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Life Point  作者: 青野 乃蒼


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54話 好きだからに決まってんだろうが!


俺と白鳥は一階に降りて、近くにあったカフェに入った。偶然にも奥の席が空いていたので、その席に座ることにした。

カフェオレを二つ注文し店員が下がっていった後、白鳥が真顔で訊いてきた。


「大事な話とは何なのですか?」


俺は周囲を見渡しフード男がいないことを確認した後、他の客に聞こえないよう小声で答える。


「四十代ぐらいのおっさんに付けられてる。多分ストーカーだ、お前のな」

「え? ストーカー? なぜ私を? 何のために?」


白鳥は愕然とした表情で、ひとりごちるように疑問を口にする。


「奴の目的は分からんが、昨日今日の出来心でやってるわけじゃないことは確かだと思う」

「それはなぜですか? なぜそのようなことが分かるのです?」

「俺はあの男を文化祭で見ている」

「文化祭……」


俺は続けて、このカフェに入ることとなった経緯を説明した。

それを聞いた白鳥は納得の表情を浮かべる。


「それで私を連れて三階に移動したのですね。家具に興味の無さそうなあなたが下見したいなどと言うので、怪しいと思っていたんです」

「騙して悪かったと思ってるよ」

「いえ、謝る必要はありません。噓も方便と言うでしょう。誰も傷つかない嘘を、私は悪だと思いません」


白鳥は本当だというように微笑んで、カフェオレを一口飲んだ。


「ストーカーがいることは理解しましたが、これからどうするのですか?」


問題はそこなのだ。警察に突き出そうにも、確たる証拠が無ければまともに取り合ってくれないだろう。ストーキングされている事実をどう証明するか。


「現行犯で捕獲する」


他の客が大勢いるはずなのに、一瞬時が止まったかのような沈黙が訪れた。

白鳥は呆然としている。


「何を言っているのですか? そんなことできるわけないでしょ。それに危険すぎます」

「相手はおっさんだし、体格もそんなにデカくない。大丈夫だ。俺に策がある」


白鳥はさらに呆れた顔で食い下がる。


「人を見た目で判断するのは良くないです。あなたの策がどんなものか知りませんが、もしその人に武道の経験があったらどうするのですか? いくらあなたが若くても、武道経験者ならあなたなんて一捻りですよ」


白鳥の言う通りだ。俺には武道の経験はない。だから相手が柔道の達人とかだったら多分瞬殺だ。

でもこの策なら、たとえ俺が捻られてもフード男を確実に警察に突き出せる、と俺は考えていた。


「聞いてくれ、白鳥。俺の策はこうだ――」


俺は秘策を説明した。それを聞いてもなお白鳥は納得してくれなかった。

なかなか折れてくれない白鳥に、俺は苛立っていた。


「意表を突くというのは良いと思いますが、結局あなたの安全は何一つ保障されていません」

「でもお前の安全は保障されてると言っていい。それでいいだろ。何が不満なんだよ」

「あなたは場合によっては死ぬかもしれないんですよ? それを分かっていて、『はい、そうしましょう』なんて軽々しく言えるわけないじゃないですか。あなたは命を何だと思っているんですか? なぜ私のためにそこまでするんです?」


俺はもう我慢できなくなった。

火山が噴火しマグマが噴き出すように、自分で自分を制御することができなかった。


「お前が好きだからに決まってんだろうが!」


白鳥は雷にでも打たれたかのように背筋を直立させ、目をこれでもかと見開く。


「大切な人だから生きてほしいんだ、救いたいんだ。愛する人の命を守るために自らの命を懸けることの何が悪い。命を軽く見る奴が、他人のために自分の命なんて懸けれるわけねーだろうが。頭いいくせにそんなことも分かんねーのかよ、お前は!」


白鳥は俺から目を逸らし、俯いて押し黙る。


マグマを噴き出しきった俺は、怒りが静まり落ち着きを取り戻してくる。

それと同時に周囲の視界も戻ってきて、周りの目を集めていることに気付いた。


ここがカフェだということを思い出して居たたまれなくなったが、それを表に出すと情けない気がして努めて堂々とした。


「……すみませんでした」


蚊の鳴くような小さな声だった。


「そこまで考えが至りませんでした……。あなたを、信じます。ただ……」


白鳥は顔を上げる。でも俺を見ようとはしない。頬は少し赤らんでいる。


「できればもう少し、素敵な告白が良かったです……」


そうだった。つい怒りの勢いで好きだと言ってしまった。

自分でも好きかどうか確証が持てていなかったというのに……。


でもきっと彼女のことが好きなのだろう。こういう場で堂々と好きだと宣言したのだから。

小恥ずかしいが、口から出た言葉は取り消せないし、誤魔化しも効かない。


俺は観念のため息を一つこぼす。


「るっせーよ。お前の寿命を変えられたら、幾らでも言ってやる」

「期待、していますね」


そう言って微笑む彼女の笑顔に陰りがあることを、俺は見逃さなかった。


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