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邂逅

「こいつ、どうすればいいかな」


結局休み時間など、人目が無いところで鞄から引っ剥がそうとしても無駄に力が強く引っばり出すこと叶わず。

こうして放課後になってしまっても追い払えずにいる。


「なぁ、頼むから出てってくれ?」


俺の小声に鞄から顔を少し出しているぬいぐるみモドキはぷいっとそっぽを向いて鞄の奥に潜り込んでしまった。

尻尾を前後に振り早く閉めろと言っているようで少しイラッとくる。


「……さて、今日のお世話も終わったしまっすぐ家に帰るのもなぁ」


こいつのことはまた後回しにするとして。

俺は再び生物準備室に行き動物たちの相手をしている。

そして一通りの世話はしたので立ち上がり鞄を手に取る。

ちなみに望月先生には「明日の授業の手伝いをしておくれよ」と泣いて抱きしめられたが知ったことではない。

密着したときにやわらかい感触が腕に当たり、心が揺らいだがそこは心を鬼にして引き剥がした。

……ちょっと勿体ないことをした、とか思わなくもないがそこは男の子なのだ。仕方なかろう。


「……そういえば、双一のやつ、色々と捜索するって言ってたな」


学校を出てしばらく。

家に帰っても暇だし、今日はバイトもないのでふと双一が話していたことを思い出し、ちょうど裏路地に入る小道で足を止める。


「あいつが変なことに巻き込まれるとは思えないけど、なんか不安だな」


双一はこの街で昔から表も裏もくまなく探検しており、さらに環境もあって情報を精通している。

俺も何度か付き合わされ、その度に泥だらけ傷だらけで帰り姉にめちゃくちゃに怒られた記憶がある。

そんな訳で第2の庭みたいな場所だ。滅多なこともないだろう。

そしてなによりとっさの判断力と逃げ足があるため危険はないはずだ。


(無いはず……なんだがこの胸騒ぎは何だ?)


今朝の噂話の件が頭にこびりついて離れない。

それにもし、万が一噂が本当ならば……ということもある。


「え?」


そう逡巡していると、今までとは比にならないぐらいに激しく眼の前の景色がスパークし、色々な景色が鮮明に見える。

まるでたくさんの画面で映像を見るようにあらゆる角度で双一の姿が映し出された。

そしてそのどれもが無惨な姿で横たわっている映像で終わっている。

ただ一つの画面を除いてーーー


「ぐっ、あっ。はぁ、はぁ、はぁ」


意識が一気に引っ張られ体に戻ったような感覚があったかと思うと、脳と目が焼き切れるような激痛と吐き気に襲われその場に膝をついて荒い息を吐く。


「な、何だ今のは?」


体中からブワッと出る冷や汗を拭いながら先程見た映像を思い返す。

妄想にしてはあまりにもリアルな映像に俺は無理矢理体を起こした。

双一がいた場所には見覚えがある。

一度連れて行かれたことがある廃ビルの一角だ。


「勘違いであってくれっ」


祈るような想いで、俺は双一がいるだろう場所にカバンをその場に置いていき、走り出していった。



ーーーーーーーーーー



「ここらあたりだったんだけどな」


息を切らし、記憶を頼りに走り角を曲がると廃ビルを見つけた。

ここら一帯は開発計画があったのだが、理由は知らないが頓挫しそれ以来手を付けられずにいる場所らしく、周りはコンクリートの瓦礫の山である。

実際目の前にある廃ビルもコンクリートが剥がれ鉄骨がむき出しになっている部分がある。

なので今では不良たちや危ない職種の人たちがたむろする場所となっていると双一が話していたっけ。


(どこだ、双一?)


