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予感

「ねぇ、ホントにいないの?」

「よほど隠れるのが上手いようだ。どうやらもうここにはいないようだ」


新月の夜、それでも繁華街の煌々とした灯りで昼間のように明るい街並みをビルの屋上から見下ろしている影が二つ。

一つは幼い子供のように小さく、もう一つは2メートルを超える大型。

子供のほうが小さいからか、より彼の大きさが際立っている。


「死にぞこないのくせにボクらから逃げれるとかむっかつくよなぁ」

「死にぞこないだからこそ、だ。やつは強者であり弱者でもあるからな」


ビルの縁に座り、両手両足をバタバタとさせて体全体で苛立ちを表現する子供の影に大型の影は宥めるように頭をポンポンと叩く。

子供の影はフンッと鼻息一つ鳴らし大型の影の手をペシッとはたき頭からどかす。


「関係ないねっ。捕まえて食べるだけさ」

「侮るな。今は手負いで動けぬだけで本来のやつならば」

「なら尚更でしょ。あいつを食べたら今度こそ近づけるよね?」

「・・・・・・それは間違いないだろう。なぜなら奴はーーー」


大型の影の言葉の途中で屋上のドアがバンっと勢いよく開かれた。


「貴様ら、ここで何をしている!!」


二人が振り向くとそこには中年と、まだ年若い二人の制服を着た男たちが険しい顔をしてこちらを威嚇している。

身なりからしてどうやらこの施設の警備員であろう。


「このビルで不振な人影があると通報を受けたんだが。お前たちはどうやってここに侵入した?」

「あ"ー?」

「・・・・・・」


中年の警備員に話しかけられても二人の影は各々面倒そうにし返答はしない。


「とりあえずこちらに来てもらおうか。場合によっては警察に連絡して引き渡すことになりますからね」


若い警備員が話しかけるも二人はいかにも面倒そうな顔をする。


「はー、うっざ」

「······悪いことは言わない。命が惜しいのなら見なかったことにして自分の仕事場に戻れ」


警備員たちの警告にも怯むことなく、むしろ苛立ちを募らせた声音の小さい影はため息を吐き、大型の影は彼らに去るように忠告する。


「何を言ってるんだこいつら。とにかくこちらに来ない」

「あーもううざいうざいうざいっ。「喰べ」てもいいよね、もう?」

「警告はした。好きにしろ」

「やった♪」

「わけをわからんことを言ってないで抵抗をせずこっちの言うことをーーー」


中年の警備員の声は途中で途切れた。

後ろにいた警備員は何が起こっているのか分からずただ呆然と眺めるだけだった。

なぜなら先程まで声をかけていた中年の警備員は空中に浮かび固定されたように動けずにいたからだ。


「な、なんだこれはっ。う、動けな……ぐわぁぁぁぁっ!?」


中年の警備員は必死に抵抗しもがいているがびくともせず、そして急に悲鳴を上げ始めた。

彼の体が押しつぶされるようにひしゃげ始め、骨が砕ける音を響かせ、そしてついには上半身が虚空に消えて下半身のみが残った。

中空に残っているのは中年の警備員らしき下半身のみで、切れ目からはぼとぼとと赤黒い液体がこぼれ落ちる。

そしてその下半身もすぐに虚空に消え、残ったのは赤い水溜りのみになった。


「はー、スッキリした」

「おさまったか?」

「うん。おかげで頭も冷えた。それじゃ探索続けよっかな」


大型の影が小さい影に話しかける。

先程までの殺気だった気配は無くなりさっぱりした笑顔でうなずいた。

その表情は見た目相応の無邪気さがあった。


「んじゃさきに行ってるねぇ♪」


小さい影はそう言うと立ち上がりビルの屋上から躊躇せず飛び降りていった。

大型の影はふうとため息を吐き再度後ろを振り向く。

振り向いた先にはガタガタと震える若い警備員と赤い水溜り。


「お、お願いだ。殺さないで」

「喰い残しをされるとこちらも困るのだがな」


すっと手を若い警備員の前に突き出した。


「運が悪かったなボウヤ。だが、目撃者を生かしておくと」


そう言って手を握りこんだ。

そして大型の影は小さい影を追うように自身も屋上から飛び降りていった。

屋上は最初から誰も居なかったかのように何も残らず、風だけがそこに吹き込むだけであった。


ーーーーーーーーーー


「はぁ、はぁ、はぁ」


奴から逃げ回り、命からがらなんとか撒くことに成功はしたものの、私もだいぶ体力を消費してしまった。

体を構成するチカラも元に戻すには相当な時間とエネルギーがいる。

だが、それはすぐにどうこうは出来ない。


「ひとまず、一時とはいえ体を休める場所が必要だ」


痛む体を引きずりながらも、私はある場所へと向かう。

この町へ来た時から感じる異質な存在を感じるあの場所なら、ひとまずは姿を隠せる時間くらいはあるだろうと。

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