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第7話


「いつかー、下着なんだけどさー。」

「えっち。」

「待て待て待て。死活問題。どーすんのって話。」

叶は着替えを用意していて、気が付いたのだろう。いつかも薄々どうしようかとは考えていた。

「買って、まだ使ってない私のがあるけど、さすがに嫌?」

「え、未使用品なら全然いいけど。」

いつかはお湯から上半身を出して、バスタブの縁に腰掛けながら言う。手で扇を作って、パタパタと涼を仰いだ。

「マジか。女子としてどうなん、それ。」

叶が脱衣所で呆れているのがわかる。

「だって、コンビニで下着買ってきてって頼む方が嫌じゃない?いいじゃん、同性だし。」

「なら、いいけど。」

苦笑するが脱衣所の棚の扉を開ける音が聞こえた。

「じゃ、まあ出しとくから。ボクサータイプだから、いつかが下腹ぽっちゃりでもいけるっちゃいける、と思う。」

「それは嬉しいな。贅沢言える身じゃないけど、私、下半身が太いの。」

「お風呂上がったら言って。次、私も入るから。」

了解、といういつかの返事を聞いて、叶は外に出て行った。それからいつかはもう少し、昼風呂を楽しんでから上がることにした。

叶が用意してくれた下着とTシャツ、ハーフパンツを身に付けて脱衣所を出る。ブラは用意できなかったので胸元が些か心許ないが、バスタオルで隠しつつ廊下をひたひたと歩いて行く。

「叶ー。出たよー。」

声をかけながら、叶の気配を探った。するとラジオが喋る声が聞こえ、その声を辿ってみることにした。

「ここかな…?」

広い家の奥の部屋、少し開いた扉のドアノブを掴んでそっと押した。キイ、と音を立て扉は軋み、そっと顔を覗かせるとそこはリビングのようで叶がソファに座ってうたた寝をしていた。今は使わない暖炉の上にラジオが置かれ、そこからリスナーのリクエスト曲が流れていた。

叶に声をかけようとして、彼女の膝の上にいつかの大事な画集が置かれていることに気が付いた。癖のついたページが開き、そこで止まっている。

「叶。お風呂、どうぞ。」

いつかが叶の肩に触れて小さく揺すった瞬間、彼女の目尻から涙が一粒ほろりと落ちた。

「…叶?」

いつかはその手を止める。だが、もしも悲しい夢を見ているというならば起床を促した方が良いだろうと思い、再び肩を揺すった。

「起きて、叶。大丈夫?」

「…んー…、うん…?」

ふわっとした意識の浮上だった。ゆっくりと瞼が開かれて、子どものようにぱちぱちと瞬きを繰り返している。そして小さなあくびを噛み殺した。

「あー…、寝てたかー。」

さりげなく叶は目元の涙を拭い、いつかを不思議そうに見る。

「どうした?」

「いや、泣いてたから…。嫌な夢でも見たの?」

「覚えてないなー。」

嘘か本当かわからない答えだったが、叶が言う気のないことをわざわざ詮索する気はない。いつかは、そっか、と呟いてこの話題を終わらせた。

「これ、この画集…。」

叶が膝に置いていた画集を左手に取る。

「この作者、好きなんだ?」

「え…、うん。」

ふーん、と叶は興味なさそうに呟くと、画集をいつかの胸に押し返した。

「返す。」

「どうも…。」

一瞬、叶の瞳に無色の感情を見た気がした。いつかはその意味を知りたくて口を開きかけたが、叶はさっさと立ち上がって行ってしまう。

「私もお風呂、行ってこよーっと。いつかはここにいていいよ。」

「ありがとう。」

いつかは、あれ、と気が付く。歩く叶の手は左手しか揺れていない。思えば、彼女の右手が動いているところ見ていない。…不自由なのかな、と思い、じろじろと見るのは失礼だと目をそらした。

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