秘密の行為
立ち尽くしているだけなのに、僕の呼吸は荒くなり、心臓は早鐘を打った。
両方の手のひらをいったん広げ、そして握った。握りこぶしは汗で湿っていた。
心の準備はまったくできていなかったけれど、股間は意思とは関係なく痛いほど勃起していた。
綿丘さんはコンドームを持っている。そのことを僕に伝えた。彼女はさせてくれるのだ。
でもしていいのか僕にはわからなかった。上手くできるのかもわからなかった。した後に僕と綿丘さんの関係がどう変化するのかもわからなかった。
僕は動き出せなくて、花の楽園でただ立ち尽くしていた。
先に動いたのは綿丘さんの方だった。
彼女は僕のすぐそばに歩いてきて、腰を下ろし、膝を折って、顔をぐっと僕の股間に近づけ、そこをしっかりと観察した。
猛烈に恥ずかしかった。僕の性器は自分史上最高に硬く大きくなり、びーんと立ってスポーツパンツを押しあげている。
「テントのようになっているよ?」
「ですね……」
「つん……」
彼女は右手の人さし指でそこをやさしく突いた。
「あうっ……」
たったそれだけで僕は途方もなく感じて、うめいてしまった。
それは硬く大きくしっかりと存在しているはずなのに、綿丘さんに触られた部分が溶けてしまいそうだった。
なんでこんなに敏感になっているんだ。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
「きゃっ、おもしろーい」
「やめて……」
「つん、つん」
「あっ、おっ……」
「つん、つん、つん」
「あ、うあ、んんっ……」
「つつつつつ」
「ひあっ」
「ひゃあ、なんか湿ってきた」
女の子がどう濡れるのか、僕は知らない。
でも男だって先っぽから液が漏れるのだ。
「これは興味深い器官ですね、小鹿先生」
「誰が先生だ……」
「カナタ先生」
「だから先生じゃないって……」
「これからはカナタくんって呼んでいい?」
「いいけど……」
「やった! じゃあこれからは名前で呼ばせてもらうね、カナタくん。つん、つん、つん、つん、つん」
「あっ、うっ、あっ、ああっ、おっ」
「カナタくん可愛い。感じやすいんだね」
自分で触ってこんなに感じたことはない。
とろけるほど気持ちいい。どうしてこんなに敏感なのだろう。
好きな人に触れられているからだろうか。
太陽が僕たちのいる小さな広場を照らしている。
可憐な花が咲き乱れ、ミチバチがそこに頭を突っ込んで蜜を吸っている。
蝶が僕らの周りをひらりひらりと舞っている。その複眼にはきっと快感に打ち震える僕の姿が映っていることだろう。
僕の美しい恋人は顔を上気させている。
その目は大きく見開かれ、ブラウンの瞳は僕のものを見つめてそらさない。
口角が上がり、唇は微かに開いて、熱い息が漏れている。
「ねえカナタくん、わたしのことはきらりって呼んで」
「きらりさん」
「呼び捨てでいいのよ、きらりって」
「きらり……。僕はそんなに一足飛びには進めないよ。しばらくはきらりさんでお願いします」
「じゃあそれでいいや。これからはきらりさんって呼んでね。綿丘さんはなしで」
「はい、きらりさん」
「うわあ、名前呼びされるとキュンとしちゃう。これはお礼よ」
きらりさんはパンツの上から僕のにキスをした。軽く唇で挟まれる。背筋に電流が走り、僕はびくっとのけぞった。
「はひっ」
彼女の唇が離れても快感はすぐには消えず、からだがぞくぞくしつづけた。きらりさんがパンツの上から僕にキスをしてくれた。その事実を脳が何度も反芻し、肉体だけでなく、僕は心まで気持ちよくなった。
きらりさんはそんな僕の反応をしっかりと観察して、楽しんでいるようだった。消極的な性格の僕は、積極的なタイプの彼女にいじられて、隠している欲望を徐々に剥き出しにされている。僕はもっときらりさんに触ってほしかった。
「可愛いなあ、カナタくん。愛してるよ」
「僕も愛してます、きらりさん」
「どうして敬語なの?」
「なんとなく……」
彼女は地面に投げ出していたリュックサックに手を伸ばし、ポケットのチャックを開けて、中から小さな箱を取り出した。
安全に危険なことをやるためのブツだった。
0.03と印刷されている。
「うふっ」
「どこで買ったの?」
「遠くのコンビニ。レジに出すとき恥ずかしかった……」
「でも買ったんだね、きらりさん……」
「山できみの気持ちを確かめるつもりだった。そしてもしかすると必要になるかもと思ってた」
