0-(1) 日常と非日常。
非日常、とはなんだろうか。と、私は不意に思う事がある。
例えばだ。
今まで、「日常」で暮らしていたが、ある日突然「非日常」に住む事になった。
その人は、それなりに「非日常」を楽しんでいた。
しかし私は思う。
1週間も経てばその「非日常」は「日常」へと変わって行くのではないかと。
そして、また次の「非日常」へと変わって行き、「日常」になっていく。
ようはその繰り返しだ。
私、逢坂茉帆は思うわけだ。
「非日常」に住みたければ、「日常」を常に変えていくべきだと。
☆☆
ー5月初旬。
「おはよう」という声の飛び交う校舎。
わいわいと賑わう教室。
一見、なんの変哲も無い、ただの生徒達。
の中に、彼らはいた。
「おはよう、茉帆ちゃん。さっそくなんだけど、消えてくんない?」
「断る。お前が消えろ変人。」
「やだなぁ、俺は変人なんかじゃないよ?」
と、少年は少女にコンパスを向ける。
「変人じゃなければ、常にコンパスやらなんやら、刺さるものを持ち歩かないぞ。むしろ不審者。」
「これは、自己防衛ってやつだよ?相変わらずバカだね。」
少年は少女に持っていたコンパスと投げる。
投げた瞬間、少年の綺麗な黒髪が靡く。
少女は艶やかな赤髪を靡かせながら、ひょいっとコンパスを避ける。
「バカはお前だバカ。バカで変態じゃなければ、コンパスを人に向けて投げたりしない、バカ。」
「君はバカだから俺の投げたコンパスに刺さってくれるはずなんだけど。なんで避けるの?」
普通の人間は避けるのが常識だバカ。と少女は思う。
少女が普通の人間でなければ、きっと人間ダーツと化していただろう。
少女は壁に突き刺さったコンパスを引き抜いて、少年に向かって勢い良く投げる。
「死ねっ!!!」
逢坂茉帆。高校2年生。15歳。
赤い瞳に、肩まである艶やかな赤髪。一見普通の少女だ。普通とかけ離れている所をあげるとすれば、紅顔可憐を具現化したような美少女、というところか。
彼女と喧嘩じみたことをしているのは
折口修也。高校2年生。16歳。
青い瞳に、綺麗な黒髪。キリッとした目。一見、あらゆる美しいという言葉を具現化したような少年だ。
彼らはこうして毎日のように喧嘩をしているのだ。
それも、凶器を使って。
高校生の、それも教室で行われる喧嘩にしては少々、いや大分ハードだ。
しかし、これも彼らの日課。
クラスメイト達は「日常」として捉えているため、誰も止める者はいない。
しかし、必ず彼らの喧嘩に終符止を打つものがいる。
「おいおい、危ないだろ……いつもいつも、飽きねぇのかよ?」
そう、彼だ。
彼は、彼らの喧嘩を止める唯一の存在だ。
幸村燎。高校2年生。15歳。
一見、一般的に想像できる美少年、というところだ。美少年からかけ離れているところと言えば、若干つり目で”恐怖”の印象が強い。
「なんで、お前らは所かまわず、顔を合わす度に喧嘩すんだよ」
「私は関係ない。コイツが勝手に……」
「俺は君がいるから、ただ消えて欲しいだけさ。」
「私はお前に消えてほしいけどね。」
「僕は君に消えて欲しいよ?」
少年はコンパスを、少女は分厚い本を構えた。
「いやいや、お前ら?今、危ないって言ったじゃねぇか。なんで喧嘩を再開すんだよ。」
「ちょっと、茉帆ちゃん?分厚い本は、色々活用できるんだよ?その角で殴られたらどうなるのか、君はバカじゃないんだから分かるよね?」
「ごめん、私バカだから分かんないや。折口こそ、コンパス投げたら人間ダーツ完成だよ?」
「ごめんね?俺バカだからそんなことも想像つかないんだよ。」
「はいストーーーープ!!!!はいやめような。まわりの迷惑になるからな?」
そんな燎の言葉も他所に、2人は喧嘩を続ける。
「それじゃあ、この本の角で殴ってあげようか。」
「女の子なんだから、暴力はいけないよ〜?」
「死ねぃ!!!!」
そんな教室の端の席、一番廊下側の一番後ろ。
そこから彼らを見る人がいた。
名は、大島恭平ー。
※注意書き※
正確には、茉帆は「赤みのかかった黒髪」、修也は「普通に真っ黒な髪」です。