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プロローグ この会社はブラック企業の一つである

 ──この会社、マジでクソだな……。


 憂鬱な月曜日。天気はなぜか晴れ。今日に限って、電車に遅延はなく、就業時間には当然会社に着いてしまった。


 「おはよーございまーす……」


 私も大概元気のない挨拶だが、「うーっす……」と返って来た挨拶には元気というより、生気がない。


 「あはは……村田さん、また徹夜です? 土日も……家には帰れて無さそうですね」


 私の隣の席の村田さん。私より二個先輩の彼は、今は企画部の営業として頑張って、その結果会社が家のような存在になっている。


 「秋月さんも、金曜日は遅くまで仕事してたでしょ。休日はゆっくりできた?」


 「おかげさまで──って……村田さんのその仕事、先週課長がやってた分じゃないですか」


 「あはは……いやね、金曜日の帰る前に急に先方が納得いかないー! って言い出したみたいでさ……」


 「マジですか……。それで、課長はなんて?」


 「課長もさ、先方のわがままに怒っちゃってね。もう担当を変えるから! って、僕に押し付けて帰っちゃったよ」


 「それ、納期って……」


 「今日のお昼まで。おかげで僕は休日返上……。もちろん、サービスだよ」


 「あはは……」が口癖の彼は、いつもこうして頭を掻いて困ったと言う。

 

 私が勤めるこの会社──黒須企画は、実に幅広い分野を手掛ける大手商社……世間ではそう呼ばれている。

 しかし実態は……。

 月の残業八十時間は当たり前。終わらない仕事、なのにも関わらず次から次へと振られる新規の企画。営業とは名ばかりのデスクワーク地獄。

 

 挙げ句の果てには──。



 「皆さーん、おはようございます! 今日も一日、頑張りましょうね!」


 始業の鐘と共に部屋に、馬鹿でかい声で入って来たコイツは、私の上司でありこの企画部の課長の渡辺。

 簡単に言えば、うちの部署の癌だ。


 「おやおや? 村田さん、この企画の納期は今日のお昼までだったはずですが。何をしているのです?」


 自分が押し付けたくせに、何を偉そうに。

 そう思っている者は少なくないが、誰もその不満を口に出す者はいない。

 口に出そうものなら、部下の教育というお題目の公開処刑が待っているのだ。


 今日のターゲットは、村田さん。

 朝礼時間になっても関係なく。課長のネチネチとしたお説教が、その後二時間ほど続いた。


 「わかりましたね、村田さん。あなたがしっかりしないと、私の評価に関わるんですからね。まったくもって根性というものが足りないんですよ」


 終わったかと思えた、無駄な時間がまだ続く。村田さんの方は、終始「すみません」としか口にしない。


 側から見れば、ただのイジメだ。

 うちの部署は全員合わせて二十人ほど。今は一人足りないが、他の全員が聞こえる距離で十二分に聞こえる大きさの声量で、まだまだ課長の叱咤が飛ぶ。


 「──すみません! 遅くなりました!」


 次のターゲットが来てしまった。

 彼はこの部署に最近配属された黒崎くん。

 走って来たのだろう。髪が少し乱れて、額には汗が滲んでいる。


 「黒崎くん! 君という奴は! とっくに始業時間は過ぎてますよ! 本当に最近の若い人ってのは──」


 一見、課長の怒りも最もに聞こえるが、彼は先週末に急な出張に出ていた。おそらく、始発で帰って来たのだろう。この会社では、珍しくない事だ。


 「そんなことより、課長! 聞いてくださいよ」


 彼の肩を持つわけではないが、決して黒崎くんは悪い子ではない。

 そう、たとえ激昂する課長の話を遮ったとしても、そこに悪気は一切無いのだ。



 「貴様って奴は!!! 私が、せっかく! 君のためを思って! 指導してあげているというのに! なんなんだね! もう知らんからな!」


 課長は憤慨して、バタンと勢いよく扉を閉めて出て行ってしまった。


 「あのー……。さっきのは僕が悪かったんですかね……?」


 しおらしくなってしまった。

 黒崎くんの身長は、私よりも高い。たぶん百八十手前はあるだろうか。私とは、頭一個分くらい違う計算になる。


 「黒崎くん、あのね? 課長みたいなタイプの人の話は遮らないほうがいいの。わかった?」


 「そうなんですね、すみません……。ありがとうございます、秋月さん」


 「まぁでも……黒崎くんが来てくれなかったら、あのお説教をいつまでも聞かされることになってたと思うし。むしろ、ありがとうね。ナイスタイミング!」


 「へへへっ……」と黒崎くんが、照れ笑いを浮かべる。その表情は、彼がまだ二十歳くらいの初心な社会人初心者なのだと思えるほど幼く見えた。

 しかし。実は彼、こう見えて私と同い年らしい。

 つまり、二十七なのだ。


 「さあ! 私たちも仕事しよっか。黒崎くんも、出張お疲れ。頑張ってね!」


 「あっ、はい。ありがとうございます、秋月さんも頑張ってください」


 私は「じゃあね」と言って、自分の席に戻って仕事に手をつけることに。

 黒崎くんは、出張費の清算に経理部へ行くのだろう。カバンを両手で抱えるような格好で事務所を出て行った。

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