第9章:王都進出! 敵は我儘貴族
「王都に、レストランの2号店を?」
王都から届いた勅令――もとい、レオナルド殿下からの強い要請に、私は首を傾げた。食糧危機を救うため、王都の民に安価で栄養価の高い食事を提供してほしい、というのがその内容だった。
面倒ごとはごめんだけれど、飢えている人がいると聞けば、元農家の娘としては放っておけない。それに、私の料理でたくさんの人が救われるなら、それはそれで素晴らしいことだ。
「分かったわ。やりましょう!」
私はアッシュとクロード、そして村で育った腕利きの料理人たちを連れて、王都へと向かった。父である公爵は、私の突然の帰還と、その目的を知って目を丸くしていたが、最後には「お前のやりたいようにやりなさい」と力強く背中を押してくれた。
王太子肝いりのプロジェクトということもあり、王都の一等地に店を構えることができた。『陽だまりの食堂・王都店』は、開店するやいなや、連日大盛況となった。安くて美味しくて、ボリューム満点のジャガイモ料理やトマト料理は、食料不足に喘ぐ王都の民衆から、熱狂的に受け入れられたのだ。
しかし、光が強ければ、影もまた濃くなる。
「平民上がりの聖女に続き、今度は追放された悪役令嬢がのさばるか!」
私の成功を快く思わない者たちがいた。特に、今回の食糧危機を裏で画策していた保守派貴族の筆頭、マルクス辺境伯の一派は、私を目の敵にした。彼らは、王家の権威が揺らぐことを望み、私の活動を邪魔することで、レオナルド殿下の失脚を狙っていたのだ。
嫌がらせは、実に執拗かつ陰湿だった。
辺境領から王都へ食材を運ぶルートに山賊を差し向け、輸送を妨害する。
「あの店の料理を食べたら腹を壊した」というデマを流し、衛生局の査察を入れる。
店の前にゴロツキを配置し、客が入れないようにする。
次から次へと降りかかる危機に、店のスタッフたちは疲弊し始めた。
「セレスティーナ、どうするんだ?」
クロードが心配そうに尋ねる。
私は腕を組み、ふう、と息を吐いた。悪役令嬢を演じていた頃の、不敵な笑みが自然と口元に浮かぶ。
「売られた喧嘩は、きっちり買ってさしあげるわ」
まず、輸送妨害に対しては、アッシュが動いた。彼は元騎士団の仲間たちに協力を仰ぎ、腕利きの護衛チームを結成。山賊などものともせず、完璧な輸送ルートを確保して見せた。
悪評に対しては、クロードが商業ギルドの情報網を駆使。「デマを流しているのはマルクス辺境伯の一派である」という情報を逆に流し、民衆の同情を私の方へと引き寄せた。
そして、店の前のゴロツキ。これは私の出番だ。
私は大鍋いっぱいに作った熱々のシチューを持って店の外に出ると、ゴロツキたちに向かってにっこりと微笑んだ。
「皆様、お勤めご苦労様です。お腹が空いているでしょう? よかったら召し上がれ」
私の予想外の行動に、ゴロツキたちは呆気にとられる。しかし、空腹には勝てなかった。彼らがおずおずとシチューを食べ始めると、そのあまりの美味しさに、みるみる表情が和らいでいく。
「……嬢ちゃん、すまねぇ。俺たちも、金をもらってやってるだけで……」
「分かっているわ。あなたたちが悪いんじゃない。でも、次はもっと割りのいい仕事を探すことね」
こうして、私はどんな妨害も、仲間たちとの連携と、ほんの少しの機転(と美味しい料理)で鮮やかに切り抜けていった。その手腕は、民衆からの絶大な支持を集めると同時に、レオナルド殿下をさらに感嘆させることになる。
そして、敵対する貴族たちの憎悪を、ますます燃え上がらせることにもなったのだった。




