5話 ライフポイント
寿命が見えると分かってから、俺はとにかく自慢した。
家族はもちろん、友達や学校の先生、果ては道行く見知らぬ老人まで。
特殊能力を持っていることが嬉しくて有頂天になった俺は、黙ってなどいられなかった。
でも誰も信じてくれなかった。
大人たちはガキの戯言だと、端から相手にしてくれなかった。
「俺、人の寿命が見えるんだぜ」
そういうと友達は食いついてきた。
でも決まって、こう返してくるのだ。
「じゃぁ俺は何歳まで生きられるんだ?」
確かに俺には寿命が見える。でも、ゲージには目盛や数値がない。
だから、どれぐらい生きるかは分かるが、正確に何歳とまでは分からないのだ。
「えーっと、お前は長生きするぞ」
俺にはそうとしか言えなかった。
その言葉を聞くと、皆が呆れた表情を浮かべながら言うのだ。「嘘つき」と。
次第に皆が俺を避けるようになった。
俺が話し掛けると無視するくせに、俺に聞こえるように悪口を言ってくる。
付いたあだ名は『ホラ吹き』、実に安直だ。
罵詈雑言を嘲笑とともに受けながら、ほとぼりが冷めるまで必死に耐えた。
こうして俺は自然と寿命が見えることを言わなくなった。
皆が俺をバカにする中、幼馴染の涼介と杏奈だけはずっと味方でいてくれた。
だから 二人には、俺の能力を分かる範囲で全て話した。
人の頭上にゲージが浮かんでいること、そのゲージの長さが寿命であること、鏡越しや動画ではゲージが見えないこと。
話し終えると、二人は「凄いね」と俺を褒めてくれた。
こんなバカげた話を親身になって聞いてくれた上に褒めてくれたことで嬉しくて、俺はこの頃から浮上していたある悩みも打ち明けることにした。
「実はこの力について悩んでるんだ」
「どうして? 悩むところなんてある? 寿命が見えるなんて神様みたいじゃん」
杏奈は頬に指を当て、首を傾げる。
「一体どんな悩みかな? 無理にとは言わないけど、話せるなら話してほしいな。隼人の力になりたいからさ。」
「私も涼ちゃんと同じ気持ちだよ。隼人くんの力になりたい!」
「二人ともありがとう。なんか大袈裟になっちゃって言い出しにくいんだけどさ……。寿命が見える意味ってあるのかな、と思って」
それを聞いた二人は、顎に手を添え俯き加減に唸りだす。
数分唸った後、先に口を開いたのは涼介だった。
「意味って言われると難しいけど、時間が経てば能力が変化したりするんじゃないかな」
「ん? どういうこと?」
「さっき隼人は、寿命がまるでゲームのHpみたいに頭上に見えるって言ったよね? ゲームに出てくる特殊能力は、中には変異したり新たな能力が開花することもあるよね? もしかしたら隼人の能力もそうなるんじゃないかと思ってさ」
「きっとそうだよ! 今は寿命が見えるだけでも、そのうち凄い能力に進化してるよ! そのうち人の寿命変えられたりして」
杏奈が我が事のように喜んで飛び跳ねる。
「そうなると逆に怖いな。でも、そこまでとはいかなくても、何か変化してくれると嬉しいかな」
「どんな能力になるか楽しみだね。でもあまり期待しないでくれると助かるな。僕の意見はあくまでも想像だから。それと……」
涼介は真剣な表情を浮かべ、真っすぐに俺の目を見つめる。
「意味はきっと見出せる。僕たち三人がいれば、大丈夫だよ」
「三人寄れば文殊の知恵、だもんね」
「杏奈ちゃん、よくその言葉知ってたね。僕が言おうとしてたのに、決め台詞取られちゃったな」
「えへへ、凄いでしょ。昨日テレビでたまたま出たのをちゃんと覚えてたんだー」
三人で笑った後、涼介が不意に提案をしてきた。
「隼人に見えているそのゲージなんだけど、名前付けない?」
「名前? なんで?」
「なんかゲージって呼ぶのダサくない? ゲームみたいに見えているなら、せっかくだしゲームっぽい名前付けた方がおもしろいかなと思って」
「まー、それもそうだな。涼介は何か良いの考えてるのか?」
涼介は不敵な笑みを浮かべる。どうやら考えていたらしい。
「うん、もちろん。その名も、LP」
「えるぴぃー?」
俺の代わりに杏奈が鸚鵡返しに言う。
「そう、アルファベットでLP」
涼介が空中に指でLとPを書いた。
「LPってどういう意味なんだよ」
「隼人はこうも言ってたよね。まるでHPのように見える、ってね。隼人に見えるのは寿命。つまり、Lifeだ。だから、HPになぞらえてLPってわけ。どう? ゲージよりはマシだと思わない?」
「涼ちゃん、それいい! カッコいいよ! LP!」
「確かに。さすが涼介だ。今日からLPと呼ぶことにするよ」
この日から、人の頭上に見えているゲージは、LPになった。