表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Life Point  作者: 青野 乃蒼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/57

55話 命懸け


俺と白鳥は作戦を実行するためカフェを出た。わずかな緊張感が身を引き締める。

しばらく一階をぶらついていると、どこから現れたのか、いつの間にかフード男が後を付けてきていた。


作戦開始だ。

一気に緊張感が高まる。脈が早まり、手にはじんわりと汗をかいている。

白鳥にアイコンタクトし、目的地へと向かう。


目的地は、メインストリートと並行に走る店裏にある小道だ。

この小道は各フロアの片側だけにあり、おそらく従業員の出入口用に設けられているものと思われる。一般客にも公開されている道なので通っても良いが、メインストリートに繋がる両端以外は一面壁となっており、この道から直接各店に入ることはできないため、人通りはほぼない。


この小道にフード男を誘導し、死角に隠れた俺が意表をついて襲撃、上手くいけばそのまま捕獲、俺が倒された時は白鳥が警察に通報しつつ大声でメインストリートに逃げる。というのが俺の作戦だ。


小道に繋がる曲がり角に差し掛かる。ここを曲がればもう後戻りはできない。

大きく息を吐き、集中を高める。


先に白鳥を行かせ、俺はフード男との距離を確認するために背後に目をやった。


これまでと変わらない、少し離れたところにフード男はいた。

当然、こちらに歩いてきている。


距離は掴めた。後はやるだけだ。

覚悟を決め、曲がり角を左に曲がる。


曲がって壁に視界が遮られる寸前だった。

ズボンのポケットに突っ込んでいたフード男の右手が僅かに動き、手に持っている何かが照明か何かの光を反射して、メタリックに輝いた。


輝きが目に入ってよくは見えなかった。でもそれは確かに、銀色に輝いていた。


――刃物。


そのイメージが頭に浮かんだ途端、頭が真っ白になり、その場に立ち尽くしてしまう。

さすがに刃物持参までは想定していなかった。でも、人が死ぬ、人を殺すとはそういうことだ。


殺される。


一瞬にして全身が恐怖に支配された。心臓は早鐘を打ち、警鐘のように大きな拍動音が体内に鳴り響く。呼吸はどんどん浅く、早くなっていき、手の先足の先から血の気が失せていく。代わりに冷たい汗が滂沱のごとく噴き出してくる。


ヤバい、ヤバい、死ぬ、殺される、どうしよう、ヤバい――。


「ちょっと、どうしたんですか? ねぇ、赤崎くん。赤崎くん!」


俺が一向に来ないからか、白鳥が俺を呼んでいる。

白鳥はすぐそこにいるのに、声は遠い山の向こうから聞こえてくるような感覚だった。


俺の考えが甘かったのだ。意表さえ突けば何とかなると思った自分が愚かだったのだ。

白鳥は正しかった。危険だと忠告していた。丸腰の俺は死ぬかもしれないと――。


逃げなければ。もっと遠くに白鳥を逃がさなければ。

そう思うのに、恐怖で雁字搦めにされた足は、一ミリも動いてくれない。


白鳥、逃げろ。殺されるぞ。


そう言ったはずの口は、水中で喘ぐ魚のようにただパクパクと動くだけで、微かに空気が漏れ出るだけだった。


時間は無情にも過ぎていく。フード男が近付いてくる。

あの距離からして、もうすぐそこまで来ているはず……。


背後で微かに音がした。早鐘を打っていた心臓が一瞬静止する。


もう終わりだ。


そう思った瞬間、白鳥が俺の手を掴み、小道まで引っ張っていった。

恐怖に制圧され俺の指令では動かなかった体は、白鳥によっていとも簡単にあっさりと再稼働した。


「急にどうしたんですか⁉ 顔が真っ青ですよ。何かあったんですか?」


たった今白鳥に救われた、この命。たとえここで失おうとも、絶対に白鳥だけは死なせない。

俺は白鳥の心配を無視して、願うように言い放つ。


「逃げろ、逃げるんだ。もう奴はすぐそこに来てる。早く!」


俺は白鳥の背中を思いきり押して送り出し、すぐに目を離して臨戦態勢に入った。

メインストリートからは死角となる小道の店側の壁に身を潜め、息を殺して気配を探る。


少しして、靴が床を叩く音と衣擦れ音が耳に入った。その微かな音は、ゆっくりと、しかし確実に近付いてくる。


俺は腰を落とし、ゆっくりと息を吐いていく。恐怖はまだ全身に纏わりついている。

でも覚悟はできている。


ついに、待ち伏せていた俺の視界に人影が写った。

黒のパンツ、ミリタリー柄の服。間違いなくフード男だ。


俺はフード男と特定した瞬間、神風特攻隊のごとく奴の膝下目掛けて突進した。


「おぉっ、うわぁ!」


フード男は何とも情けない間抜けな声を上げた後、勢いよく前のめりで倒れてくる。

俺は素早くステップを踏んでそれを避けた。


フード男はそのまま床に倒れ込んだ。その拍子に掛けていたサングラスが吹っ飛び、顔が露わになる。

俺は透かさず馬乗りになって、投げ出されている両手を掴み、後ろ手にして縛り付けた。

フード男は痛みに悶えるので精いっぱいなのか、一切抵抗しない。


その隙に俺は顔を上げる。顔の先は白鳥が逃げていった方向だ。

もしかしたらもう白鳥はいないかもしれないと思っていたのだが、意外と近くに白鳥は立っていた。


「し、白鳥! 通報だ。今のうちに早く!」


白鳥は俺の声が聞こえていないかのように無反応で、ただ一点フード男の顔だけを見つめている。

そしてあろうことか、白鳥はゆっくりとこちらに近付いてきた。


「何やってるんだ、白鳥! 危ないから近付くな! 早く警察に通報しろ」


これも無視した白鳥は近付き続け、突然ピタと足を止めた。食い入るように見つめた後、未確認生物でも発見したかのような唖然とした表情を浮かべる。


「お父さん⁉」


俺は白鳥の口から発された言葉が、この状況とあまりにもそぐわず理解ができなかった。

白鳥の声に反応するように、フード男はのっそりと顔を上げる。


「そうだよ、怜ちゃん。パパだよ」


俺はもう訳が分からなくなり、再び頭が真っ白になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