩だよ、喧嘩!勝てもしない相手に挑むなんてねぇ、彼も相当物好きなものだ!」
「修也!大島恭平はどこ!?」
「そうだね…。きっと中庭にでもいるんじゃないかな?ほら、あそこでよく喧嘩とかしてるじゃん」
それから茉帆はその場を立ち去ろうとして中庭の方へと向かおうとした。
「あ、そうだ。喧嘩相手の奴らもだけど、大島恭平には貸し作らせないでよ」
「なんでよ?まぁ、そんな気ないんだけど」
「君が関わったら面倒だから」
「失礼なやつだよ、あんたは」
茉帆は急いでその場を去った。
「彼は自ら非日常に飛び込んで行ったんだよ、茉帆。それを助けるって事はどんな事を意味してるか……」
少年は一度、考えてから
「分かるわけないか。茉帆だし」
と言った。
「バカな茉帆と、大島恭平。これは、面白くなりそうだね…」
少年は側にあった窓枠に頬杖をついた。
「まぁ、俺はここから楽しく見学でもさせてもらうとするよ。あ、でもヤバくなったら助けに行った方が面白いかな?どっちでもいいけど」
少年の口角が上がり、そして
「ヒーローってものは、助けに行かなければならないものなんだよねぇ。俺がヒーローになるか、それとも」
「燎…それか彼がヒーローになるかだよねぇ。ま、茉帆が負けるわけないけど」
青い瞳が楽しそうに笑った。
あー、3話で終わらせる予定が…。次回、ラストです。