日常
「ふぁぁぁっ」
寒さが身に沁みてきている冬の朝。
大きなあくびをすると白い息とともに眠気も少しだけ抜け……はしないがいくらかはマシになったような気はする。
「うぅ、さっぶ」
俺、白鐘凛は白い息を自身の手に吐きかけ暖め、マフラーを口まで覆うように直し寒さを紛らわせるために体を揺する。
ーーーザザッ
「……あー"また"か」
視界が一瞬ブレ、ノイズが走る。
俺にとってのいつもの感覚に、少しの不快感とともにため息を吐く。
「おっはよっ、白鐘!!」
「いっだ!?」
そんな憂鬱な背中を思いっきり叩かれ、痛みで声が漏れる。
「なにすんだよミク」
「背中丸まってたよ。図体でかいくせにそんな縮こまってどーすんのさ」
「うっせ。寒いの苦手なんだよ」
振り向いた先には栗色の髪をポニーテールにしてまとめており快活に笑う女子、猫宮ミクが今日も絡んでくる。
俺はヒリヒリと痛む背中を擦り恨めしい目を向けつつもミクと歩調を合わせながら歩き出す。
「お前今日部活は?」
「今日はグラウンドの練習無しだからちょっと遅めなの」
「なんでまた?」
「グラウンドが荒らされてたんだって。なんかそこらじゅう穴だらけだとか」
「なんだそりゃ」
ソフトボール部に所属してる彼女はかなり朝が早い。
だが今日はトラブルがあったようで俺と同じくらいの時間に登校できているということだ。
「白鐘は今日も飼育室? 毎日世話してて立派だねぇ」
「だからバシバシ背中を叩くなっていてぇから」
俺は特に部活には所属していないが、うちの学校には動物を飼育している一室があり、そこには多種の動物が飼われている。
元々動物が好きな俺はそこの存在を知ってから足繁く通っていたりする。
「通う理由は動物に会いに、もそうだけど他にもあるんでしょ?」
「他って?」
「隠さなくったっていいって。ミクさんは何でもお見通しなんだから」
「いってぇぇぇぇっ!!」
あははっと笑いまた背中をおもいっきり叩く。
それこそバッターのフルスイングの如く腰が入ったいい一撃だった。
何度もこう叩かれると背中がヒリヒリしてくる。
「それじゃあたしは先に行くねぇ。バイにゃ〜」
ミクはそう言ってケラケラ笑いながら手を振り、振り返ることせず駆け出していった。
「……朝からほんと元気なやつだな」
俺はボソリと呟き、痛む背中に苦笑しつついつものようにゆっくりと歩を進めようとしてーーー
ーーーザザッ!!!
「っ!?」
「わぶっ」
先程のミクとは全く異質のノイズだらけの視界に総毛立ち、おもわず立ち止まってしまうとその拍子に背中に誰かがぶつかった衝撃を感じた。
後ろを振り向くと少女が尻もちをついていた。
おそらく先程の声の主だろうか。
赤と青がちょうど真ん中で半々に分かれており、それをツインテールにしてまとめているかなり小柄な女の子だった。
「イタタタっ」
「あ、あぁ悪い。立てるか?」
少女の声にはっと我に返り俺は謝罪とともに手を差し出した。
少女は1度俺の手と俺自身を交互に見たあと、ゆっくり手を出したのでその手を引いて起こしてあげた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
助け起こされた少女は屈託のない笑顔で感謝された。
「いや、俺も道の真ん中で立ち止まってたからな。怪我はないか?」
目線を合わせるように屈んで微笑み返す。
(しかし、改めて見るとだいぶ小さいな)
細身な低身長に小学生だと思うが、この近くには学校はないはずだし、何よりこの見た目ならどこかで見たことがあるはずだろう。
「ううん大丈夫。あっ、いっけない。もう行かないと間に合わないや。バイバイ、お兄ちゃん」
「あ、待って。せめて怪我があったら手当だけでも・・・・・・あれ?」
手をひらひらと振って少女はお別れの挨拶をすると俺の横を走っていった。
怪我をしたかもしれないと声をかけようと思い振り返るが既に女の子の姿はなかった。
「あれ? どこ行った?」
辺りを見回したが彼女の姿はどこにも無かった。
「・・・・・んー、ま、いいか」
数秒考えたが俺には関係ないかとすぐに思考を切りかえ、再び学校へと足を運んだ。
ーーーーーーーーーー
「あいつ」の気配が微弱ながら感じ取りながらあたしは通学路を歩いていた。
探るのはあたしは得意じゃない。
神経を使うし、その割には成果もあまり得られない。
そしてなによりお腹がすぐ減るからイライラする。
「あー、もうっ」
あたしはポケットから棒付きキャンディを取り出し口に含む。
甘い味が口の中に広がり、美味しさとともにほんの少しだけどイライラが収っていく感じがする。
昂り出した感情が静まったのを自覚してからスマホを取りだし電話をかける。
「ねぇ、もうここら辺は探したけど気配ないんだけど」
『ふむ。ではポイントを変えてみることにしよう。これから朝食を兼ねて合流しよう』
「はいはーい。もちろんおっちゃんの奢りだからね」
『ふふっ、分かった。では』
ブツっと切れるのを確認してからあたしはスマホをポケットにしまい彼との待ち合わせ場所へと向かう……と思いつつ後ろを振り向く。
「あのお兄さん、なーんか引っかかるけど……ま、いっか」
さっきぶつかったあの人。
探知で少しイラついてたあたしの気配に気づいたのにあえて避けなかったあえて避けなかったように感じたけど。
「ま、気のせいよね」
一瞬モヤッとしたものは残りつつ、お腹も鳴ったので気持ちを切り替えて朝食は何かなと思いを馳せながら小走りでかけていった。




