6話 夏の思い出1
残念ながら、高校生になった今も俺の能力に変化は見られない。
でも諦めるにはまだ早い。
俺の百七十センチに満たない身長のように大器晩成――なのかもしれない。
生きているだけで、実にたくさんの人と出会う。
出会った人の数だけ俺はLPを見てきた。
そのおかげで、能力に変化はなくとも質を上げることはできた。
具体的に言えば、LPを見ればおおよその寿命が分かるようになった。
なぜ俺にこんな力が与えられたのかは、未だに分からない。
ただ、寿命が見えることが役に立ったことがあった。
中学三年の六月、受験生の俺たちは遊びたいという強烈な欲望を必死で抑え込みながら、
毎日勉強に励んでいた。
家に帰っても勉強かと心の中で文句を言いながら、涼介と杏奈の三人で下校していた時だった。
「毎日毎日勉強で嫌になっちゃうよねー」
杏奈が小石を蹴りながら文句を垂れる。俺は杏奈に同意を示した。
「まったくだ。どれだけ公式覚えたって、大人になったらこれっぽっちも使わないだろうによ」
「二人ともそんなに勉強時間増やしてるの? この時期から増やすなんて偉いね。
僕なんか今までとほとんど変わらないよ。さすがにまずいかな?」
苦笑いを浮かべた涼介は、俺と杏奈を交互に見つめた。
「なんだよ涼介、嫌みか。頭いいやつは勉強しなくてもできるからいいよなー」
涼介は学年で三本の指に入るほど頭がいい。もちろんトップになったこともある。
それに加えて運動神経もバツグンだ。
そのセンスの良さが他の子たちの目に留まらないはずもなく、同級生や先輩、さらには顧問の先生からも部活への勧誘を受けていたが、涼介はすべてをことごとく断っていた。
当然、女の子たちも涼介を放ってはおかない。顔良し、頭良し、運動よし。
三拍子揃った王子様を手中に収めんと、数多の女子が告白しているのだが、
涼介はこれもまたすべて断っていた。
なぜそこまで頑なに断るのか、何一つ冴えない俺としてはまったく理解できない。
「そんなつもりじゃ……」
困り顔の涼介に杏奈が追い打ちをかける。
「そうそう。涼ちゃんはいいよねー。神様に贔屓してもらって。世の中不平等だ!」
「杏奈ちゃんまで……。二人して僕をいじめないでよ」
「いじめてねーよ。つーか、先に吹っ掛けてきたのは涼介の方だろ」
涼介は降参だとばかりに両手を挙げる。
「はいはい、僕が悪かったよ。ごめんなさい」
三人で笑った。
俺はこの時間が好きだ。
何を言えば笑ってくれるかと考え、冗談を言い合って笑う度に信頼と友情を共有し、
俺たちは親友なんだと実感する。
傍から見れば何の変哲もない、他愛もない時間だ。
でも俺にとってはこれこそが、かけがえのない大切な一時なのだ。
「つかぬ事を伺いますが」
今までと打って変わり、硬い口調で杏奈が口を開いた。
「どうしたの?」
驚いた涼介が目を丸くさせている。
「なんだよ急に畏まって。社会人の予習か?」
俺が茶化すと、杏奈はニヤッと不敵な笑みを浮かべる。
「土曜日、二人は暇?」
「俺は特に何も。いつも通り、だらだら勉強しようかと思ってたところだし」
「僕も予定はないよ」
俺と涼介の予定が空いていることを確認した杏奈は、目を輝かせながら詰め寄ってきた。
「じゃあさ、土曜日はうちに来て三人で勉強しようよ! たまには気分転換にいいでしょ?」
「おっ、それいい。杏奈、たまにはいいこと言うねー」
「『たまに』は余計ですー」
「確かに名案だね。環境を変えて三人で楽しくやった方が、その分吸収も良くなるだろうし。
杏奈ちゃんが良ければ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
杏奈が嬉しそうにこくこくと頷いた。
「これで決まりだね。土曜日のお昼、一時にわたしの家に集合ってことで」




