56話 茶番劇
「改めまして、白鳥パパでぇーす」
作戦会議をした例のカフェで、フード男改め白鳥パパが軽い口調で自己紹介する。
あの後、一気に気が抜けて放心状態となった俺は、白鳥の手によって立ち上がらせられ、「後でちゃんと説明しますから」と言われて、このカフェまで連れてこられたのだった。
今は運ばれてきたコーヒーを何口か啜って、ようやく落ち着いてきたところだ。
「本当にごめんなさい!」
白鳥が机に頭をぶつけそうな勢いで頭を下げる。
しかし、ストーカーのフード男がまさか白鳥の親父だったとは。とんだ茶番だ。
白鳥曰く、白鳥パパは極度の親バカらしく、よくこうして娘の後を付けているらしい。ただ、今回のようないかにも怪しい格好は初めてだったようで、気付かなかったそうだ。
ちなみに俺が刃物だと思っていたものは、ただのデジカメだった。白鳥をストーキング――もとい、見守る時は、娘の可愛い瞬間を写真に収めるべく、常に持ち歩いているらしい。
つまりこの茶番は、自らの勘違いにより膨張させてしまった面もあるのだ。
「頭上げろよ。何はともあれ、お互い死なずに済んだんだからさ、水に流そうぜ」
「うんうん、赤崎くんいいこと言うねぇ。私もそう思っていたところだよ。怜ちゃんが謝ることなんてないさ」
その言葉を聞いた白鳥は、今まで見たことのない険悪な表情で、白鳥パパを睨め上げる。
「そうだよ、私じゃなくて犯人であるあんたが謝りなさいよ。ていうかうざい、黙れ。謝罪以外口にしないで」
白鳥が、今までに聞いたことのない口調で、白鳥パパを口汚く罵っている。
それを受けて白鳥パパは、なぜか嗜好品を堪能しているかのような恍惚とした表情を浮かべている。
「んー、いつも通り冷たいねぇ。パパ失禁しちゃいそうだよぉ」
うん。なんか、ヤバい。見てはいけないものを見てしまった気がする。それに、よくこの親父の元で、白鳥のような素晴らしい人間が育ったものだと思う。鳶が鷹を生むとはまさにこのことか。
「ま、まぁ、ホント、無事で良かったよ。でも、もう今日は動ける気がしないな」
今は恐怖ではなく、疲労に体を支配されていた。
フード男に付けられていると気付いてからは気を張りっぱなしだったし、自分の勘違いだったとはいえ、命のやり取りもした。そうして限界まで蓄積されていた疲労が、フード男の正体が善良な一般人である白鳥パパだと解明されたことによって、緊張感の解放とともに一気になだれ込んできたのだ。
「あなたがそう言うなら、私も少し気が楽になります。疲れさせてしまってすみません。私も少し疲れたので、そろそろ帰りましょうか」
白鳥の表情が平らかになる。
「怜ちゃんも赤崎くんも帰るのかい? だったらパパが送っていってあげるよ」
俺は背筋がゾクッとした。この親子と同じ空間にいては休まるものも休まらない。
どう断ろうかと考えていると、白鳥が先に言い放った。
「私たちのことはいいから先に帰って。これ以上邪魔するなら、お母さんに言いつけるから」
白鳥パパの表情がデレデレから一転、しおしおになった。
「分かった、先に帰ります。気を付けて帰るんだよ。赤崎くんもね。今日はありがとう」
白鳥家の権力図がはっきりと見えて、白鳥パパが少し哀れに思えた。
なんかよく分かんないけど、頑張れ、白鳥パパ。
最後は普通だった白鳥パパを見送った後、俺と白鳥は顔を見合わせる。
「じゃぁ、帰るか」




