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学び舎

結局いる、いないの問答をしているうちにいつの間にかあの謎生き物はいなくなっていた。

探そうとも考えたところでちょうどHR前を告げるチャイムが鳴ってしまい、俺はモヤッと気持ちのまま先生と動物たちの撫でてから生物準備室を出ていった。


「お、おはようさん。今日もギリギリだねぇ」

「したくてしてるわけじゃないけどな。あとおはよう」


席に着くと目の前の席にいる友人である瑚々無双一がにやにやと笑みを浮かべながら挨拶をしてくる。


「羨ましいよな。あの望月先生に目をかけられてさ。で、こんなギリギリになってんのは色々とヤッてるわけでしょ?」


いやらしい笑みを浮かべながら聞いてくるこいつに何も嫌な顔をしながら尋ね返す。瑚々無双一(ここなほういち)


「……何だよ色々って」

「そりゃもう色々ですよ。あのけしからんボディが目の前にあって何も無いとは言わせんぞ」


朝っぱらから面倒な絡み方をしてくるクラスメイトに俺は半眼になりため息を吐く。


「そんな甘いこと起こるならこんなテンションで教室に来るわけ無いだろ」

「ちぇっ。つまんねぇの」


まぁ、甘酸っぱい展開にはならないが時々ボディタッチとかあれこれ見えかけたり的なことはあったりしているがそこは黙っておこう。

どこで情報が漏れるとも限らないし、不必要な嫉妬と敵意をこれ以上買いたくはないからな。

ただでさえあの人の一件でいくらかの生徒から一時期恨まれたりもしたし。


「そういや知ってるか。ここ最近この街で変な噂があるって」

「噂? どうせお前が大好きな都市伝説のでたらめなやつだろ」


こいつはどこから仕入れてくるのか、噂や都市伝説やらのゴシップな情報に聡い。

まぁそれは本人の趣味みたいなものでもあるし、バイト先にも関係しているが今は語っても仕方ないことだが。


「まぁ聞けって。ここ近辺で行方不明者が続出してるらしいんだ」

「ふーん。ところで明日の天気についてだが」

「話終わらせんな。話、終わらせんな」

「もったいぶらずに簡潔に話せ」

「へいへい。調べたところじゃある奴らを見ると連れ去られるってやつらしいぜ」


キョロキョロと辺りを窺うようにして俺に顔を近づけると双一は小声になる。


「なんでもそいつらはあるものを探してるらしいんだ。めっちゃ奇抜な見た目の少女と2メートルくらいあるでっかいおっさんの二人組なんだけどよ。そいつらが聞くんだよ。「ヌエを知らないか?」ってさ」

「ヌエ? ヌエってなんだよ」

「日本に伝わる妖怪だよ。簡単に言えばゲームで言うところのキマイラとかそんなやつ」

「ふーん」

「んで、もし「知ってる」って言ったらあの世に連れて行かれて食べられるらしいぜ」

「……知らないって言ったら?」


最後の言葉で途端に胡散臭さが増したがまだ担任は来ないことだし、付き合って俺はそう聞いてみた。


「「嘘をつくな」って言ってでかいおっさんに紙くずみたいに握りつぶされるんだとさ」

「いや結局殺されんのかよ」

「不思議なのはさ、殺されたり連れ去られたやつの姿が発見されてないってところなんだよね」

「それってつい先日起きた警備員の消失事件のこと言ってる?」

「そうそうそれだよ。ってなんだ、白鐘も知ってるんじゃん」

「いや、それ今朝のニュースになってたやつだろ。神隠しがどうの〜ってやつ」


今朝の出がけに見たネットニュースで取り上げられており、巷では「怪異」としてネット上で色々と情報が交錯している。

やれ裏の組織だの、誘拐されたりなど。

その中でも某国が連れ去ったんだとかなんていう話までそりゃもう色々と。


「その手の情報、俺としては動かない訳にはいかないだよね」

「それでもしヤバい奴らに出会ったらどうするんだよ。会った時点でジ・エンドなんだろ?」

「へへっ。相手が人間である以上逃げるのなんて楽勝さ。俺の異名は知ってるだろ?」

「確か、ドブネズミだっけ?」

「最初に出てくるのがなんでそれ!?」

「いや、生き汚くどこにでもいるって意味で」

「『ラクーン』だ。言葉の意味は知らんけど響き的になんかカッコよくね?」

(あぁタヌキってことね)


タヌキはずる賢く死んだふりをしたりする生き物らしい。

それくらい生きるための執念を、と言いたいのだろうが殺されることが前提の噂話で果たしてそれは通用するものだろうかと思案したがちょうどチャイムが鳴ったため俺はあえて口には出さないでおいた。


「ほれ座れ。朝のHR始めるぞ」


俺たちの担任である鮫氷(39歳独身)は気だるそうな声とともに教室に入ってきたので生徒たちは各々自分の席に戻っていく。


「とにかく俺は今日から調査に出るつもりさ。なんか分かったら教えてやるからな」

「ま、期待せずに待ってるわ」


そんな言葉を最後に俺は鞄から1時間目に使う教科書などを出そうと開けた。


「げっ」

「なんだ白鐘。なんか言ったか?」

「あ、なんでもないっす」


開けた途端に変な声を上げてしまい鮫氷先生に話しかけられ愛想笑いで誤魔化した。


「お前、いつの間に」


鞄を再度開けて小声になる。

そこにはさっきいなくなっていな謎生き物が尻尾らしき突起をぴっこぴっこと揺らしてこちらをつぶらな瞳で見つめていた。


「……おとなしくしとけよ」


今更元の場所に返す訳にも行かないため、ため息をひとつ吐いた俺はそう伝えるとこちらの言葉を理解したのかコクコクとうなずいた。


俺はカバンを誰にも見られないようにゆっくりとチャックを閉めて授業に集中することにした。

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