きらりさんはそれだけの決意をして山に来ていたのだ。僕はただ浮かれていただけだった。
「いちばんの女の子にしてくれたら、使うつもりだった」
こんなに早い展開は予想していなかった。でももうやるしかない。そう思った。
彼女は胸をそらせた。ウインドブレーカーがぱっつんぱっつんに張っている。
「触って」
僕はそこに軽く触れた。押しつけられたことは何度もあるけれど、手のひらで触ったのは初めてだった。そっと触れただけで、指がめり込む。
「もっとちゃんと触って。好きなようにしていいのよ。カナタくんはわたしをいくらでも揉んでいいの」
両方の手でしっかりとつかんで、粘土をこねるように指でぐにゃぐにゃと揉んだ。
きらりさんのおっぱいは粘土よりも遥かに柔らかく、面白いように形を変えた。ふにゃふにゃのぐにぐに。
それは不思議な物体だった。
ふんわりと柔らかくて指がずぶずぶと入っていくのに、ぷりっぷりっに弾力があって押し返してくる。
可変的で形状記憶的な摩訶不思議な物体。
僕は夢中でそれを揉みまくった。彼女の呼吸が激しくなり、甘い声が漏れた。
「はっ、はぁ、はぁ、んはっ……」
きらりさんの甘い吐息は僕をますます興奮させた。
もう我慢も遠慮もしない。この柔らかく妙なるふたつの半球体をもっと堪能したい。
上着とブラジャーが邪魔だ。
「服が邪魔ですね」と言ってみた。
「脱がせてよ」
きらりさんは妖しく目を光らせながら諸手をあげた。
僕は彼女のウインドブレーカーを脱がせた。
その下には長袖のTシャツがあった。
まだバンザイの姿勢をしている彼女からシャツをするすると抜き取った。
まばゆい白い肌とふたつのビーチボールが現れた。
僕の行く手をさえぎるものは、もはやレースのブラジャーだけだった。その色は黒。
黒のブラジャーを纏うきらりさんは、大人っぽくてこの上なく刺激的だった。
僕はそれをすぐにははずさなかった。
ブラのいちばん高みを凝視し、指先で押した。まず右。
「ふわあっ」
次に左。
「あ、あう……」
僕はサイズが気になった。アルファベットで表現される何カップとかいうやつ。
「これのサイズを教えてください」
「Iよ……」
「あい……」と僕は繰り返した。よくわからないが、相当に大きなサイズなのだろう。
「それでもきつくなってきたの」
「取りはずしてもいいですか?」
「いちいち許可を取らなくていいよ。背中にホックがある……」
僕は両手を彼女の背中に回して、手間取りながらそれをはずした。
ブラジャーがはらりと落ちて、僕はついに桜色の突起を見た。綺麗だ。
僕は先端を指で突いた。
「あっ」
強く押し込んでみた。
「あっあっ」
人さし指と親指でつまんだ。
「あんっ」
捏ね回す。
「ああ……」
「楽しいですね」
「もう敬語やめて……」
太陽はさんさんと輝き、葉っぱは光合成をしていた。
野の花はミツバチを受け入れ、なすがままにされていた。
僕は初めてで、ちゃんとやれるのか心配だった。
でもそれはかつてないほど大きくなっている。さっきからずっと硬くて、びんびんと立ちつづけている。
ーー野原に赤い血がこぼれている。
きらりさんは放心し、満足し切った顔を青空に向けていた。
僕は裸で彼女の隣に座り、荒くなった息を整えていた。
鳥がチチチ、ピィーピィー、クアックアッと鳴いていた。
こんなにたくさんの鳥がいたのかと驚いた。
少し前まで、世界には僕と彼女しかいなかったのだ。それは凝縮された特殊な世界だった。
裸のままゆっくりと時間を過ごし、僕たちは一般的な世界に少しずつからだを馴染ませた。
普通の世界に帰ってきてから、僕らは服を着た。
再び獣道をくぐり抜け、登山道に出た。
そこに人がひとりもいなくて、ほっとした。僕は現実的な判断力を取り戻していた。きらりさんはあのとき、かなり大きなあえぎ声をあげていた。それを聞いた人が道にいなくて助かった。
「今日のことは絶対に忘れない」
「僕も」
「カナタくん、わたしはきみの女の子だよ」
「うん。きらりさんは僕のいちばんの女の子だ」
「わたし、きみに尽くすから」
「僕もきみを大切にする」
「高校生カップルは長つづきしないという説がある……」
きらりさんはすみれと同じことを言った。
「でもわたしときみは長つづきする、きっと。いつまでも一緒よ」
「すこやかなるときも病めるときも?」
「その台詞について考えるのは、社会人になってからにしましょう」
僕たちは登山道を下った。
ずっと手をつないでいた。




