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邪暮マーラ!  作者: 練堂きよこ
プロローグ
3/7

0-(2) 日常と非日常。

ー彼は気付いていた。

目の前で起きている事が普通ではない事を。

クラスメイトや本人には「日常」であっても、彼にとってこの光景は「非日常」でしかないのだ。


馴染んではいけない。

馴染んでしまっては、普通ではなくなる。

彼はそう自分に言い聞かせ、時計を見るや急いで教室を出て行った。


それを、「非日常」の張本人、逢坂茉帆は見ていた。








今は、お昼休み。

新学期の頃は、1年生の姿が購買には見当たらなかったけど、1ヶ月も経てば1年生の姿もたくさん見かける。


私はいつも修也とパンを買いに行き、教室で燎と3人で食べる。


「さぁて、今日は何パンにしようかなぁ……?」

私が悩んでいると、修也が横から、

「普通さ、ローテーションで昼食のパンを選ばないと思うんだけど」

「だって、ずっと同じだったらつまんないじゃん」

「君、変わってるよね」

「そう?今日は何パンを食べよっかなぁ…って思いながら登校するのが私の日課。なにも変哲もない、普通の女子高生の日常を送ってみたいのさ」

「ふ〜ん……まぁ、俺と一緒にいる時点で普通の女子高生の日常は送れないと思うけど」


修也は横目で私を見ながら、メロンパンを掴む。

「折口、今日はメロンパンなんだ」

「今日はメロンパンの口なんだよね。明日はあんぱんの口かな」

メロンパンの口ってなによ……。


「じゃあ私は、苺ぷりんパン」

「………なにそれ」

「あっれー?もしかして折口知らないんだぁ!」

私は明らか嫌そうな顔をする修也に向かって、ドヤ顔で決める。

「購買のおばちゃんが私の為だけに作ってくれるパン。誰も知らない、幻のパンだよ」

「茉帆ちゃんの権力ってそこまで及んでるの?」

「嘘に決まってるじゃん。数量限定の大人気のパンだよ。ま、購買のおばちゃんお手製は変わりないんだけどね」

「大人気のパンがなんで余ってんの」

「私が購買のおばちゃんに予約したから」

「ふ〜ん」

なんだコイツ。こんだけ聞いといて、無関心か。ん?

それにしても……

修也がこんなに聞いてくるのは珍しい。

修也ならてっきり既に知っている事だと思ったが…。





お金を払って、教室に戻ろうと廊下を歩いていた時の事だった。

しっかし、何故コイツは毎度毎度、人気(ひとけ)の少ない場所を選んで歩くのだろうか……?




「ところでさ、修也に聞きたい事あるんだけど」

「珍しいね、茉帆が俺に頼み事なんて」

「これは会話の一部。頼み事なんかじゃない」

「はいはい。で?聞きたい事って?」








「大島恭平について」









修也はため息をついた。

「茉帆。これだけは忠告しておくよ」


そして、修也はこう言い放った。






     ・・・・・・

「彼は実に興味深い人間だ。他の人間と複雑に絡み合っている。だからこそ、短気で喧嘩っ早い茉帆は、大島恭平に近づかない方が良い」

「興味深い……?」

「そうだよ。彼は日常に住みたいと望みながらも、非日常に住んでいる。みんなにとっての日常は彼の非日常なんだ」

「それのどこが興味深いの?そんなの私だって同じよ」

「う〜ん、そうだね。茉帆もどちらかというとそういう事になるよね。でも、彼はちょっと違うんだ」

「どういう事」

「彼は、自ら非日常を作り出している、って事さ」

それって…。


「矛盾してない?」

「そう。彼は矛盾しているんだ。これから彼がとる行動が全く予測できない。だから彼は面白い、興味深い!」

「楽しそうね〜……」

「なに?あ、俺が茉帆ちゃん以外の人間にこんなにも興味深くなってるから、嫉妬してるんだ。全く、可愛くない嫉妬だね」

「誰が嫉妬してるだ。違うんだよ。大島恭平は何かを(こば)んでる。見てたら分かる」

「ふ〜ん。まぁ、彼には関わらない事をお勧めするよ。君が関わるとさらにややこしくなる」

かなりいらっとした。ほっとけ。

「他にないの?情報。あんたなら知ってるでしょ?」

「大島恭平ってさ、やっぱクラスに馴染めてないよねぇ」

「そんなの見れば分かる」


修也が珍しく人の心配をしている。

大島恭平がクラスに馴染めていないのは、薄々気が付いていた。


「折口が人の心配するのって珍しくない?」

「失礼な人だね、君は。俺だって人間さ。心配くらいするよ」


教室の前まで来ると、修也は教室の前を通り過ぎた。


「どこ行くの?」

「ん?ちょっとね。茉帆ちゃんは燎と食べてなよ。俺は後で食べるよ」

「あっそ。また変な事に首つっこまないでよ。私が迷惑する」

修也は右手をひらひらとふると、そのまま角に曲がって消えて行った。




「おう!茉帆!珍しいな、修也とあんな仲いいの」

「今日はたまたま。折口に聞きたい事もあったし……。朝、喧嘩したばっかだし」

「そうか。喧嘩しないのはいいことだしな!」

「そうだね、折口とはあんま喧嘩しないように努力するよ」

「それはそれで、不安になるな……」

「どっちなのよ」

「いつも通りが一番ってことで!」

「なにそれ」




こうして、私達が日常を過ごしている間も非日常は起きていた。

※注意書き※


この2人は、人気(ひとけ)のある所ではお互い、

茉帆→折口と言い

修也→茉帆ちゃん

と呼びます。

途中、呼び方が変わったのは人気(ひとけ)のある所に出たからです。

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