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冬の舞踏会2


 はじめは緊張していたエスコートにも、最近はだいぶ慣れてきた。互いに微笑み合いながら大広間へ入ると、一斉に注目が集まる。


 しかし、この日のエミリーは周囲の視線など忘れてしまうほど舞踏会に夢中だった。


 「わぁ、リュシアン様、天井を見てください! シャンデリアの周りの光が流星群のように散って、きらきらと降ってきますよ!」


 「ああ、綺麗だな。パーティーのための特別な演出だ」


 嬉しそうにはしゃぐエミリーを温かく見守るリュシアン。エミリーはしばらくの間、大広間にかけられた魔法の数々に魅入っていたが、ハッと我に返った。


 「申し訳ございません……! 夢のような魔法で興奮してしまいました……。とっくに成人しているのに子どもっぽい反応をお見せしてお恥ずかしいです」


 「恥じ入ることはない。今日は舞踏会だし、みな浮かれている。それに無邪気に楽しむ君の姿を隣で見ているのはとても楽しい。パートナーの特権だな」


 (ん”ん”っ、リュシアン様の恋人力が高過ぎて心臓に負荷が……!)


 彼の完璧なフォローに内心身悶えていると、ふっと優しい笑みを零したリュシアンがエミリーの前で両手を広げた。


 「さて、これからどうする? ダンスを踊ってもいいし、料理が気になるならビュッフェを見に行こう。大広間の演出が気に入ったなら心ゆくまで眺めていてかまわない。今夜は君のしたいことを全部しよう」


 (ひゃああああああああ)


 バキューーーーン! と胸を撃ち抜かれたエミリーはあまりの破壊力に両掌で顔を覆った。足元がふらついてしまい、他の生徒にぶつかりそうになったところを咄嗟に助けられ、難を逃れた。


 「重ね重ね申し訳ございません……! もう、リュシアン様に対するときめきが止まらなくて……っ」


 穴があったらすぐにでも埋まりたい。羞恥の限界に達してパニックを起こし、ぼふん、と頭から湯気が出た。当のリュシアンは気を悪くした様子はなく、むしろ満足げに微笑を浮かべた。


 「何が君の心に響いたかは分からないが、君をときめかせることに成功したなら本望だ」


 「~~~~~~~っ!!」


 (あああああもはや何を言っても反応が甘過ぎて昇天不可避……! 糖分の過剰摂取で死んでしまうぅぅ)


 息も絶え絶えにぷるぷると震えてしまったが、リュシアンが茶化さずに見守ってくれたこともあり、少しずつ平静を取り戻した。


 「よかった。落ち着いたようだな」


 柔らかな笑みで気遣われ、エミリーは恥じ入りつつもこくんと頷いた。今夜はせっかくの舞踏会だ。余すところなくリュシアンと楽しみたい。ふんす、と気合を入れたエミリーは決意を胸にリュシアンを見上げた。


 「先ほどのお返事ですが……最初にダンスをお願いできますか? 今夜のためにコレットが腕によりをかけて支度してくれたのです。一番綺麗な状態でリュシアン様と踊りたい」


 「分かった。それならちょうど音楽が切り替わるところだ。オレたちもダンスに混ざろう」


 堂に入った優雅な物腰でダンスを申し込むリュシアン。


 「美しい方。私と一曲踊っていただけますか?」


 「はい、喜んで!」


 心を弾ませながら、リュシアンと共に広間中央へ躍り出る。はじめは型通りに丁寧にダンスを踊ったが、リュシアンのリードが頼もしく、次第に余裕が出て、遊び心があるステップに変わっていった。


 貴族の舞踏会において未婚の男女が二曲以上踊れるのは婚約者だけだが、学校の舞踏会は例外だ。他の生徒たちに混ざり、心ゆくまでリュシアンとダンスを楽しむことができた。





 ダンスの余韻が冷めやらぬ中、エミリーは少し外の空気が吸いたくなった。少し迷った末にリュシアンに伝えたところ快諾され、二人でテラスに向かった。


 大広間からテラスに出ると、広間の熱気が嘘のように冬の冷気に包まれた。それが火照った肌には心地よく、すぅっと肺に空気を吸い込んで瞼を閉じる。


 「何曲も踊って疲れただろう? ここへ来る途中、飲み物を貰ってきたから喉を潤すといい」


 「! ありがとうございます」


 気を利かせてくれたリュシアンに礼を言いつつ、受け取ったグラスを傾けて乾いた喉に流し込んだ。胃に染み入るようでほうっと息を吐くと、リュシアンが己の上着を脱いで肩にかけてくれた。


 冷え込む夜だが、彼の気遣いのおかげで心も体もふんわりと温もりに包まれている。


 「リュシアン様、もっと近づいてもいいですか?」


 「もちろんかまわないが……いいのか? ここは人目がある」


 「はい。やましいことはないですし、誰に見られてもかまいません。寒い日は身を寄せ合っている方が温かいでしょう?」


 秋祭りの日にリュシアンが抱き寄せてくれたことを思い出したエミリーは、適度な距離を空けて隣に立っている彼に身を寄せた。腕が密着し、じんわりと互いの体温が伝わる。


 リュシアンはエミリーの手を取ると、指を絡めて握った。恋人らしい親密な触れ合いにドキドキしつつ、彼に寄りかかって少しだけ体重を預けた。リュシアンは驚いて、嬉しそうに瞳を細める。


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