そんなことを思い出しつつ焦る気持ちを抑え、廃ビルのひとつへと入ろうとすると、上階で爆発が起きたような轟音が鼓膜に響いた。


「なんだ!?」


音のする上方を向けると廃ビルから煙塵が上がっていた。


「おいおいおい、マジかよ」


嫌な予感が確信に変わる感覚に考えるよりも早く俺はまた駆け出した。

廃ビル内に入ったあとも爆音は鳴り続ける。

俺はその音を頼りに階段を上がり三階に行くと双一が倒れているのを発見した。


「双一!?」


俺はすぐに双一に駆け寄り体を揺する。

すると直ぐに目を開け俺と目があった。


「白鐘、か? お前もなんだかんだで興味あるんじゃん。でも、このネタは俺のもんだぜ」

「ふざけてる場合か。何があったか知らんがとにかくここから逃げるぞ」

「しっぶといねー。ここまで逃げられるの初めてだからびっくりだよ〜」


煙の中からゆっくりと現れたのはまだ幼い少女だった。

格好はダボッとしたピンクのパーカーに下はスパッツの上にフリフリのスカートを履いている。

髪はピンクと青がちょうど半々に分かれ、それをツインテールにしており、見た目はかなり派手な感じだ。


(ん? てかあの子って確か今朝の?……)

「ってあれ? 今朝のお兄ちゃんじゃん。やっほー」


今朝会った少女はヘラヘラ笑いながらこちらに手を振り、ゆっくり左右に揺れる足取りで近寄ってくる。

あの時と同じような無邪気さなはずなのに、彼女を視認した時から氷のように冷たく嫌な汗が身体中の穴から吹き出してくる。


「でもあーあ。るなちょっぴりショック〜。イッパン人なのにまだ喰らえてないのがさぁ」


自身のことをるなと呼ぶ少女は右手をこちらに差し出す。

時空が歪んだように空間が捻じれ、出てきたのは俺たちの何倍も巨大な全身赤色の鬼のような化け物が現れた。


「っ!? やばっ」


一瞬のノイズと共に俺と双一が化け物に叩き潰される映像が流れ咄嗟に横に避ける。

その直後、さっき視えた映像通りに赤鬼は拳を握り振りかぶり打ち下ろす。

すると俺たちがいた床が爆音とともに砕け、それに伴う風圧に俺たちは軽く吹き飛ばされ、背中から壁に激突した。


「が、はっ」


叩きつきられた背中から激痛が走り顔を歪める。

痛みで涙目になりつつも手足を軽く動かす。

動かせることを確認しゆっくりと体を起こしちらりと階段のある方を見て、そして赤鬼が殴った床を見て驚愕した。

殴りつけた床は粉々になっており、下の階が見えている状態になっていたからだ。

いくら廃ビルで脆くなっているとはいえ、あの破壊力だ。まともに喰らったらそれこそ原型を保つことなく俺の体は肉塊になるだろう。


「……おっかしーな〜」


なんとか逃げる方法を模索しているとるなは先程までの子供らしい無邪気さが無くなり暗く冷たい視線をこちらに向ける。


「そっちの人はなんか勘とか偶然みたいなので避けられたのはわかったんだけど、お兄さんはるなのを"視て"から動いたよね?」


るなはポケットから棒付きキャンディーを取り出し口に入れる。


「視えてるってことは、るなたちと同じなんだよね」


ガリッゴリッとキャンディーを歯で噛み砕きながらこちらを睨みつける。


「めんどくさいなぁ。さっさと食べなかったるなも悪いけどホントめんどくさいなぁ」


足をダンダンと踏み鳴らす音がどんどん大きくなる。

ガシガシと頭をかき明らかに苛立っている。


「もうホントうざいうざいうざいうざいっ!!」


彼女の怒気があからさまに声音と態度で伝わってくる。

それと同時に赤鬼もこちらを向き前傾姿勢になる。


「そいつはるなの獲物なんだから横取りすんなやクソ野郎っ!!」


すっと俺を指差しるなが声を荒げる。


「あっきー、もうあいつら食べてっ!! 惨たらしくグチョグチョにね!!」


彼女の声を合図に赤鬼が咆哮しこちらに向かってきた。


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