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Life Point  作者: 青野 乃蒼


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49話 生きたい


白鳥は自身で言う通り、かなりの出不精らしい。

あれから二週間が経った今でも、外出の連絡は一度も入っていない。


その間、白鳥はきちんと学校に来ている。ただ、日に日に精神を消耗し、憔悴しきっていることは明白だった。顔は青白く頬はやつれ、目はどこか虚ろで目元にはうっすらクマができている。


会話はできるが、毎回回答がワンテンポ遅れて返ってくる。

あの威風堂々とした大和撫子は、今やその影も見えない。


何かしてあげたほうがいい、何か言ってあげた方がいいというのは分かっている。

でも、今の白鳥の気持ちを考えると、何の気休めにもならないことが目に見えてしまい、ただ見守ることしかできなかった。


そんなことを部活が終わった土曜の夜、ベッドの上で考えていると、はたと気付かされた。


――白鳥は外に出ないんじゃない、出られないんだ。


俺は完全に失念していた。

俺にはごく当たり前のことだが、白鳥には寿命が見えないのだ。


俺はLPが見えるので、対象の人物が数日以内に死ぬのか一ヶ月ほど余裕があるのかといった判別がつく。だからある程度の心積もりや準備ができる。

でも白鳥は違う。LPが見えないから、自分がいつ死ぬのかまるで分からない。あいつは俺が間抜けなせいで、あの日から、そしてこの今も、死の恐怖に丸腰で曝されているのだ。


LPが見えないのに、「寿命は後一ヶ月もない」「事件、事故」と言われて外出などできるはずがない。

俺は拳をベッドに思いきり振り下ろした。自分の不甲斐なさが心底憎い。


俺はこれで彼女を救えるかもしれないと慢心していた。まだ救ってもいないし為してもいないのに、どこか誇らしくも感じていた。

それがどうだ、その裏で彼女は、俺が打ち明けたせいで、感じる必要もなかった死の恐怖に苛まれ苦しみ続けている。


救うどころか、俺が彼女を苦しめていたのだ。

これでもし白鳥の寿命を変えられなかったら――。


そう思うと、誰かに縄で締め上げられたように胸の辺りが痛みだす。

込み上げてくる涙が視界を歪ませる。


それだけは絶対に許されない。英雄気取りだった俺は、今や彼女を苦しめている罪人だ。

犯した罪は消えない。だから一生をかけて償わなければならない。そのためにも、彼女には生きてもらわなければならないのだ。


何としてでも白鳥の寿命を変える。


濡れた目を袖で拭っていると、スマホから着信音が鳴った。

最近は電話をする機会がめっきり減ったので久しぶりの音だった。


画面を見ると、そこには白鳥怜の文字が表示されていた。

俺は急いでスマホを取り上げ、通話ボタンを押した。


「もしもし、どうしたんだよこんな時間に」


俺はさっきまで白鳥のことを考えていたことが悟られぬよう、平然を装った。


「……す、すみません。こんな時間では、迷惑でしたよね……」


蚊の鳴くような小さな声だった。

この原因は俺にあるんだと思うと、また胸が痛む。


「そんなことないだろ、学生ならこの時間でも平気で電話してるって。それより、体調とか大丈夫なのか? 最近元気がないように見えるけど」


さっきあれだけ猛省したというのに、月並みなことしか言えない自分が腹立たしくて仕方がない。


「ご心配をおかけして、すみません。でも……わ、私は……」


そこで会話が途切れた。電話の向こうで咳き込む音がする。

あれだけ消耗すれば、体調も崩すだろうと思った。


「私は、大丈夫、です、よ……」


詰まりながらも大丈夫と言った白鳥。でも大丈夫でないことは明らかだった。

彼女は泣いていた。隠そうとしているのかもしれないが、揺れる声音と洟をすする音はどうしたって隠せない。


俺の胸は更に締め付けられ、再び涙がせりあがってくる。でもここで泣くのはお門違いだ。

俺は絶対に流すまいと、口を噤んで必死に堪えた。


俺が喋らなかったからか、白鳥が続けて話しだす。


「私、まだ、やりたいことが、たくさんあるんです。……友達も、やっとできて、嬉しいんです……。だから……まだ生きたい、もっと生きたい……。死にたく、ない……」


白鳥はもう隠そうとしなかった。俺のことを憚ることなく嗚咽しながら、一心不乱に生を希求する。


俺はもう涙を堪えることができなかった。


彼女を泣かせてしまったことが悔しい。

堪えられず自分も泣いてしまったことが悔しい。

ここまで彼女を追い詰め、苦しめてしまったことが悔しい。

彼女に気の利いた言葉もかけてあげられないのが悔しい。

彼女に何もしてあげられないことが悔しい。

無力な自分が悔しい。


そんな自分に耐えられなくなった俺は、居ても立っても居られなくなった。


「白鳥、ちょっと待ってろ。今そっち行くから」

「えっ……」


白鳥の戸惑う声を無視して通話を切った後、俺は着の身着のまま玄関を飛び出して自転車に跨った。


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