53話 標的探し
会話が途切れたところで、再びフード男に思考を戻す。
今、杏奈と白鳥は店内にいて、俺と涼介はソファに座っている。
それぞれが一定の場所に留まっている間、フード男はどこから監視しているのだろうか。
周りを確認しようと思ったが、落ち着きなく首を振っていたら、今度こそ涼介に疑われかねない。
そう思い断念したのだが、代わりにある考えが浮かんだ。
この状況と同じように二手に分かれたらいいのだ。そうすれば、フード男はどちらかに付いてくるし、ストーカー対象が誰なのかも特定しやすくなる。
後はどのペアで決行するかだが、万が一を考えると男女混合が良いだろう。
待ち合わせの時から監視されていた可能性を考慮すると、俺と白鳥、涼介と杏奈のペアが最も自然だ。
女子二人組が戻ってきたタイミングで、俺は開口一番に提案する。
「白鳥にちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど」
白鳥は「私?」と言わんばかりにきょとんとした表情を浮かべながらも、「えぇ、構いませんけど」と了承してくれた。
「その間悪いけど、二人で適当にぶらついててくれないか? すぐ戻ってくるからさ」
「分かった。用事が済んだら連絡して」
そう言って涼介は、スマホが入っているであろうズボンのポケットをトントンと叩いた。
杏奈はむすっとした表情を浮かべて、何も言わなかった。白鳥を取られるのがそんなに嫌なのだろうか。
とりあえず涼介は了承してくれたので、作成通り俺と白鳥、涼介と杏奈で二手に分かれることに成功した。
念には念を入れよということで、俺は三階にフロアを移した。ここまでしてもなおこちらに付きまとってくれば、間違いなくストーカーだ。警察への通報も視野に入れた方が良いだろう。
「何の用事なんですか? 私は何をすれば良いのでしょう?」
白鳥が当然の質問を投げかけてきた。俺は予め用意していた苦しめの言い訳をした。
「親が家具を新調したいって言ってたから下見でもしてあげようと思ってな。ただ、俺には良し悪しが分かんないから、金持ちのお嬢様にご教授いただこうと思いまして」
こんな言い訳しかできないのには、このモールのフロア構成に原因がある。
一、二階はファッションや雑貨が中心なのに対し、三、四階は家具が中心なのだ。そのため、一、二階に比べて三、四階は人が少ない。
人が少ない方がフード男を見つけやすいと考え三階に移動したのだが、俺にとっては諸刃の剣だった。
実家か下宿先で生活するのが大半である学生が、家具を物色することはほとんどない。その大半の一人である俺に、用事のない家具フロアに白鳥を付き合わせる理由などあるはずがないのだ。
案の定、白鳥は胡乱な目を向けてきた。
「別にうちは金持ちではありませんし、家具に精通しているわけでもないので、お役には立てないと思いますよ。それに、あなたが下見をしても意味ないのではないですか? 購入するのはあなたのご両親なわけですし」
「買うのは親かもしれないけど、俺だって使うんだから意見する権利ぐらいはあるだろ? そのためにも、どんな商品があるのか知っておきたいんだ。ちょっとでいいんだ、付き合ってくれよ」
そう、少しの時間でいいのだ。フード男がこちらに付いてきているかどうかさえ確認できれば。
「別に嫌だとは言っていないでしょう。ちゃんと付き合いますから」
「ありがとう、助かる」
白鳥が折れてくれたので、理由は有耶無耶にしたまま放置して先へと進んだ。
フード男が俺たちを見つけやすいよう、店に入らず少し緩い速度で歩いていく。俺たちが標的かもしれないという一抹の不安が、呼吸を乱してくる。
ある程度進んだところで、店を眺めているかのように顔を横に向けながら、横目で後方を確認する。
――いた!
フード男は俺たちに付いてきていた。つまり、標的は俺か白鳥のどちらかだ。
ただ、俺は標的が白鳥であると確信していた。俺はあの男を知らないし、四十代そこいらのおじさんに恨まれるような覚えも、惚れられる覚えもない。それに対して白鳥には、誰もを惹き付ける絶対的な美貌を持っているのだ。ストーカーされるに余りある。
その確信と同時にある不安も覚えた。
それは、このフード男が白鳥の命に関わっているのではないか、ということだ。
白鳥のLPはもはや虫の息で、ほぼゲージがない。心臓発作といった突発的な病気が原因でないならば、彼女は事件か事故に巻き込まれるのだ。
そう考えると、今こうして彼女をストーキングしているであろうフード男が事件の発端となる可能性が高い。
白鳥を死なせるわけにはいかない。どうにか事が起きる前に、警察に突き出す方法はないだろうか。
「あの……いつになったら店に入るのですか?」
問い掛けてくる白鳥に俺は身を寄せる。肩と肩が触れ合った。
俺は安全な場所で考える時間がほしかった。
「ち、ちょっと、何をし……」
俺は深刻さが伝わるよう、静かに強い口調で、白鳥の言葉を遮った。
「白鳥、大事な話がある。黙って付いてきてくれ」
白鳥は俺の態度の変化から察してくれたのか、「分かりました」と一言小さく低い声で答えた。




