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追放悪役令嬢のスローライフは止まらない!~辺境で野菜を育てていたら、いつの間にか国家運営する羽目になりました~  作者: 緋村ルナ


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第4章:奇跡のトマトと、はじまりのスープ

 季節は巡り、辺境の地に短い夏が訪れた頃。私の畑は、信じられないような光景に包まれていた。

 青々とした葉の間には、真っ赤に熟した艶やかな実。土の中からは、ごろごろと丸い塊が顔を覗かせている。そう、前世ではお馴染みの、トマトとジャガイモだ! この世界では存在しないか、あるいは品種改良が進んでいないためほとんど知られていない、奇跡の野菜たち。


「見てアッシュ! なんて美しい赤なのかしら!」

 私は太陽の光を浴びてキラキラと輝くトマトを一つもぎ取り、うっとりと眺めた。魔法農業の成果は、私の想像を遥かに超えていた。どの野菜も、前世で見ていたものよりずっと大きく、色鮮やかで、生命力に満ちている。

 村人たちも、いつの間にか遠巻きに私の畑を眺めるようになっていた。彼らの目には、当初の訝しむ色ではなく、驚きと興味が浮かんでいる。


「さあ、収穫よ!」

 私とアッシュは、籠いっぱいに野菜を収穫した。その日の昼食は、もちろん採れたての野菜を使った特別メニューだ。私は屋敷の厨房を借り、腕によりを振るった。

 まずは、この世界の人々が知らないであろう、トマトの本当の美味しさを教えなくては。


 私は真っ赤なトマトを数個選び、湯剥きして種を取り、丁寧に煮込んでいく。味付けは、岩塩と、ほんの少しのハーブだけ。シンプルなトマトスープだ。厨房には、甘酸っぱい、食欲をそそる香りが立ち込める。

 完成した真っ赤なスープを深皿に注ぎ、アッシュと、様子を見に来たセバスチャン、そして勇気を出して近づいてきた村長さん夫婦の前に並べた。


「さあ、召し上がれ。私の畑で採れた、太陽の恵みよ」

 彼らは、毒々しいとさえ思えるその赤い液体を、恐る恐るスプーンですくう。

 そして、一口。

 次の瞬間、全員の目がカッと見開かれた。

「なっ……!?」

「こ、これは……!? 甘くて、少し酸っぱくて……こんな味、生まれて初めてだ!」

 村長が驚きの声を上げる。アッシュも、いつもは無表情な顔を珍しくほころばせ、夢中でスープを口に運んでいる。

「美味しい……」

 彼の小さな呟きが、私の心に温かく響いた。


 その味は、噂となってあっという間に村中に広まった。翌日、私の屋敷の前には「あの赤い汁を一口でいいから飲ませてくれ」という村人たちの列ができていたほどだ。

 私はもちろん、大鍋いっぱいにトマトスープを作り、皆に振る舞った。

 最初は警戒していた村人たちが、スープを口にするたびに驚き、笑顔になり、「ありがとう、嬢ちゃん!」と私のことを呼ぶ。

 その光景は、どんな宝石よりも、どんなドレスよりも、私の心を豊かにしてくれた。


 頑なだった村人たちの心が、たった一杯のスープによって、ゆっくりと溶かされていく。

 それは、私のスローライフが、私だけのものから、皆のものへと変わっていく、最初の瞬間だったのかもしれない。

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