第12章:あなたが隣にいる未来
マルクス辺境伯の陰謀が暴かれ、事件は解決した。
私の『魔法農業』とリリアナの『浄化の力』によって、王国の土地は急速に活力を取り戻し、エルディオス王国は未曾有の食糧危機から救われた。
私の功績は絶大なものとなり、もはや私を「追放された悪役令嬢」と呼ぶ者はいなくなった。民衆は私を「救国の聖女」ならぬ「豊穣の女神」と呼び、英雄として称えた。正直、ちょっと気恥ずかしい。
そんなある日、私はレオナルド殿下に王城へと呼び出された。
通されたのは、玉座の間ではなく、彼の私的な執務室だった。二人きりの部屋には、少しだけ緊張した空気が流れている。
やがて、レオナルドは私の前に立つと、すぅ、と息を吸い込み、そして、王太子としてではなく、一人の男としての顔で、私に向かって深く、深く頭を下げた。
「セレスティーナ。まずは、謝らせてほしい。君の才能を見抜きながら、君を政略の道具としてしか見ず、窮屈な場所に閉じ込めてしまっていたことを。本当に、すまなかった」
その真摯な謝罪に、私は驚いて目を見開く。
「……もう、いいのです。レオナルド殿下。私は、追放されたおかげで、本当にやりたいことを見つけられましたから」
「ああ。君は、俺の想像を遥かに超えて、輝いていた」
彼は顔を上げると、まっすぐな、熱を帯びた瞳で私を見つめた。その瞳に射抜かれて、私の心臓が、どきりと音を立てる。
「セレスティーナ・フォン・ヴァインベルク」
彼は私の名を、とても大切な宝物を呼ぶかのように、丁寧に紡いだ。
「君の常識にとらわれない発想力、困難に立ち向かう行動力、そして、何より人々を幸せにしたいと願うその温かい心。俺は、そんな君に惹かれた」
「……え?」
「国を、いや、この私を支えるパートナーとして、もう一度、私の隣に立ってはくれないだろうか」
それは、命令でも、政略でもなかった。
王太子と公爵令嬢としてではない。レオナルドという一人の男から、セレスティーナという一人の女への、心の底からのプロポーズだった。
婚約破棄をされた、あの卒業パーティーの日が、まるで遠い昔のことのようだ。
あの時は、自由になれると、ただただ喜んでいた。でも、辺境でたくさんの人と出会い、たくさんの経験をして、私は知った。一人で生きる自由よりも、誰かと共に未来を創っていく喜びがあることを。
私は、満面の笑みを浮かべた。悪役令嬢を演じていた頃の作り物の笑みでも、辺境で野菜の収穫を喜んだ時の無邪気な笑みでもない。
愛する人に向けて、全ての想いを込めた笑顔で、私は答えた。
「はい、喜んで。……でも、一つだけ条件があります」
「なんだい?」
「時々は、私と一緒に畑仕事をしてくださいね? 王妃になっても、土いじりだけは辞められそうにありませんから!」
私の答えに、レオナルドは一瞬呆気にとられた後、たまらなく愛おしそうな顔で、声を上げて笑った。
「ああ、もちろんだ。君の隣で、俺も泥だらけになろう」
こうして、私は再び、彼の婚約者となった。
でも、今度はもう、窮屈な鳥かごの中じゃない。二人で手を取り合って、どこまでも広がる未来へと羽ばたいていくのだ。




