第5章:ようこそ『陽だまりの食堂』へ
トマトスープ事件以来、村人たちの私に対する態度は劇的に変わった。彼らはもはや私のことを「追放されてきた厄介者の令嬢」ではなく、「すごい野菜を作る面白い嬢ちゃん」として見てくれるようになったのだ。
収穫はまだまだ続く。ジャガイモ、ナス、キュウリ、ピーマン……私の畑は、まさに宝の宝庫だった。
「セレスティーナ様、この素晴らしい野菜たちを、もっと多くの人に食べてもらうべきです!」
村長が興奮気味に私に提案してきた。
「村には今、使われていない空き家があります。そこを改装して、食堂を開いてはいかがでしょう?」
食堂、ですって?
その言葉に、私の心は躍った。自分の料理で、もっとたくさんの人を笑顔にできるかもしれない。それはなんて素敵なことだろう!
「やるわ! やりましょう、村長さん!」
話はとんとん拍子に進んだ。村の男たちが腕を振るって空き家を改装し、女たちは掃除や飾り付けを手伝ってくれた。アッシュは、その無口さは相変わらずだが、重い木材を運んだり、棚を作ったりと、誰よりも熱心に働いてくれた。
そして数週間後、辺境の小さな村に、一軒の食堂がオープンした。
店の名前は『陽だまりの食堂』。
私の作る料理が、訪れた人々の心を陽だまりのように温かく照らせるように、と願いを込めて名付けた。
開店初日。メニューは、私がこの世界の人々を驚かせようと温めていたとっておきの料理たちだ。
薄く伸ばした生地にトマトソースとチーズ、そして採れたての野菜を乗せて石窯で焼いた『ピザ』。
細長く切ったジャガイモを油で揚げて塩を振っただけの、シンプルながらもやみつきになる『ポテトフライ』。
夏野菜をたっぷり使って煮込んだ、南フランスの家庭料理『ラタトゥイユ』。
開店と同時に、物珍しそうにやってきた村人たちで、小さな店内はすぐに満席になった。
「うめえ! なんだこの『ぴざ』って食いもんは!」
「この揚げた芋、手が止まらねぇ!」
「野菜がこんなに甘いなんて……」
あちこちから上がる歓声と、人々の幸せそうな笑顔。私は厨房で調理をしながら、その光景を見て胸がいっぱいになった。アッシュは用心棒兼ホール係として店に立ってくれていたが、その口元には、やっぱり微かな笑みが浮かんでいる。
やがて、『陽だまりの食堂』の噂は、村を訪れる旅の商人たちの間で瞬く間に広まっていった。
「辺境の村に、とんでもなく美味いメシを食わせる店があるらしい」
そんな噂が、人を呼び、活気を生み、静まり返っていた村に少しずつ、確かな変化をもたらし始めていた。
私はエプロン姿で厨房に立ち、額に汗を浮かべながら、働くことの喜びに満たされていた。妃教育を受けていた頃の、作り物のような笑顔じゃない。心からの、本物の笑顔。
私は今、間違いなく、人生で一番生き生きとしていた。




