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謎生物

「ちわーっす」


学校の3階1番奥にある一室。

普段は誰も近づかない生物室の部屋の鍵を開け、ひと声かけながら入室する。

教室を開け眼の前に広がるのは犬に猫、インコに何故か猪に猿とどこから連れてきたかわからないもので埋め尽くされており、俺が来たことを知るや全員が一斉に顔をこちらに向け座っていた体を起こす。


(今更ながらに学校側もよく許してるよな、この光景)


ーーーザザッ


俺自身がそう脳内でツッコんでいると、またノイズが走り視界がぼやける。


「キャンキャンッ」

「なーおっ」

「チチッ、チチチッ」

「キキッ、ウッキャー」


そのスキとばかりにこちらに気づいた動物たちが一斉に飛びかかってきた。


「うおっとっと。落ち着けお前ら。すぐに飯やるから」


飛びつき凛の顔を舐め回したり擦り寄る動物たちを冷静にひょいひょいといなし、躱してから奥にある棚を開けて皿と固形フードの袋を取り、皿にのせて床に置く。


「待て」


俺の言葉に動物たち全てがピタリと止まる。

中にはそわそわしているものやよだれを垂らしてか細い声をこちらに向ける。


「……よしっ」


しばらくしてからの俺の号令に我先にと飛びつきがっついていく。


「いやいや、君の調教レベルもまた上がったよねぇ」

「何言ってんですか。あと望月先生、ここで寝泊まりしてるなら餌くらい与えてくださいよ。毎回飛びつかれるこっちの身にもなってほしいんですから」

「ぬふふふっ。私よりも君があげたほうが動物たちが喜ぶもんでね」


ソファーで猫たちに囲まれ寝ているこの部屋の主である生物教師、望月先生が眠そうな目でこちらに微笑む。


「もういいですけど、顔、洗ってきてください。あと服はだけてますよ」

「おや失礼。発情期、もとい思春期のオトコのコには刺激があるかね? 普段世話になってるし少しくらい見てもいいんだぞ?」


彼女は豊満な胸をさらに強調させるように寄せて、悪戯な笑みを浮かべこちらに見せつける。


「アホ言ってないで早く支度してください。先生が遅刻とか体裁的にダメでしょ」

「淡白だなぁ。年頃の男の子ってのはもっと……うおっと」


俺は極力見ないようにして望月先生に声をかける。

そんな俺の反応がつまらないと先生が口を尖らせていると急に声を上げた。


「にゃー」

「これこれ、そこは君の寝床ではないというのに」


谷間から子猫がひょっこりと顔を出し喉を鳴らす。

そんな子猫に先生は愛おしげに撫でると甘えた声を上げた。


(う、羨ましいなちくしょー)


子猫にちょっぴり嫉妬してしまいそうになるが人としてここは我慢。

そして内心落ち着かせながらもまたちらりと先生(と谷間)を横目で見る。

普段は無愛想、塩対応なのだが気に入ったものや好きなことにはこうやって無邪気な対応をする。


(そういう意味では俺はお気に入りの一つになっているということか?)

「白鐘くん、この子達の餌やりが終わったら私の餌も頼むよ。お腹ペコペコなのだよ」

(あ、違うわ。この人俺のことただの便利なお世話係としか見てないわ)


分かってはいるし期待していたわけでもないが、なんとなくもやっとはする。


「……先生の飯はそこに置いてあるから勝手に食ってください」

「エクセレント。だから君は大好きだよ♪」

「だ―もう分かったからシャワー浴びてこい。獣くさいんですよっ」


テーブルの上に置いてあるレジ袋を指差すと先生は喜色満面で俺に抱きつき頬にキスをされた。

俺は慌てて先生を引き剥がしタオルを顔に押し付け距離をとると、先生はちぇーとむくれながらも外に出ていった。


「あーもう。だから困るんだよな」


先生が出ていったのを確認し、俺はソファに座り赤くなっているであろう顔を手で覆う。

便利屋だと思われていても俺も健全な男子高校生だ。

美人でスタイル抜群の女性に抱きつかれたりキスされればそれは反応してしまう。

先程の彼女の言葉通り、こっちは多感な一般高校生なのだ。

それが嬉しくもあり、同時に嫌になる自分にほとほと呆れるというか。

そんな悶々とした感情を鎮めようと深呼吸を何回かしていると、先程先生の谷間に入っていた子猫がひょいと膝の上に飛び乗ってきた。


「なぁ、どうしたらいいかな俺?」

「んにゃ?」


俺のポロッと出た愚痴に子猫は小首をかしげたが、勿論言葉など理解しておらずこてんとお腹を見せ撫でてとせがむ。

苦笑してお腹を撫でてやると気持ちよさそうにごろごろと喉を鳴らす子猫を見て癒やされ、乱れていた心が落ち着いてきた。


「……ん?」


ふとなにか違和感を感じ顔を上げると視界の端、部屋の隅に何かいた。

猫や子犬とも違う「何か」はもぞもぞと這うようにしてこちらに近付いてくる。


「なんだ、これ?」


足元まで来たそいつを見て疑問が口から漏れる。

ほんのり青みがかった白の体色ですべすべで楕円形なフォルム、出目金のように目が飛び出ており、黒目の部分は銀色に光り輝いており、尻尾らしきものがにょろりと生えている。

