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Life Point  作者: 青野 乃蒼


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最終話 静かな祈り


涼介と杏奈に用事が済んだと連絡して二人を呼び寄せた。

カフェに来るなり杏奈は「遅い!」と不満を口にした。


大切な友達を長々と連れ回してごめんね。でもこれには深い理由がありまして――。


その深い深い理由を俺はあまり話したくなかったのだが、顔に出た疲労感を隠すことができず、杏奈に追及されてしまい話さざるを得なくなってしまった。


このままカフェで話し出すと帰りが遅くなってしまうからと、白鳥が助け舟を出してくれたおかげで、今こうして駅へ向かいながらストーカー事件の全容を話している。


といっても説明は白鳥が引き受けてくれて、俺はたまに振り向けられる質問に答えるだけでよかった。

正直疲れ過ぎていて、白鳥がどう説明しているのかほとんど聞いていない。それでも、話を聞いている杏奈の口から「おぉ!」とか「えぇ⁉」とオーバーリアクション気味な声が耳に入ってきていて、きっと白鳥が紙芝居でも読み聞かせるように、上手に語っているのだろうなと思った。


その白鳥のLPは、今朝から変わることなく光をほぼ失った状態のままだった。

それもそのはず、俺の勘は見事に外れ、フード男は白鳥パパだったのだから。元々、フード男が白鳥を襲うという運命はなかったということだ。


では白鳥は一体いつ――。今日の夜か、それとも明日の朝か。


そう考えると、今日一晩は白鳥と共に過ごす必要がある。突発的な病気の可能性を考慮すれば、どちらかの実家よりも、病院が近いホテルとかがベストかもしれない。

そうなれば、まず白鳥に説明してそれから……。


「あれ、見て」


隣にいる涼介が俺の肩を揺すった。三人は一様に後ろを見ている。

何事かと俺も振り返り、涼介が指し示す指の先を見た。


五十メートルほど後方に一台のトラックが走っている。一見普通のトラックに見えたが、様子がおかしい。車体は右に左に不規則な動きをし、前方左側のバンパーは何かにぶつかったかのように(ひしゃ)げている。


なぜ三人は後ろを走っているこのトラックに気付いたのだろうか。それを訊こうと口を開いた時だった。


「ピーーーーーーーー!」


突然、そのトラックからクラクションがけたたましく鳴り響いた。

それは狂ったように鳴り続け、一向に鳴り止む気配がない。


絶対におかしい。何かあったに違いない。


嫌な予感がして、またしても心拍が上昇していく。不安が全身を駆け巡っていく。


トラックは蛇行しながらも、あっという間に近付いてきた。

危険なのは分かる。だが、こういう時はどう動くのが適切なのか。

この場に留まりじっとしておくか、それとも逃げるか――。

逃げるなら、トラックの進行方向に逃げるか、それとも逆か――。


こんな経験のない出来事を判断するには、時間があまりにも短すぎた。


ガシャーーンッ!


トラックは俺たちの目の前で急に進路を変え、縁石を乗り越えガードレールを突き破った。

まるでスローモーションのように、ゆっくりと、トラックが宙に浮いたまま、こちらに向かってくる。

光の加減で、フロントガラスの先――運転席がくっきりと見えた。運転手はハンドルに突っ伏している。


――ヤバい、死ぬ。


俺は反転して走り出す。目の前には白鳥の後ろ姿。

俺と同じようなタイミングで走り出したであろう近距離に、彼女はいた。


ただ、時すでに遅し。走り出したのも束の間。トラックは俺の目と鼻の先に来ていた。

その瞬間、頭が真っ白になった。


ただ、これまでのように焦って何も思いつかないという感じではなかった。

意識はしっかりとしていて、穏やかで、凪いでいる。波紋一つない、静謐な水面が広がっている。そんな感覚だった。


周りの音は何も聞こえない。

でも視界は良好、白鳥の走る姿がはっきりと、少しゆっくり目に見えている。


俺の手は白鳥の背中を捉え、そして力強く前方へと押し出した。


そうしたいと思ったわけではなかった。そうしなければならないと駆り立てられたわけでもなかった。

何の感情も抱くことなく、無意識に、俺の手は動き、白鳥の背を押したのだった。


まるで映画のワンシーンを見ているような感覚だった。


白鳥が俺の手によって前方へ大きく弾かれたその瞬間、白鳥のLPは変化しだした。

ぐんぐんとゲージが伸びていく。色が赤から橙に変わった。それでも伸びは止まらない。

やがて橙から緑に変化し、四分の三まで伸びたところでようやく止まった。


白鳥の寿命が変わった。俺は白鳥の寿命を変えることができたのだ。



俺は理解した。神様はこの日のために、この力を与えてくれたのだ。

白鳥の運命を変えるために、命を救うために。


長年求め続けてきた、この力の意味。

それは愛する人の命を守るためだったのだ。



白鳥がこちらを振り向く。愕然とした表情を浮かべながら、俺に手を伸ばす。

当然、俺には届かない。


俺は満ち足りていた。でも心残りはある。


彼女にもっと素敵な告白をするという約束を守れなかったことと、彼女の隣に居られなくなること。

でもこれは俺でなくていいのだ。むしろ、俺よりもっと優秀で魅力的な、彼女に相応しい男に託すことにしよう。その方が、白鳥も幸せなはずだ。


俺は遠ざかっていく白鳥の目を見つめる。

その綺麗な目に向かって、笑いかけた。


俺は君が好きだ。君を守ることができて幸せだ。そう伝わるように。


白鳥の姿を最後に、俺のスクリーンは真っ暗になり何も見えなくなった。


ちゃんと笑えていただろうか。伝わっただろうか。

でも、届いているといいな。


俺は静かに祈った。


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