第5話
二人は、駆けつけた釣り人に引き上げられてようやく陸に再び足を下ろした。
いつかは釣り人に礼を言い、頭を下げる。
「気をつけな。」
足を滑らせたのだと勘違いした釣り人はそう言って、笑いながら去って行った。
「…大丈夫?」
終始無言の少女に、いつかはそっと声をかける。少女はじっといつかを見つめていて、目が合った。体の色素が全体的に薄い体質なのだろう、その瞳も髪の毛同様に明るく輝き、瞳孔を縁取る虹彩に僅かな黄色と緑が混じりまるでひまわりのようだと思った。
「…。」
少女はいつかの視線を受けて、ふいと目をそらす。そして聞こえたのは、小さな舌打ちだった。
「誰、あなた。」
「色々突っ込みたいけれど、今、舌打ちをしたな?」
いつかは若干の怒りを覚えながら、自分を諌めるように声を低くした。
「今、私が誰かなんて関係ない。なんで、飛び込んだの?」
「意味なんてないよ。」
まるで思春期の反抗期だと思い、いや、まさにそれかと思い直す。だとしても、言いたいことは言っておこう。
「意味なく死にかけたってわけ?随分と安い命なのね。」
いつかの言葉に、少女は再び彼女を見た。
「大げさ。」
鼻で笑われて、いよいよいつかの堪忍袋の緒が切れた。
「…ああ、そう。助けて損し、っくしゅ!」
水に濡れた服が風に晒されて、体温を下げた。くしゃみをするいつかを見て、少女は大きなため息を吐いた。
「タオルと服貸してあげる。…ありがと。」
断りかけた言葉も、最後の少女の礼の言葉で何だかどうでも良くなった。こっち、と誘うその声にいつかは素直について行くことにした。