一見するとぬいぐるみのようなそいつは尻尾を使って跳ねるように近づいてくる。


「こんな生き物見たことねぇぞ」


脳内にある知識を総動員したがどれにも該当しない。


「また先生がどっかから拾ってきたか?」


望月先生は時折打ち捨てられている動物を保護し、ここに匿っている。

・・・・・・拾われてきた生物のほとんどは俺が世話しているのだが。

まぁ食べ物や備品などは彼女から後でいただいているし、生き物に触れ合うのは嫌いではないしで役得ではあるのであれこれ文句は言わないが。

そんなことはとりあえずさておきーーー


「てか近づいてくるけど襲ってきたりしない、よな?」


今更な感じではあるが警戒していると、ぴょいと俺の膝に飛び乗ると尻尾をピッコピッコと左右に振り、こちらをじっと期待した目で見つめている。

その姿は犬猫と変わらない、何かを催促しているようだ。

こちらがどうしたものかと考えていると謎生物は俺の手の平に潜り込むと頭(?)を動かし擦り寄せてきた。


「これはあれか? 撫でろってことか?」


俺の言葉を肯定しているのか、さっきよりも尻尾を振る速度が上がった。


「お前、俺の言葉が分かるのか?」


俺が驚いているとそいつは体を跳ねさせ膝を叩いてくる。


「わかったわかった。撫でてやるから」


そう言って撫でてやると、ぱっちり開いている目がとろんとして体重を預けコテンと寝転ぶ。

どうやら気持ち良さそうではあるようだ。

心なしか体も溶けてまるで某有名冒険ゲームの液体生物みたいだ。


「変なやつだな。お前どっから来たんだ?」

「ふぅ、私完・全・復・活っ!!」


しばらく謎の生物を撫でてやるとドアが勢いよく開かれ、さっぱりした顔をした先生が入ってきた。

まだ髪を乾かしていないのか雫が太陽光に照らされきらきらと光って飛び散っている。


「あーもうまだずぶ濡れじゃないですか。ちゃんと拭いてくださいよ。水飛沫があちこちに跳ねてますから!」

「洗ってきたから私は朝食をいただくぞいただきまーす」

「聞いてください人の話を!」


俺の言葉を無視して、眼の前に座る先生は早口で手を合わせ持ち込んだ食料を開け口いっぱいに頬張る。


「ふぁふぃふぁきふぃにふぁふぁふぇふふぉ」

「食べながら話さないでください、汚いですから。ったくもう」


そう言いつつ立ち上がり、奥にある棚からドライヤーを取り出し髪スイッチを入れる。

急に立ったものだから俺の膝でくつろいでいた謎生物は膝から転げ落ちる。

いきなりおとされたものだから抗議の意味を込めて俺の足元に体当たりをしてくるがダメージはなくとりあえず無視しておく。


「ふっふっふっ。本当に君は私のためによく働いてくれるよね。苦しゅうない」

「はいはい。もう何とでも言ってください」


もふもふと幸せそうに食べる先生にやれやれと首を振りつつ、温風を髪の隅々まであてるようにブラシをいれながら髪を乾かしていく。

時折見える先生の気持ちよさそうな顔を鏡越しで見ながら少し喜びを感じてしまうのはチョロすぎではと内心毒づく。


(この人は男の俺にここまでさせてなんとも思わんのかね。ついついやってしまう自分もどうかと思うが)


そんな行為をしばらく続け、ふと俺は先程の生物のことを思い出し、先生に尋ねてみた。


「そういえば先生、こいつどこで拾ってきたんです?」

「む? こいつとは?」

「俺の膝に乗ってるぬいぐるみみたいなやつですよ」


先程から俺の膝に戻ってゴロゴロ転がり回っている謎の生き物を指差す。

先生は俺の方に振り向き膝をじっと見る。


「どの事を言っておるのだ? 膝には誰もおらんぞ」

「いやいやこいつですよ。俺の膝でくつろいでるやつですって」

「……いや、やはり何もおらんぞ」

「え?」


もう一度膝にいる生物に目を向ける。

俺にははっきり見えるのに先生には見えないと言ったそいつは目を細め、ふんすと胸を張ったような感じに見えた。

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